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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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四二話 大きな前進

 街道を行き交う人の数は多かった。

 外都では戒厳令が発令されていた事もあって護衛を含む大規模な商隊しか見かけなかったが、この内都の街道は違う。


 この内都では、商隊ばかりか旅人の姿もそこかしこに見受けられる。

 内都の人間は影を持っているからなのか、少人数で旅をしている者も多い。

 戦闘向けの影を持っていれば魔獣などへの対応も難しくないという訳だろう。


 それでも時には、他の魔獣とは一線を画したような魔獣が現れることはある。

 僕が外都で出会ったヤギの群れ――そのリーダー格だったボスヤギがそれだ。


 人為的に高魔力保有者を生み出すような施設でなくとも、自然界でも高い魔力を持った個体が生まれることはある。

 ボスヤギのような個体が現れれば影持ちの旅人でも抗う術はないが……仮にそんな事態が起きたとしても、内都では長期的な問題には成長しない。


 ここは神王のお膝元である内都。

 その内都で脅威となる魔獣が現れた際には、部隊が迅速に討伐しているのだ。


「ふんふふん〜」


 鼻歌を歌いながらご機嫌のカーラ。

 そんなカーラが道行く人々から距離を取られている理由は他でもない、この子が部隊の軍服を着ているからである。


 そう――僕たちは内都に入った事で行動方針を改めていた。

 これまでは人目につかないように夜間のみの行動としていたが、現在は昼間から堂々と街道を進んでいるばかりか、目立つ軍服姿のカーラも同行しているほどだ。


 カーラには目立たない服に着替えてもらって旅人に溶け込むという手段も検討したが……ここは逆に開き直るべきではないか? と考えたのである。


 カーラにせよガウスにせよ、僕の仲間たちは市井(しせい)に混じるには目立つ容姿だ。

 一般的な服に着替えたところで、生来の輝きは隠せるようなものではない。 


 特にカーラは、珍しい銀髪の部隊員だ。

 先の街でも注目の的になっていたが、部隊に入隊したばかりであっても特徴的な容姿を見知っている者は多いと予想される。


 そこで、変に隠し立てして不審に思われてしまうよりは、ここは思い切って堂々と開き直った方が得策だろうという判断だ。

 必然的に僕とガウスが部隊衆だと思われている雰囲気があるのが難点だが……こればかりは仕方がないところだ。


「二人とも、あそこの川でお昼にしようか。――えっ、ガウスが魚を獲ってくれるのかい? うん、ありがとうガウス!」

「俺は何も言ってねぇだろ……ったく、仕方ねぇな」


 街道を横切るように大きな川が流れていたので、食材調達がてら昼食の時間だ。

 さりげなく親友に食材調達を任せてみると、ガウスはぶつくさ言いながらも持ち前の人の良さを発揮してくれている。


 もちろんこれは僕が怠けている訳ではなく、単なる分業制の一環に過ぎない。

 ガウスが魚を獲っている間に、僕は僕でスープでも作っておこうという訳だ。


「うん、分かった! カーラはお兄ちゃんが料理してるところ見てるね!」


 カーラが何を分かったのかは、僕にはさっぱり分からなかった。

 なぜか僕の観察を仕事の一つのように言っているが、このナチュラルなニートぶりを発揮しているカーラを放って置くわけにはいかない。


「ノーノー。カーラ君は玉ねぎを剥いててね」

「え〜〜っ」


 仕事を割り振るとあからさまな不満の声だが、僕はカーラの為にも容赦はしない。……さすがにこれくらいで頭をカチ割られたりはしないだろう。


 それでも念の為にカーラへ背中を向けないように料理の準備を開始すると、最初は文句を言っていたカーラも楽しそうにお手伝いを始めた。

 うむ、この純粋な資質は素直に好ましい。


 ガウスの獲った魚を焼いたものと、僕とカーラの合作であるオニオンスープ。


 匂いに誘われるようにフェリもモワリと気体化したところで、和やかに食事が始まった。街道から外れた場所に陣取っているので、フェリが昼食の場に混じっていても大丈夫なのだ。


「ところでガウス君、そろそろシュカちゃんを召喚すべきだと思うんだ」


 食事を開始した直後、前々から気になっていた事を提案した。


 シュカの愛らしい姿を最後に見たのは随分前だ。

 神国入りしてから隠密行動を取っていたので仕方がない面はあったが、もう目的地である施設は間近に迫っている。


 そしてなにより、僕たちは既に充分過ぎる程に目立っている。ここから更にシュカが加わったところで、僕たちが目立つという意味では大差はないはずだろう。

 これは決して、動物好きの本能に突き動かされている私情ではないのだ。


「そうだな、そろそろ頃合いか……」


 焼き魚を(かじ)りながらガウスが呟く。

 僕ばかりかカーラも期待しながら見守っていると、ガウスは隣に居る者に話し掛けるように――「シュカ」と口にした。


「にゃん」


 そして黒猫は現れた。

 以前に見た時と比べて不機嫌そうな気配があるのは、ガウスに長い間呼び出されていなかったからなのかも知れない。


 その証拠に「にゃ、にゃ!」と鳴きながら、ガウスに不満を表明するように身体をぶつけている。……甘えられているようで羨ましい。


「悪いなシュカ」


 ガウスが機嫌を取るように手を伸ばすと、シュカは途端に大人しくなってゴロゴロしている。先の不満を感じさせない従順ぶりだ。

 しかしなんてチョロイ猫ちゃんなんだろうか……僕がフェリの機嫌を取る時は美辞麗句を並べてペコペコしているのに。


「かわいい〜っ」


 まずい、カーラがシュカに触ろうとしている。

 僕のようにザクッと裂傷を負わされてしまう――と制止しようとしたが、既にカーラは黒猫の身体に触れていた。


「にゃぁぁ」


 おや……? 

 シュカは迷惑そうに身体をよじってはいるが、攻撃的な行動を取っていない。

 僕の時は引いてしまうくらい激しい出血を強いられたのだが……ガウスに叱責されて反省したのだろうか?


 ――いや、待てよ。

 ガウスがシュカを召喚してなかったのは、僕を傷付けたからではないだろうか?

 ガウスは何も言っていなかったが、責任を感じて自制していた可能性はある。


 しかしそう考えると……シュカには申し訳ない事をしてしまった。

 僕のせいで長期間召喚されなかったとなれば、責任を感じずにはいられない。


「久し振りだねシュカ。ほら、焼き魚があるんだけど食べるかな?」


 とりあえずお詫びがてら食べ物を献上だ。

 これからは常時召喚となるはずなので、シュカにも食事が必要となるのだ。


 警戒しながら焼き魚を観察するシュカ。

 過剰なほどに警戒されているが、前回の失敗のせいだと思えば仕方がない。


 僕が差し出した串焼きの魚を見ながら、シュカはじりじりと近付き――ガブッと魚を咥えて、サッと後ろに飛び退いた。


 うむ、これは大きな前進だ。

 この調子で餌付けしていけば次第に警戒心も薄れていくはずだろう。

 ふふ……最終的には『膝の上でお昼寝するニャン』という状況も夢ではないな。


明日も夜に投稿予定。

次回、四三話〔厄災の訪問者〕

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