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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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五三話 引きこもるべき存在

「――う、うそを吐くなっ!」


 幼い子供の言葉が僕に刺さった。

 施設出所後に待っている絶望について語った直後、嘘吐き認定された形だ。

 多少僕の心が傷付けられたが……しかし、これは概ね想定通りの反応ではある。


 施設出身者で部隊に選ばなかった者は『他所で働いている』という名目になっていたが、それが終末炉や終末の槍の燃料として使い捨てにされているという話だ。

 そんな話を初めて会った人間に聞かされれば、信じられないのも無理はない。


 しかし見識が狭い幼子ならともかく、長く施設を見届けてきた人間は違う。


「……その話は本当か、アロ」


 この部屋の最年長であるコヅチさん。

 真偽を問い掛けてきてはいるが、きっと彼の中では既に答えが出ているはずだ。


 コヅチさんの反応は信じられない話を聞いたようなものではなく、疑惑が確信に変わったような雰囲気があるのだ。


「コヅチさん……。これまでこの施設を出所した人で会った事のある人はいますか? もちろん部隊の人たちを除いて、です」


 僕はコヅチさんの質問に直接答えることなく、逆に質問を返した。

 これは子供たちに事実を認識させる事が目的だ。

 当然の事ながら、この質問の答えは聞くまでもなく分かっている。


「いない……な。部隊以外では、ここを出た人間とは会った事がない」


 部隊に入隊した者なら出所後も顔を合わせる機会はある。施設に常駐する部隊員の交代という形が多いが、部隊員であれば施設出所後も相まみえる事はあるのだ。


 しかし、その他の人間については違う。ここが隔離された施設だとしても、消息が分かる者が一人も存在しないというのは異常だ。

 子供たちに比べて権限のあるコヅチさんですら消息を知らないのであれば、僕の語った話に信憑性が出てくるはずだろう。


『そんな、だって……』

『でもコヅチさんが……』


 コヅチさんが僕の言葉を受け入れつつあるのを察したのか、子供たちの間で不安が広がっている。僕とカーラが不安にさせたような刹那的なものではなく、将来を不安視しているような類のものだ。


 だが、こんな時こそ僕の出番だ。

 僕は子供たちに不安を届ける為に来たのではなく、彼らの未来を切り開く為に来たのだ。ここで動かずして、いつ動くというのか。


「ヘイ、心配は要らないよ! 僕は君たちを助けに来たんだからね!」

「オレは厄災の言う事なんか信じないぞっ! 厄災なんかに付いて行ったら皆殺しにされるだけだ!」


 僕が明るく子供たちに声を届けると、またしても扇動少年が立ちはだかった。

 僕になんの恨みがあるのか分からないが、得意の煽りで子供たちの思考誘導を行うという悪辣さだ。どこから皆殺しという発想が出てくるのか不思議でならない。


 しかし、僕は卑劣な策謀には屈しない。


「おやおや、いい加減な事を言ってはいけないよ。それに君たちを殺すのであれば、わざわざ連れ出さなくても……」

「――カーラがやるーっ!」


 僕がこんこんと少年に言い聞かせていると、血塗れのカーラが動いてしまった。

 口答えする者はとりあえず殺す、という脅威の教育方針をしているカーラ先生は――両手に治癒石を生み出した!


「駄目だ殺されるっ!! オレたちは皆殺しだぁぁぁっ!!」


 条件反射的に不安を煽る扇動少年。

 自分が殺される危機ではなく『皆殺し』を印象付けるところに天才性を感じる。


 過去に施設でも治癒石殺人を犯した前科があるのか、たちまち部屋中は大パニックになった。……うむ、癒やしの象徴である治癒石を見た反応とは思えないぞ。


 ……いや、冷静に分析している場合ではない。

 カーラの殺人スコアを増やす訳にはいかないし、その対象が子供たちとなればもっての他だ。ここで子供たちを殺傷していたら何の為に来たのか分からない。


 僕はカーラへ一気に距離を詰める。

 そして引きこもりのブレイン君を『コンニチハ!』させてしまう前に――ズビシッ、と治癒石を床に叩き落とした。


「あっっ」


 カーラは驚きの声を上げるが、しかしこれはやむを得ない措置だ。

 そう、ブレイン君は頭蓋骨から出てはいけない存在なのだ……!


 僕はそこで止まらない。

 張本人であるカーラを止めなければ、また強制的に引きこもりから引き摺り出される被害者が生まれる可能性がある。


 僕は戸惑っているカーラの肩を掴んで、そのままクルリと背後に回る。そして背後から抱き留めるように両腕をホールド――血塗れのカーラ、引っ捕らえたり!


「うわぁぁぁ~っ」


 カーラは驚いているのか喜んでいるのか分からない声を上げている。

 両腕をホールドされて振りほどかないところからすると、後者かも知れない。

 今の僕では本気で暴れられると抑え切れないのだが、幸いにもカーラは殺人衝動を抑えて落ち着きを取り戻してくれたようだ。


 カーラは施設でも上位に入る高魔力保有者。

 純粋な身体能力の高さは施設でも有数なので、本気で暴れ出したら僕どころか施設の子供たちでもカーラを押さえることは難しいはずだろう。


 犠牲者が出なかった事には安堵する思いだ。

 まったく……なぜこの子はすぐに凶器を出してしまうのか。影の召喚ともなると突然現れてしまうので困ったものだ。


 カーラを見ていると、影召喚に年齢制限を設けている事の意味がよく分かる。

 僕は影召喚を心待ちにしていたので煩わしい制限だと思っていたが、決められているルールには確かに意味があったのだ。

 

 むしろカーラに影召喚は早過ぎた。

 なぜ神国はカーラに影召喚の許可を与えてしまったのか。過去の被害者たちの死は、影召喚を許可した神国のせいだと言えなくもない。うむ、全て神国が悪い!


 今回に限っては未遂なので、治癒石を出した後に穏当な説得に移っていたという可能性も微少ながら存在するが……それを子供たちの身体で確かめるのは論外だ。

 説得の後に『ワカッタ!』と素直な返事が返ってきたとしても、それがブレイン君の声であっては意味がないのだ。 


明日も夜に投稿予定。

次回、五四話〔現れてしまう特別〕

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