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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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五一話 見つけてしまった光明

 僕は反対意見を全て聞き流し、圧倒的な自信に支えられて部屋の扉を開ける。


「――皆さん、こんにちは! おっと、お前は誰だって顔だね? 僕の名はアロン=エルブロード。この施設に居た頃は『アロ』と呼ばれていた者さ」


 部屋に入るなり絶好調で自己紹介してしまう僕。

 部屋の中には三十人くらいの子供たちが机に向かっていたが、突然現れた僕という存在にポカンとしている。


 この施設では――十四歳での影召喚を終えると、部隊入隊などの進路が決まって出所する形だ。必然的にこの部屋には僕より年下の子供しか存在しないが、しかしそれでも見覚えのある顔がちらほら散見される。


「やぁ、久し振りだね! 元気にしてたかな?」


 僕は少年へ親しげに声を掛けた。

 僕の二つ年下の少年であり、訓練で何度か拳を交わした仲でもある少年だ。

 少年の方も僕の事を思い出してくれたのか、顔色を変えて大声を上げる。


「ア、アロッ! 厄災のアロだっ!」


 少年が僕に指を差して叫ぶと、困惑気味だった部屋の空気が変わった。

 夜道で暴漢に出くわしたような悲鳴を上げる少女。夜中に幽霊を目撃したような顔色になる幼子。……どう贔屓目に見ても好意的な反応ではなかった。


 おかしい……これは明らかにおかしい。

 百歩どころか千歩譲って、僕と顔見知りである子供たちの反応はまだ少しは理解出来る。僕が施設時代に一部の子供から怯えられていたのは事実だ。


 しかし、なぜ会った事もない年端もいかぬ子供にまで恐れられているのか?


 彼らとは完全に初対面。

 フレンドリーに入室した事もあって、怯えられる要素など全く無いはずだ。

 施設の子供たちは物事に動じない子が多いはずなので、尚更に不自然である。


 ――いや、待てよ。


 僕はこれに近い事例を本で読んだ事がある――そう、集団パニックだ。

 集団の中で一人が恐慌状態に陥ると、雰囲気に酔うような形で連鎖的に恐慌が広がるというものだ。多感な子供に起きやすいと本に書いてあったので、条件的にも可能性が高い。


 だが症状が分かったところで対応が難しい。

 僕に出来るのは、全員が落ち着くまで静かに待つくらいのものだろう。


 しかし……それでいいのか?

 コヅチさんに成長した僕を見てもらうはずだったのに、こんなみっともない結果に終わってしまっていいのか?


 そうだ、まだ諦めるのは早い。

 こんな状況だからこそ、進化した僕の手腕を見せつける絶好のチャンスだ。

 まず対処すべきは――こんな事になってしまった原因からだろう。


 僕を指差して『厄災のアロだっ!』などと皆の不安を煽った少年。

 彼こそが、全ての発端である扇動者だ。

 逆に考えれば、彼を静かにさせれば連鎖的に皆も落ち着く可能性がある。


 見えた――解決の光明、見つけたり……!


 僕は扇動者の少年へ軽やかに近付く。

 もちろん不安にさせないようにニコニコと笑顔を浮かべたままだ。


「ひぃっ!! た、助け……もごっ」


 彼は得意の扇動で更なる不安を煽ろうとしていたが、同じ手は二度も通じない。

 少年は『ヘルプミー!』と叫ぼうとしていたので咄嗟に手で口を塞いだのだ。


 よしよし、まずは順調な滑り出しだ。

 あとは彼をビックリさせないように冷静な声で語り掛けるのみだろう。


「――――静かに。声を上げないように」


 僕が静かに耳元で(ささや)くと、少年は顔を真っ白にさせて動きを止めた。

 少年だけではない。周囲の子供も彼に引っ張られるように口を閉ざしている。


 うむ、やはり扇動者を抑えるという考えは正しかったようだ。

 あとは優しく言い聞かせるのみだ。


「今から手を外すけど、決して大声を上げないって約束してくれるかな?」


 壊れ物に触るような僕の優しい問い掛けに、少年は必死の形相で頷いた。

 会話だけを切り取ると〔自宅に押し入った強盗犯〕に近しいものを感じるが、もちろんそんな事はない。僕の温かい声によって少年は冷静さを取り戻したのだ。


「そ、その靴は……」


 少年は周囲を見る余裕が生まれたらしく、僕の履いている靴に目を留めた。


 僕には彼の考えている事が分かる。

 部隊しか履いていない特別な靴。僕はそんな靴を履いているばかりか、しかも厳重な警備が敷かれているはずの施設に居る。


 つまりそれは、施設の警備をしていた()()()()()()()という事を意味する。

 ならば少年が考えている事は明らかだ――『部隊の死体は埋葬したのかな?』


 そう、死体の処理である……!


 屋外に死体を放置しておけば魔獣を呼び寄せる要因になりかねない。

 少年の瞳が不安そうに揺れているのは僕に怯えているからではない。施設の周辺環境が心配で仕方がないからなのだ。


 部隊の靴を見ただけでそんな心配をするとは……なんと立派な心意気だろうか。


「ふっふっふっ……安心してよ。顔見知りの死体が魔獣に食い荒らされるのは忍びないからね、ちゃんと五人とも土の中に埋めてきてるよ」

「ひぃっっ……」


 おや? なんだこの反応は。

 安心させる為の言葉のはずが、少年は怯えを強くしてガタガタ震えている。

 彼ばかりか、周囲の子供たちからも距離を取られている有様である。


 ……ひょっとすると、アレだろうか?


 部隊は施設の子供たちの戦闘訓練を務めていたが、その訓練は能力の低い子供の『間引き』も兼ねていた。

 苛烈な訓練は多くの子供たちの命を奪っていた事から、子供たちにとって部隊は恐怖の象徴となっていたのである。


 つまり、僕が部隊を倒した事で――部隊への恐怖を引き継いだ、という訳だ。


 しかしそれにしても怯え過ぎだ。

 初対面の幼い子供までお漏らししそうな様相を呈しているのだ。

 施設の皆を救けにきたはずなのに、これでは凶悪犯が侵入したような扱いだ。

 

 ――んん?


 妙だな……。

 よくよく見れば、彼らの視線が微妙に僕からズレているような……?

 子供たちの視線は、僕の背後に向いている。そこには――漆黒のモヤモヤ!

 

 なんてことだ……フェリには部屋の前で待機を頼んだつもりだったが、背後霊の如く付いてきてしまったようだ。フェリの気配は希薄なので気が付かなかった。


 だが、これで謎は全て解けた。


 それでなくとも『厄災』などと呼ばれて悪い印象のある僕。そんな人間がモヤモヤの暗闇を背負って現れれば、子供たちの恐怖を煽ったとしてもおかしくはない。

 客観的に見ると、フェリは邪悪そうなエフェクトに見えなくもないのだ。


 しかし、存在しているだけのフェリを責めるわけにもいかないだろう。

 言うなれば、生まれつき体臭が強い人が迫害を受けるようなものだ。


 真面目に商店で働いていたにも関わらず、『君さぁ、体臭がキツいって客からクレームきてんだよね。辞めてくれる?』と理不尽なリストラを受けることに近い。


 それは本当に酷い話だ。考えるだけで許せない気持ちが溢れてくる…………許せない、クビになったら客として難癖つけてやる!


 ……おっと、いかんいかん。

 感情移入が行き過ぎてカスタマーハラスメントをしてしまうところだった。

 うむ、誰もがモンスタークレーマーになる資質を秘めているという事だろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、五二話〔煌めいてしまう才能〕

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