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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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四八話 戦利品

 ガウスは亡くなった総長に黙祷(もくとう)を捧げるように目を閉じている。

 おそらくガウスは、総長の愚直なまでの純粋さが嫌いではなかったのだろう。

 

 僕とて総長に殺されそうになったりもしたが、決して嫌いな人ではなかった。

 総長に限らず、僕は部隊の面々に個人的な悪感情を抱いてはいない。

 彼らとは価値観の違いで対立しているだけであって、特に嫌う理由はないのだ。


 勝手な話だが、部隊には悪人の集団であってほしかったと思っているほどだ。

 彼らが部隊衆のように己の欲望のままに生きているような存在だったならば、もっと気兼ねなく闘えたはずだろう。

 ……そんな事を考えると、自分で自分の身勝手さが嫌になる。 


「……ったく、こいつらと比べるとアロンがまともな人間に見えてくるな」


 ガウスは重々しい雰囲気から一転して、急にふざけた事を言い出した。

 僕の沈み込んだ雰囲気を察して、いつものように気を遣ってくれたのだろう。

 まったく……僕のようなどうしようもない人間には勿体ない友人だ。


「本当にガウスは失礼な奴だなぁ……。まぁそれより、ガウスも部隊の靴を回収した方が良いよ」

「靴……? なんで靴なんか回収すんだよ?」


 僕が気持ちを切り替えて提案すると、ガウスは訝しげな様子で聞いてきた。

 ……そういえば靴の事を伝えていなかった。


 部隊が履いている靴には()()()()()()が施されているのだが、その事を知らなければガウスのこの反応も無理からぬところだ。 


「ごめんごめん、ガウスには説明してなかったね。僕にとっては当たり前の事だったから忘れてたよ」


 本来なら部隊に関する情報は余さず伝えておくべきだったが、最重要である影の情報を伝えることに傾倒しすぎて失念していた。

 ガウスには不必要な情報であったとしても、万全を期しておくべきだった。


「説明するより実際に見てもらった方が早いかな? 見てなよガウス」


 僕は死亡している手袋男へ歩み寄り、彼の履いていた靴を脱がせていく。

 まだ温かさの残る靴に抵抗を感じつつ、奪取した靴へと履き替える。

 ……うむ、体格が近いだけあってサイズがぴったりだ。


「死体から靴を剥ぎ取るのかよ……。ますます盗賊じみてきたな」


 ガウスがなにやら文句を言っているが、これは自然の節理のようなものだ。

 いわばこれも一つの弱肉強食。僕とて敗北した後に身ぐるみ剥がされても文句など言わない。それにこの靴は、倫理的抵抗感を覚えてでも手に入れる価値がある。


 僕は靴を履いた状態で足の指を動かす――


 ――シャキン!


 足の指で器用に操作すると、靴の先端から()()()()()()()()()()()

 靴に隠された刃――これこそが、部隊が履いている靴に施されたギミックだ。


 慣れるまでは歩くだけでも刃が出てしまうものらしいが、上手く使いこなせれば蹴りの途中にも刃が出せる。戦力差がある相手には効果が薄いが、戦力が拮抗している相手なら勝敗を分ける奥の手にもなるはずだろう。


「ええ〜、なにそれ〜〜っ!」


 なぜか部隊員なのにギミックを知らないカーラ。

 教えてもらって忘れているのかな? と思いきや、よくよくカーラの靴を見てみると、その靴にはギミックが付いていなかった。


 部隊全員の靴に標準装備されているものと思っていたが、どうやらそうでは無かったようだ。カーラが部隊には珍しい女性隊員だからなのか……或いは、この子が近接戦闘向けではないからなのかも知れない。


 正直に言えば、カーラは剣という武器を持たせるだけでも不安な子なので、余計な武器を持たせていないのは英断だと言える。


「まぁまぁ、カーラには武器なんか要らないよ」


 それでなくともカーラは抜き身の刃のようにキレッキレな子だ。

 全身武装のような靴まで持たせるのは不必要な死体を増やすだけだろう。

 不平を訴えるカーラをよしよしと宥めつつ、ガウスの方へ話を振る。


「ガウスは要らないの? そっちの人なんかは靴のサイズも合いそうだけど」


 靴の中に仕掛けがあるだけあって、サイズが少し違うだけで役に立たない物だ。

 以前にカーラが撲殺してしまった古参部隊員の靴。あれも僕とはサイズが異なるという理由で断念したのだ。……血溜まりに浸かっていて履きたくなかったという理由もあるが。


「俺には必要ねぇな。慣れた靴の方が動きやすいしよ」


 ガウスはあっさりと拒絶する。

 部隊の靴は若干重いので分からなくもない。


 それに、ガウスにこのような小細工は必要ないというのも事実だ。

 僕は身体能力が低下しているので武器が必要となるが、ガウスの場合は直接相手を殴っても充分に殺傷力がある。


「うん、分かった。じゃあ施設に行こうか」


 しっかり戦力の拡充を図ったところで、いよいよ目的地の施設だ。

 最大の障害だった部隊は消えた。もはや僕たちを止められる者は存在しない。

 一応は施設の守衛が残ってはいるものの、彼らは僕たちの脅威ではないのだ。


 実際、施設から様子を(うかが)っていた守衛たちは部隊の敗北を見て逃げ始めている。

 情報秘匿を徹底するなら、ここで彼らを捕らえておくべきなのかも知れないが……おそらく放って置いても問題は無いはずだ。


 ここで守衛を見逃しても問題無い、と判断する根拠は他でもない。

 彼らは『神国に異常事態を報告しない可能性が高い』と考えているからだ。


 神国民には『問題が起きても内々で片付けよう』という考えを持っている者が多く、問題が表出化することを異常なまでに恐れている者が多いのだ。


 その要因になっているのは、神王だ。  

 職務を果たせず神王に『無能』の烙印を押される事を、神国民は恐れている。

 神王に無能と判断された者は、問答無用で処分の対象となってしまうからだ。

 

 常識的に考えれば、部隊が敗北するような相手ではどうにもならないはずだが、神王にその弁明が通じるかどうかは別の問題だ。

 施設を守るべき守衛が、敵と交戦する事なく逃げているというのも心証が悪い。


 守衛たちが神王の勘気(かんき)に触れることを恐れて『施設襲撃』の報告を上げない可能性は充分にあるだろう。……隠したところで事態が悪化するだけなのだが。


 それにどのみち僕たちは、これから先の行動に時間を掛けるつもりはない。

 友人を救出した暁には、すぐに神王の元へ向かうつもりでいる。仮に襲撃の報が上げられたとしても、悠長に迎撃態勢を取らせる暇など与えはしない。


 当面の問題は、施設の友人たちの説得くらいのものだろう。


「よし、カーラ君。ここから先は君の活躍に期待しているよ!」

「うんっ!」


 他力本願ではあるが、これは致し方ない。

 僕が施設を離れたのは十年前。現在の施設にも友人は残っているはずだが、基本的には僕と面識の無い子供たちが大半だ。


 そこでカーラの出番である。

 つい最近まで施設で過ごしていたカーラなら、顔見知りであるこの子なら、施設の子供たちに警戒される事もないだろう。


「任せてよお兄ちゃん。言うこと聞かない子はお仕置きしちゃうから!」

「お、お仕置きは止めておこうね……うん、絶対に止めておこう」


 カーラから不吉な言葉が出てきたので、すかさず釘を刺しておく。

 この子には倫理観というものが存在しない。

 危険を匂わせるワードが出てきた時は要注意だ。


 ゴスッ、ゴスッ――『これで悪い子がいなくなったよ!』なんて事態になってしまったら目も当てられない。

 口答えをする人間は殺す、という戦慄的思想を持つカーラなのだから、兄貴分として目を光らせておく必要があるのだ。


 しかし……このままカーラに説得に任せてよいものだろうか?

 この張り切り具合を見る限り、なにやら血の雨が降りそうな予感がする。

 ……うむ、これは子供たちの為にもプランを再考すべきかも知れない。


明日も夜に投稿予定。

次回、四九話〔思わぬ再会〕

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