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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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五七話 終末発電所

 大勢の子供を連れた旅路は賑やかだ。

 人通りのない内都の外れを突風のように駆け抜けつつも、疲れ知らずな子供たちは騒がしい歓談の声を止めていない。


 僕という存在にも慣れてきたのか、子供たちも会話に応じてくれるようになりつつあったが……しかし、穏やかな時間は半日も経たない内に終わりを迎えた。

 僕たちは終末発電所を視界に捉えたのだ。


 先に訪れた施設は、子供の養育場所と言うよりは『刑務所』のような外観だったが、終末発電所の外観も発電施設とは思えないものだ。


 巨大な山の一部を切り取って、そこに建築物を嵌め込んだかのような外容。

 内都各地への送電は地中送電線を介しているという事もあって、外観を見る限りでは発電所感らしきものが全くない。


 正面には頑健そうな鉄門があるばかりか、その上部には砲台まで設置されている。これはどう見ても発電所ではなく、『要塞』と呼ぶべき代物だ。


「海に面した発電所なら分かるが、山に面した発電所なんて初めて見たぞ……」


 ガウスは呆れているような感想を漏らしている。

 実際、火力発電所などであれば海沿いに建設するのが基本だ。これは発電サイクルで必要とする冷却水に海水を利用しているからだ。


「終末炉の仕組みは詳しくは知らないけど……複数の人間から魔力を取り出してその魔力同士を衝突させると、特定の組み合わせで電流が発生するって聞いてるよ」

「磁力で発電するようなもんか。……磁石代わりにされる人間は堪らねぇが」


 かつての反乱の首謀者だったサクさんの話では、終末炉で魔力を奪われ続けると人体の消耗が激しいとの事だった。

 個人差はあっても……長くとも二十年ほどで死亡する、と聞いている。


 終末炉の犠牲になっているのは、部隊員にとっても家族同然と呼べる仲間だ。

 なぜそんなものを部隊が守護しているのか僕には全く理解できないが、おそらくそれはお互い様なのだろう。


 神王を狂信している彼らからすれば、終末炉での死を『誉れ高い殉教』のように考えていてもおかしくはない。


 少なくとも……現在の総長であるベレスは、そのような思想を持っていた。

 そしてそのベレスは、今この時も終末発電所に居る可能性が高いはずだ。


「ともかく、あそこは発電所であると同時に『部隊の本拠地』でもある場所だからね。もしかすると神都よりも守りが堅いかも知れないよ」


 部隊は神国の最大戦力にも関わらず、その拠点は神王が居る神都ではなく、終末発電所だ。ここが神国の重要施設であるにしても不自然に感じるところだが、これは――神王が他人を信用していないからだと思っている。


 神王は国のトップでありながら護衛の人間が少なく、部隊の中でも限られた数名だけを身近に置いているらしいのだ。

 部隊は神王を殺害可能なほどの力を持っているので、平時は遠ざけておきたいと考えているのだろう。……部隊員の多くは狂信的な忠誠を捧げているのだが。


 もちろんこれは僕の想像であって確証はないが、これまでの神王の行状から判断して確度の高い推察だと考えている。


「部隊の本拠地だろうとなんだろうと、俺たちがやる事は同じなんだろ?」


 要塞のような部隊の総本山に向かうという局面であっても、やはりガウスは変わらない。圧倒的な自負心に支えられているのか、終末発電所の攻略が成功に終わることを確信しているような様子だ。


「そうだね。施設の時と同じ要領で行こう」


 遠くから発電所を見る限りでは、近付く者を片っ端から砲撃するような警戒態勢は取っていない。施設の変事についての報せは届いていない雰囲気だ。 


 施設の守衛を逃してはいるが、彼らは予想通り異常事態をどこにも知らせなかったのだろう。終末発電所が戦場になる事も予想出来たはずなので、発電所には尚更近付く気にならなかったはずだ。


 理想としては、終末発電所の解放後も警戒されないまま神都の神王を倒しに行きたいところだが……流石に内都の電力を担っている終末炉を止めるともなれば、神都に異変が伝わることは避けられない。


「それでは、コヅチさんたちはここで待っててもらえますか? 万が一にも僕とガウスが負けるような事になれば、『脅されて連れてこられた』と伝えて下さい」

「アロが倒れる姿は想像もできないが……分かった、そうさせてもらう」


 施設の子供たちをこの場に連れてきたのは、終末炉の真実を自分の目で確かめてもらう為だ。戦力として利用する気は毛頭ないので、戦闘に巻き込まない為にも離れてもらう必要がある。

 先代総長のように、周囲を巻き込む影持ちが居たら取り返しがつかないのだ。


「――お兄ちゃん、早く行こうよ!」


 カーラが待ち切れない様子で僕を急かす。

 個人的な心情としてはカーラにもここで待機してもらいたいが、発電所には怪我を負った仲間が居る可能性もある。カーラが同行してくれるのは助かるところだ。


 テーマパークに向かう子供のような高揚感があるのは気になるが、緊張して動きが固くなっているよりは歓迎すべき事なのだろう。

 しかしカーラに急かされてはいるが、出発を遅滞させているのは僕ではない。


『ガウスお兄ちゃん……』 

『アロには気を付けてください……』


 すっかり子供たちの人気者になっているガウス。

 このガウスが子供たちの集団に囲まれているので出発できないのだ。


 イケメンに惹かれているのか女の子が中心となっているが、さりげなく扇動少年なども輪に混じって良からぬことを吹き込んでいる。


 しかし……異性体持ちという事なら僕も一緒なのに、なぜ僕はガウスのように身を案じる言葉を掛けてもらえないのだろうか?

 少しは子供たちも僕に心を開いてくれたと思っていたが、僕とカーラに近付く子供はいないのにガウスの周りは人だかりだ。


 この光景はまるで――アイドルグループの握手会格差……!


 隣のアイドルには握手待ちの行列が出来ているのに、自分の前には誰も居ないという残酷さ。握手会に備えてエア握手で腕を磨いていたのかも知れないのに、練習のやり過ぎで腱鞘炎になっているかも知れないのに……!


「――おい、行くぞアロン」


 おっと、いかんいかん。

 不遇なアイドルの事を心配し過ぎて意識が飛んでいた。引退後の就職活動の手助けを考えている場合ではなかった。僕は自分の事を優先しなくてはならないのだ。


明日も夜に投稿予定。

次回、五八話〔因縁の再会〕

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