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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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五九話 切られた火蓋

 一触即発の空気の中、僕は広場に集まった人間に投降を呼び掛ける。


「ベレスも、他の皆も聞いてほしい。こちらには()()()()()()()()()()。どう足掻いてもそちらに勝ち目はない。命までは取らないから大人しく投降してほしい」


 本来なら異性体の情報はギリギリまで伏せておくべきなのかも知れないが、どのみち情報を開示したところで僕たちに敗北の目はない。


 部隊員に説得が通じるとは思っていないが、広場に集まってきた軍人たちは別だ。現に軍人たちは、無惨にひしゃげた鉄扉を見て戦意を失いつつある。

 この常人離れした力を見れば異性体持ちという言葉にも信憑性があるはずだ。


「――貴様らは下がっていろ。これは我々が始末する」


 広場にベレスの静かな声が響いた。

 軍人たちでは無駄に命を散らすだけだと判断したのか、部隊だけで僕たちの相手をするつもりらしい。ベレスの声を受けた軍人たちは、明らかにホッとした様子で反論の声を上げることなく建物に走っていく。


 そして……やはりと言うべきか、ベレスたちには引く気は無いようだ。


 こちらに異性体持ちが居ると聞いても動揺が欠片もない。僕の言葉を信じていないのではなく、どちらであってもやる事は一緒だと思っているのだろう。


 部隊員であるカーラがこちらに居る事についても気にした様子はない。施設時代の僕たちを知っているので、カーラの離反は当然だと考えているのかも知れない。


「アロ、施設は落としたのか?」


 すぐにでも戦闘の火蓋が切られるのかと思いきや、ベレスは確認を取るように口を開いた。僕なら真っ先に施設へ向かう、と理解しているが故の質問だろう。


「うん。子供たちを強引に連れて来てるよ」

「……そうか。後で回収しておこう」


 僕の言葉の真意を察してくれたらしく、ベレスには子供たちを罰するような気配はない。頭が固い人間ではあるが、これでベレスは仲間想いな人間でもあるのだ。


 ……だからこそサクさんも、石頭のベレスを反乱の仲間に勧誘したのだろう。

 誤算だったのは、仲間への想いよりも神王への狂信が上回っていたという事だ。


 ベレスは他の何よりも神王を優先し、僕は神王よりも仲間の事を優先する。

 それ故に、僕たちの争いは避けられない。


「ガウス、ベレスは僕がやるから。残りの八人の部隊員をよろしくね」

「配分おかしいだろ……まぁ、良いけどな」


 ガウスは文句を言いつつも、どこか楽しげな笑みを浮かべている。

 もちろんこれは僕の無茶ぶりではない。ガウスなら問題無いと見込んでの事だ。


 この場の部隊員たちは影の能力を把握済みだが、そのどれもがガウスとは相性の良い相手なのだ。部隊員の能力については、彼らを視認した直後に伝達済みだ。


「――ニャッ!」


 開戦の合図はシュカの鳴き声。

 先代総長戦と同じく、風刃で集団を一掃しようという手だ。


「チッッ……!」


 無論、部隊は甘くない。

 事前に異性体の存在を告げたことで警戒していたのだろう、今回は部隊員一人を仕留めただけに留まっている。


 それでも牽制には充分だ。

 僕とガウスは風刃を追うように部隊の陣形に飛び込んでいる。


 風刃を回避した事で体勢が崩れていた部隊員。僕は体勢を取り戻す時間を与えることなく――ナイフで首筋を切り裂く。

 視界の端で確認してみると、ガウスも首尾よく一人を仕留めていた。


 綿密な打ち合わせがなくとも、僕たちの付き合いは長いので息が合っている。

 事前にガウスへ『八人をよろしく』と頼んではいるが、僕がベレスを無視して部隊員に襲い掛かってもガウスに戸惑いはない。


 僕とて都合良くベレスと一騎打ちに持ち込めるとは思っていないのだ。

 戦略的に考えて、部隊員たちが多対一の形を選ばない理由はないのである。

 僕が口にしたのは努力目標のようなもので、敵を惑わす意味を込めての発言だ。


 とりあえずはベレスに意識を傾けつつ部隊全体を相手取るのが先決となるが、早くも三人が脱落しているので幸先は良好だと言えるだろう。

 ただ正直に言えば、ベレス以外の部隊員は僕にもガウスにも脅威にならない。


 なにしろベレス以外は全て古株と呼べるメンバーであり、僕は彼らと交戦した経験があるのだ。影の特徴から闘い方のクセまで網羅している敵ともなれば、こちらが負ける要素はない。


 たとえば目の前の『竹馬』に乗った男。

 大人が竹馬に乗っている姿には緊張感を削がれるが、この影の能力は決して侮れない。この竹馬は速度特化の影。純粋な速度だけならガウスをも上回るはずだ。


 しかし先代総長の土弾もそうだが、一点に突き抜けた能力には欠点も生まれる。


 まず第一に、竹馬での超速移動の代償として両手が塞がるという点だ。

 竹馬の宿命と言うべきか、攻撃手段が蹴りや体当たりなどに限定されるのだ。

 それでも驚異的な速度があれば充分に脅威だが、もう一つの欠点が致命的だ。


 ――バンッ!

 僕が素早く銃を抜き撃った瞬間、唐突に竹馬男が目の前に現れた。

 僕の撃った銃弾は放たれた直後――男の身体に吸い込まれていった。


 これが、この竹馬の最大の欠点だ。

 この竹馬は初速から尋常ではない速度での移動を可能とするが、しかしその反面――直線的な動きしかできない。


 そして僕は男のクセを熟知している。

 そう、僕には移動動作の『起こり』が手に取るように分かるのだ。

 いくら速度が速くとも、動くタイミングが分かってしまえば問題にならない。


 消えるような移動速度とは対照的に、銃弾を受けた男はゆっくりと崩れ落ちた。

 竹馬男は決して弱い相手ではなかったが……やはりこちらが能力を把握しているというアドバンテージは大きかった。


「…………」


 ベレスたちは動きを止めていた。

 竹馬男は部隊でも最速の移動速度を誇るが、その部隊最速の男が完全に動きを読まれていた形だ。彼らが警戒して攻めあぐねるのも無理はない。


 部隊の残りは五人。既にそれぞれが影を召喚済みとなっている。

 どれも優れた影ではあるが、その能力はいずれも既知なので怖さはない。

 やはり一番警戒すべきなのは、ベレスの持っている『棒』だろう。


 長さ二メートルほどの黒い棒。

 武器系の影である事は分かるが、未だその固有能力は分からないままだ。


 ベレスは十五歳で総長の座に就いている。

 反乱計画を未然に防いだという功績があったにせよ、部隊を率いるだけの力量を持っていなければあり得ない話だ。……あの棒の能力は相当なものなのだろう。


 僕の感覚的に、この張り詰めた状態に無策で飛び込むのは危険な予感がする。

 一手目はシュカに陣形を崩してもらったが……同じ手は二度も通じないはずなので、新たな一手を打つ必要がありそうだ。


明日も夜に投稿予定。

次回、六十話〔映らない怒り〕

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