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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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四七話 異なった価値観

 無事に手袋男と防護服男を撃破する事が出来たが、これは僕だけの力ではない。

 部隊員二人が相手となると、僕一人だけでは苦戦を強いられていた事だろう。


「ありがとうフェリ。おかげですごく助かったよ」


 影の功労者とも言うべきフェリにお礼を告げるのも当然だ。

 フェリが『秘技、リアル暗中模索!』を繰り出してくれたおかげで、僕は各個撃破という余裕を持った闘いが出来たのである。


 そのフェリは僕の言葉を聞いて――なぜか、黒球形態へと変化した。


 んん? 久し振りの黒球形態だ。

 この流れで物質化したという事は『いい子いい子』と撫でてもらいたいのかな?


 よし、喜んで応えてみせようと手を伸ばすと――フェリはススッと逃げる。

 そして音もなく僕の背後に浮遊して、僕の頭にゴンッと体当たりを仕掛けた。


 ……これはどういう事だろう? 

 軽い衝突だから痛みはないが……この行動にどのような意図があるのか?

 頭にぶつかった直後にモヤモヤ形態へ戻っている事から、僕の頭にぶつかる為だけに変形したのは確かだろう。


 しかしその動機が分からない。

 腹を立てての体当たりにしては弱過ぎたし、そもそもフェリを怒らせるような真似をした覚えもない。戦闘の手助けをしてもらった直後なので『こちらの手を煩わせるな』という事だろうか?


 ……いや、それは違う気がする。

 フェリはやりたくない事はテコでもやらない影だ。その気が無ければ最初から加勢などしなかったはずだろう。


 もしかして……フェリが手こずっていた相手を、僕があっさりと片付けてしまったのが面白くなかったのだろうか?


 これはあり得る。

 フェリの攻撃には害意は感じられず、八つ当たりのような雰囲気があったのだ。


 実際のところ、今の僕と比べれば純粋な力だけならフェリの方だ。

 フェリが『生意気モヤ!』と八つ当たりをしたくなるのも分からなくはない。

 だがしかし、僕とフェリの戦闘技術に差があるのは当たり前の事だ。


「はははっ、僕は戦闘技術を研鑽(けんさん)している身だからね。そんじょそこらのモヤモヤに引けは取らな……あっ、ちょ、ちょっと待ってくださいフェリさん」


 短気なフェリが攻撃の気配を示してきたので、僕はたちまち低姿勢になった。

 ――そう、僕には努力の成果を誇ることも許されていないのだ……!


「はい……調子に乗ってすみませんでした。では、今後はフェリさんも戦闘訓練に参加するというのはどうでしょうか?」


 僕とガウスが旅の合間に模擬戦をしている時はボヤーッと見ているだけだったが、今後はフェリにも戦闘技術を磨いてもらおうという訳だ。

 今回は単純な力押しだけでは困難な相手だったが、フェリが人間の弱点を攻めることを学習していれば結果は違ったはずだろう。


 現在のフェリは『プッシュ! プッシュ!』と押すことが基本攻撃手段となっているが、多様な攻撃手段を学んでおけば戦術の幅が広がることになる。

 間接技のような攻撃だけに留まらず、フェリの特性であればバラエティーに富んだ攻撃が可能となるのは間違いない。


「…………」


 僕の提案にフェリは動かないが、これは素直に『やる!』と訴えるのが(しゃく)なだけでやる気はあるのだと思う。


 ふふ……もうフェリとの付き合いも長い。

 フェリの意地っ張りな気性は把握済みだ。

 次の訓練時にでも『一緒にどうかな?』と誘えば乗ってくるに違いない。


 フェリが戦闘技術を学んでサブミッションマスターになると僕が被害者となる恐れはあるが、どんな事であれ向上心を持つのは喜ばしい。


 ――さて、それはそれとしてだ。

 僕たちの勝利に喜ぶのはこれくらいにして、ガウスの方はどんな戦況だろうか? と、親友の様子に目を向けて見ると――意外な光景が目に入った。


 総長は大地に倒れており、その横でガウスが威風堂々と立っている。

 そこまでは良い。ガウスにもシュカにも怪我らしい怪我はないので喜ばしい。


 総長は格闘戦の技術も高い人だが、僕の知るガウスは更にその上を行く。

 二人の対決は〔ガウスの勝利〕という順当な結果に終わったのだろう。

 ……問題はその後だ。


「あんたは部隊の頭なんだろ? いくつか聞きたい事があるから教えろよ」

「……私が総長を務めていたのは過去の話だ。今は違う」


 ガウスは総長から情報を聞き出そうとしている。

 ……部隊員たちの影が判明すれば、今後の闘いが楽になるのは間違いない。

 この機会を利用して総長に尋問しておくべき、という考えは理解出来る。


 実際のところ、知らない間に『総長が代替わりしていた』という情報には個人的に興味を引かれるものはある。


 だが、総長は尋問で情報を漏らすような人ではない。これは不自然過ぎる。

 不審に思って総長をよく観察してみると、案の定と言うべきか――倒れている総長の軍服が不自然に膨らんでいた。


「――離れてッ!」


 僕が危険を察知して叫ぶと、ガウスは警告の声とほぼ同時に飛び退いた。

 この反応速度からすると、ガウスもどこか不穏な気配を感じていたようだ。

 そしてガウスの判断は正解だった。


 ――バンッ!


 大きな爆発音と共に、()()()()()()()()()()()()()()

 飛び退くガウスを追い掛けるようにして、総長の身体から土弾が飛び出す。


 そう、土弾だ。

 ガウスの動きは極めて速いが、土弾の速度は人が躱せるような速度ではない。

 これはまずい、と一瞬で肝が冷えたが――しかしその心配は無用だった。 


「――ニャァッ!」


 土弾は鳴き声と共に叩き落とされた。

 ガウスが油断していなかったように、シュカもまた油断していなかったのだ。召喚主の危機を見逃すことなく、風の盾の発動だ。


 ……それにしても危なかった。

 ガウスもシュカも警戒していたとは言え、傍から見ていると心臓に悪過ぎる。

 僕から言わせれば、これはガウスの油断だ。


 総長に尋問を試みたくなる気持ちは分かるが、止めを刺せる時に刺さないのは無用なリスクを負う事になる。今回は無事に済んだから良かったようなものだろう。


 最期に総長が何をやったのかは、ガウスが一番よく分かっているはずだ。

 不自然に膨らんでいた軍服。内側から勢いよく爆発した総長の身体。

 これらが指し示す事は一つしかない。


 信じ難いことだが……総長は自分の身体の中に土石を召喚して、()()したのだ。


 これがあるから部隊は恐ろしい。

 彼らは敗北を悟ると、自分の死を恐れることなく敵を道連れにしようとする。

 だからこそ僕は、部隊員を生け捕りにすることなく確実に命を絶ったのだ。


 道具型の影を体内に召喚することが可能だとは知らなかったが、知ったとしても常人は真似などしないだろう。

 総長の土石ほどのサイズともなると、土弾を放たなくとも身体に召喚した時点で肉体が持たない。後のことを全く考えていない狂気の沙汰だ。


 前もってガウスには部隊の狂気性について注意しておいたのだが……生来の甘さが出たのか、本当にそんな事をする人間がいるとは思っていなかったのか。


「何をやっているんだよガウス。僕があれほど事前に注意したじゃないか」


 当然、ガウスを叱責せずにはいられない。

 部隊との闘いは一つのミスが命取りだ。僕がカバー可能な範囲であれば構わないが、万が一ガウスが殺されてしまっては取り返しがつかない。


「そうだな……俺が甘かった」


 珍しく素直に非を認めるガウスに、責めたはずの僕の方が戸惑った。

 その憂い顔は勝者のものではない。

 やり切れない歯痒さを噛み締めているような、悔しげな顔だ。


「……施設の皆は物心付いた時から『神王は絶対』だと繰り返し教育を受けるからね。神王の為に死ぬことは幸せだと思ってるんじゃないかな」


 僕やリスティの場合は、サクさんから密かに別角度の教育を受けていたので客観的な思考が出来るようになった。

 ……反乱の首謀者だったサクさんからすれば、図抜けた力を持つ僕たちが神王側に付くのを最優先で防ぎたかったのだろう。


 僕たち兄妹はそのおかげで歪んだ成長を遂げずに済んだが、残念ながら施設の子供たちの大多数はその限りではない。


 総長もそうだったが、部隊員は決して『悪』とは言い切れない人たちだ。

 ただ絶望的なまでに、価値観が違うだけだ。彼らは歪んだ価値観を植え付けられている。むしろ彼らからすれば……僕の存在こそが、『悪』そのものだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、四八話〔戦利品〕

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