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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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四六話 共闘するモヤモヤ

 さて、無邪気なカーラに心を和ませている場合ではない。

 シュカのおかげで土魔術を無傷で凌いではいるが、勝負はまだこれからだ。


 総長の土魔術は味方にも被害が出る諸刃の剣。

 他の部隊員たちも無事では済んでいないはずだが、これで勝敗が決するような甘い相手ではない。味方に被害が出るのは織り込み済みのはずだ。


 過去の戦闘時には二人の部隊員を相手取っている最中に土弾が飛んできたが、その内の一人が部隊の仲間を庇うように身体で受け止めていた。

 今回も仲間の一人を犠牲にする形で乗り切ったのではないだろうか?


 しかし……部隊の方へ目を向けてみると、思わぬ光景を目にする事になった。

 総長たちはダメージを受けた形跡がない。三人とも自分の足で立っている。

 ――その要因は明らかだ。


「防御特化の影か……。珍しいな」


 ガウスの呟きの通り、防御に特化しているとしか思えない影が現出していた。

 僕たちがガウスの背後に隠れてやり過ごしていたように、総長たちもその男を盾にするような形で土弾を凌いでいたのだ。


 その男は、一人だけ影が分からなかった男。

 どんな能力を持っているのか分からなかったので警戒していたが、この局面で仲間を守る為に影を現出させたらしい。


 ――防護服。

 男の全身を覆っているのは防護服だ。

 見たところ、満足に動くことも難しいと思われるほどに分厚い代物である。


 一瞬で早着替えしている事からも、その防護服が影である事は間違いない。

 目の周囲は厚いガラスのようなもので覆われており、口元には粉塵対策もバッチリとばかりにマスクまで装着しているという隙の無さだ。


「確かに防御特化とは珍しいね……。しかもあの土弾を防いだとなると、物理と魔力の両方に耐性があるって事だよ」


 土魔術は物理攻撃であり魔力攻撃でもある。

 そんなものが味方も敵も巻き込んで全方位に散らばるという傍迷惑な攻撃だ。


 強力であっても使いどころが難しい魔術だったはずだが……総長はうってつけのパートナーを見つけてしまったようだ。


「まぁ、問題無いけどね」


 僕の率直な感想に、ガウスは悪そうに口元を吊り上げて「そうだな」と返した。

 そしてガウスは、無駄話はそれまでとばかりに――総長に向かって踏み込む。

 当初の宣言通り、ガウスが総長の相手をしてくれるつもりらしい。


 ガウスが一気に距離を詰めているのは、総長の再召喚を防ぐ為だろう。

 シュカなら土弾を防げるとはいえ、シュカの魔力量とて無限にある訳ではない。


 特に風の盾は消費魔力が多そうな技だった。

 強力無比な技ではあるが、一日に何度も使えるとは流石に考えにくいのだ。


 幸いなのは、総長の土石は土魔術を一度放っただけで消失しているという点だ。


 以前に闘った部隊衆は一つの土石で何発もの土弾を放っていたが、総長の土石は一度きりで消えてしまうものらしい。

 土石の使い方によるものなのか総長の土石が特別なのかは不明だが、あのレベルの攻撃を連発されるのは苦しいので助かるところだ。


 ともかく、ガウスに任せておけば総長は問題無い。総長は土魔術だけでなく格闘戦の能力も高い人だが、ガウスを凌駕するほどのものではないのだ。


 既にガウスは総長を接近戦で釘付けにしているので、こちらに土魔術が飛んでくる心配も無い。僕は残り二人の相手をさせてもらうとしよう。

 

 防護服の男と、もう一人は()()の影持ち。

 もちろん手袋の能力は把握している。これは温かさを極限まで追求した代物であり、手袋で触ると『鉄まで溶かす』という危険な特性を持っているものだ。


 近くに居るだけで熱気が伝わってくるほどの高温だが、生物に直接触ると火傷どころか骨まで溶ける。完全に近接特化の影だと言えるだろう。


 自分の身体からも手袋を遠ざけている様子からすると、召喚主の自分にも影響が出ているのは明らかだ。手袋から放散する熱のせいなのか、男は顔を真っ赤にしているのだ。……流石に装着している腕には影響が出ていないようだが。


 防護服の男と、大きな手袋を着けた軍服の男。

 一見すると危険物を取り扱うかのようではあるが、シュールな見た目に惑わされて油断するのは禁物だ。実力主義が基本となっている部隊に弱者は存在しない。


 僕が近付いていくと部隊員たちは連携するように構えた――と言っても、防護服の男がもそっと重そうな腕を上げて、手袋の男がその背後に回り込んだだけだ。


 防護服の男が一歩前に出て構えていることからすると、どうやらこの男が僕を捕まえている間に手袋男が『ターッチ!』とやる魂胆のようだ。


 これはシンプルだが効果的な作戦と言える。

 防護服の男に手間取っていれば手袋男の餌食になるが、防御特化の相手を短時間で仕留めるのは容易ではないのだ。


 しかし僕の方も無策ではない。

 接近戦特化の二人組が相手なら武器を使うのが望ましいという訳で、カーラから剣を借り受けているのである。


 部隊の標準装備である六十センチほどの剣。

 手袋男を相手にするならもう少しリーチが欲しいところだが、借りておいて贅沢は言えない。これでも、あると無いとでは大違いだ。


 だがここで問題となるのが、防護服の男だ。

 手袋男に対して剣という武器は有効であるはずだが、おそらくあの防護服には剣が効かないものと推察している。


 よし、ここはあの手だ。

 今の僕は身体能力が大きく落ちているが、その代わりに得たものはある。


「――フェリ、防護服をお願い」


 漆黒のマフラーにぼそりとお願いすると、フェリはまたたく間に正体を現した。

 部隊員たちが間近に迫った状態で、急に黒いモヤモヤが出現した訳である。


 これまでの経験上、フェリを初めて見た人間の多くは動揺していたが――それは部隊員であっても例外ではなかった。


「な、なんだこれはっ!?」


 突然襲い掛かってきた暗闇に、防護服の男は大混乱に陥っていた。

 それでなくとも視認性の悪い防護服。

 そんなところに黒い靄が取り憑いてしまえば、暗黒世界の訪れだ。


 フェリは魔獣などとの戦闘時には手助けする気配を見せないが……僕の身が危うくなるような相手なら、きっと協力してくれると信じていた。


 とは言え、フェリに直接手を下してもらう必要はない。防護服の男を足止めさえしてもらえれば、僕にはそれで充分だ。

 その間に、僕が手袋男を片付けさせてもらう。


 ――ガッ!


 僕は足元の土を蹴り上げた。

 仲間がモヤモヤに包まれて動揺していた手袋男だったが、それでも咄嗟に手で土を防ぐ。しかし土が目に入らなくとも、男の視界を一瞬でも防げば充分だ。


 僕はしゃがみ込んで足払いを仕掛ける。男は体勢を崩して倒れるが、もちろん受身も取らず人形のように倒れたりはしない。

 灼熱の手袋が地面に触れないように、男は反射的に肘を使って受身を取る――急所を僕の眼前にさらして、だ。


 ――ザクッ。

 ガードが消え去った首へ、僕は容赦なく剣を突き刺した。


 ……仮に男が手袋を装着していなければ、足を刈られた程度でこれほどの隙は見せなかったはずだろう。彼とて施設の厳しい訓練を潜り抜けているので、隙の少ない動きが身に付いているのだ。


 これは男の手袋が強力過ぎたのが(あだ)になった。

 手袋の熱量は自分の身すらも焼いてしまうほど危険なものであり、必然的に男の動きが制限されていたのである。


 実際、自分の身体に手袋を近付けないのは当然として、迂闊に物へ触ることすらも危険な行為となる。手袋の熱で溶かすくらいならまだしも、水分量の多い物体に触れれば小爆発すら起こしかねない代物だ。


 だからこそ、急に体勢を崩された時には無意識化で行動が限定される。

 手袋へ気を払うあまり――敵対者への注意が疎かになってしまうのだ。


 総長の土魔術もそうだったが、強力な能力にはそれ相応のデメリットがあるという事だろう。そしてそれは、防護服の男も同じだ。


「あぁぁぁっ!?」


 男は狂ったような叫び声を上げつつ、モヤモヤを追い払おうと手を振り回している。視界が暗黒に閉ざされているので精神に異常をきたしているのかも知れない。

 その悲惨な光景は、まるでハチの群れに襲われているようでもある。


 フェリを相手にする場合は()での魔力攻撃手段を持っていないと詰んでしまうのだが、まさに防護服の男の状態がそれだ。


 一応は手に魔力を込めればフェリにダメージを与えられるが……なにしろフェリは僕の膨大な魔力によって構成されている。生半可な魔力攻撃では、プールの水をコップで掬うような効果しか与えられないはずだろう。

 そしてフェリの方も、防護服の守りを崩せないのか圧殺が出来ていないようだ。


 ……うむ、まさに千日手。

 なにやら気の毒になってきたので、僕が責任を持って終止符を打つとしよう。


 僕は男の背後にこっそり忍び寄る。

 男は狂乱状態にあるので気付く様子はない。

 このまま剣で刺しても銃で撃っても効果が無いはずだが、それならそれでやりようはある。この世に完全無欠な存在などありはしない。


 僕はフェリに包まれている男に手を伸ばす。

 そして暗闇の中で頭と顎を掴み――ゴキッと一気に捻り折った。


 男は声も上げずに倒れ込み、男の防護服も役目を終えたように跡形もなく消失した。……呆気ない幕切れではあるが、想定通りの結果に収まったと言えるだろう。


 物理・魔力攻撃に耐性のある防護服であったとしても、決して無敵ではない。

 その中に人間が入って動く以上、避けては通れない壁がある――そう、人間が動く為には『可動域』が必要不可欠となるのだ。


 衝撃に強くとも柔軟性に劣るという特性を持つ金属があるが、今回の場合もこれに近い。男の防護服は打撃技には強かった反面、間接技のような内部を狙う攻撃には弱かったという訳だ。


 更に付け加えれば、防護服が分厚過ぎるせいなのか武器を持っていなかったのも問題だった。仲間のサポートとしては優秀な影だったが、攻撃担当の仲間が倒れると打つ手が無くなってしまうのだ。

 やはり今回は敵戦力を早々に分断したのが大きかったと言えるだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、四七話〔異なった価値観〕

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