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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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五十話 炎上させないクレーマー

「ところでアロ。その後ろの黒い(もや)は……もしかして、影なのか?」


 コヅチさんの興味の対象はフェリへ移った。

 そう、フェリは部隊との戦闘を終えてからモヤモヤ形態のままなのだ。


 施設内で手の内を隠すべき相手もいないのでそのままにしていたが、流石に僕の背後でモヤモヤしていれば気になるのも当然だろう。


「はい、僕の影のフェリです。ただのモヤモヤではありませんよ? なんとこのフェリ、異性体なんですよ!」

「せ、生物なのか?」


 異性体云々(うんぬん)よりも、生物である事に疑問を持ってしまったようだ。

 もう僕などは疑問を抱くという段階を通り過ぎてしまっているが、本来はコヅチさんのこの反応が正常なものなのだろう。


 個人的には『すごーい!』という称賛的な反応が飛んでくるのを期待していたが、異性体と聞いてすぐにフェリへ触ろうとしたカーラが異質だったのだ。

 コヅチさんは称賛するどころか謎のモヤモヤを恐れている気配がある。


 こんな時はフェリに『よろしくモヤー!』とばかりに友好的なアクションを取ってもらいたいところだが、フェリは無関心にモヤっているので期待はできない。


 仕方ない……フェリに関しては時間を掛けて慣れてもらうという事で、もう一人の新顔の紹介をしておくとしよう。


「それから、こちらの男が親友のガウスです。小癪(こしゃく)で無作法な小僧ではありますが、これで性根は優しい男なんですよ」

「誰が小僧だよ」


 もちろん誤解されやすい親友のフォローは欠かさない。ガウスは年長者が相手でも不遜な態度を取る男なので、友人として口添えしておくのは必須なのだ。


「ガウス=アーメットだ。まぁ、こいつらの保護者みたいなもんだな」

「アロとカーラの保護者か…………それは、大変だな」


 おのれガウスめ、いい加減な事を……。

 立派な問題児のくせに、僕とカーラの保護者を気取っているとはふてぶてしい。


 コヅチさんは感心している様子だが、これはカーラのお世話をしていただけあって苦労が身に沁みているからだろう。

 僕の名前が含まれている事とは関係ないはずだ。


「コヅチちゃん久しぶり! カーラだよっ!」


 皆と同じ波に乗りたくなったのか、なぜか自己紹介をしてしまうカーラ。

 カーラも年長者相手に態度を変えるような事はない。今は亡き上司の古参部隊員にも同じ調子だったという剛の者である。


「ああ、久しぶりだねカーラ。……しかし今日は一体どうしたんだ? なぜカーラとアロが一緒なんだ?」


 実にもっともな疑問だ。

 部隊の一人とは言え、施設の警備をしている訳ではないカーラ。

 十年前に死亡が伝えられていた僕。そして、明らかな部外者であるガウス。


 このよく分からない組み合わせが白昼堂々と訪問してきたのだから、コヅチさんが疑問に思うのも当然の事ではある。


 しかし……終末炉の件などを一から説明するとなると長い話になる。

 まだ部屋の子供たちは騒いでいないようだが、教師であるコヅチさんを廊下で長時間拘束する訳にはいかないだろう。


「……そうですね。色々と話したい事も多いですから、部屋の皆にも一緒に聞いてもらいましょう」


 当初はコヅチさん経由で施設の子供たちに説明してもらおうかと考えていたが、今の僕は考えを変えている。今の僕には自信が生まれていたのだ。


 ここに来るまでは、施設の友人に拒絶される可能性を密かに心配していた。


 だが、そんな心配は杞憂に過ぎなかった。

 コヅチさんは僕との再会を大いに喜んでくれた――そう、僕は存在を肯定してもらった事で強固な自信を持ったのだ。


 今の僕はもはや無敵。何も恐いものなどない。

 わざわざコヅチさんを経由して子供たちに説明してもらうのは二度手間だ。

 僕が(まと)めて事情を説明させてもらうとしよう。


「すみませんコヅチさん、ちょっとここで待っててもらえますか? ここは僕が先に皆へ挨拶をしますから」

「えっ、それは……」


 不安そうな様子のコヅチさん。

 しかしその気持ちは理解出来る。

 客観的に見て、昔の僕に若干コミュ障なところがあったのは否定できないのだ。


 今思えば当時の僕は恥ずかしいほどに未熟だったが、しかし今の僕は違う。

 バンドル先生の著書を熟読したことに加えて、実際に多くの会話経験を積んだ。

 そう、僕は飛躍的な成長を遂げたのである。


「止めとけアロン。嫌な予感しかしねぇ」


 立派なモンスタークレーマーになる資質を秘めているガウスが、例によってイチャモンを付けてきた。親友が店員に土下座をさせるような人間にならないか心配だが、僕が傍にいる限りはガウスを曲がった道に進ませはしない。


「安心してよガウス。時には店員の味方をする事もあるだろうけど、僕は基本的にはガウスの味方だからね!」

「既に話が通じてねぇ奴のどこに安心しろってんだよ。なんだよ店員って……」


 僕に面と向かって味方宣言された事に照れているのだろう、ガウスはいつものように照れ隠しの悪態を吐いている。


 僕の将来のサポート計画に隙はない。ガウスの反社会的な行動が大問題になった際には、店員への謝罪に同行するところまで想定している。

 必要なら、僕が土下座して謝罪する事もやぶさかではない……!


 ……いや、それではただの自己満足か。

 危ない危ない、僕とした事がバンドル先生の教えを忘れるところだった。


 謝罪技術については〔百人と示談を成立させる本〕でしっかり学んでいる。

 どんな生き方をしていたら百人もの人間と訴訟問題になるのかは不明だが、あの本には確かに真理が書いてあった。


 謝罪に必要なのは口先の言葉ではない。

 見せるべきは誠意。バンドル先生の本にその答えはあった――『卑しい彼らが求めているのは一つ――そう、お金です!』


 実は先生は人間嫌いなのではないか? と心配になってしまうところだが、基本的にバンドル先生の言葉に間違いはない。

 誠意を込めて謝罪するよりも、『これが目当てなんでしょう?』とお札で頬を叩く方が効果的というのは悲しい現実だが、先生の言葉なら認めざるを得ない。


 よくガウスには『こんな下らねぇもん読むな!』と暴言を吐かれるが、それでも僕は親友を見捨てたりはしない。ふふ……ガウスが炎上して職場を退職に追い込まれるような事態にはさせないぞ。


明日も夜に投稿予定。

次回、五一話〔見つけてしまった光明〕

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