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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第二部 吹き荒れる暴威

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四十話 追い出しと旅立ち

 意思の衝突が石の衝突に繋がる死の会議。

 二人の犠牲者を出した事で室内は緊張に包まれていたが、会議の進行役であり最高責任者でもあるカーラの態度は変わらない。


「は〜い、それじゃあ外都に行ってきてね〜。悪い魔獣をやっつけるまで戻ってきたらダメだよ〜!」


 遠足の引率のような調子で告げるカーラ。

 もし僕に子供がいたとしてもカーラに預けることは絶対にしないだろうが、しかし部下である部隊衆に拒否権は存在しない。


 ――部隊衆の面々は蒼白になっていた。

 五人で外都に向かうだけでも命懸けなのに、悪名高い魔獣を退治するまで帰還が許されないという悪夢だ。彼らにとっては処刑宣告に等しい命令だろう。


 そもそも魔獣を討伐する為に部隊が派遣されている訳なので、部隊衆からすれば不可解極まる命令でもある。

 そう思ったのは僕だけでは無かったらしく、部隊衆の一人が恐る恐る口を開く。


「お嬢……い、いえ、カーラ様。その、オレたちだけでは……っあぁひっ!?」


 鬼上司に慈悲を訴えている最中、男は急に狂ったような叫び声を上げた。

 それもそのはず、男の言い分を聞きながら徐々に不機嫌になっていったカーラは――治癒石を再召喚してしまったのだ!


 これから起きる惨劇を予見したのか、男は咄嗟に仲間の一人を盾にする。


「テ、テメェ、なにしやがるっ!?」

「うるせぇッ!」


 醜く罵り合う男たち。

 そこに仲間意識は微塵も感じられず、他の仲間たちも巻き添えを食らっては堪らないとばかりに離れている。


 しかし美しくない光景ではあるが、カーラを落ち着かせるには悪くない手だ。

 猛牛と闘う闘牛士が赤い布を隠すかの如く、殺害対象を視界から隠してしまえばカーラも落ち着くかも知れない。


「――ていっ!」


 もちろんそんな事は無かった。

 そう、闘牛士が布を隠したところで人間に向かっていくだけなのだ……!


 無関係な男が盾にされていてもカーラは全く気にしていない。

 カーラが放った死の砲弾は――男を貫通して標的を仕留めてしまった!


「ぁ、ぁ……」


 一投ニ殺。またしてもカーラの治癒石砲弾は二名の命を奪ってしまった。

 厳密に言えば男たちはまだ生きて呻き声を上げているが、二人とも腹部に大穴が開いている。絶命は時間の問題だろう。


 恐ろしいことに、またもや無関係な男が巻き込まれて死亡した形である。


 事前に『部隊衆は悪い人』と話してあるから躊躇(ちゅうちょ)なく殺害しているのか、本当に全く気にしていないのか、気になるところだ。

 前者であればまだ救いがあるのだが……確かめるのが実に恐ろしい。


「もーっ! ワガママ言ったらダメなんだからね!」


 残り三人となってしまった部隊衆に、カーラはぷんぷんと怒っている。


 死亡した彼らの言い分は正当なものだったが、この場でそれを指摘出来る人間は存在しない。どちらかと言えばカーラがワガママを言っている感じではあるものの、それを口に出したら五人目の犠牲者となることは必至だろう。


 ――――。


 生き残った三人の部隊衆は、逃げるように検問所を走り去っていった。

 集合時には七人いたはずが、朝の会議をしただけで四人も減ってしまっている。

 ……うむ、会議とは実に恐ろしいものだ。


「あの人たちが戻ってきても入れちゃダメだよ〜!」

「は、はい……」


 カーラが検問所の兵士に鬼のような指令を下している。

 検問所の兵士が怯えているのは、血塗れの部隊衆たちが狂乱していたからだ。


 この街に着いてからというもの我が物顔で暴れていた部隊衆。

 そんな彼らが、仲間の返り血を浴びた姿で恐怖に震えていたのだ。

 その恐怖の対象ともなれば、可憐な少女のカーラが恐れられるのも無理はない。


 しかし多少の問題はあったが、結果的にこれで兄妹たちの不安は取り除かれた。


 元はと言えば領主経由で部隊衆がちょっかいを掛けてきたようだが、領主まで血祭りに上げる必要性は感じていない。

 デモ隊の対応に苦慮していたような人間なので、部隊員であるカーラから一言言ってもらえば大人しくなる事だろう。


 ――何はともあれ、安全な場所に避難している兄妹たちに結果報告だ。

 兄妹たちの潜伏先は僕たちが護衛がてら送っているので把握している。


 軽い足取りで歩いていると――ガウスが呆れた声でカーラに話し掛けた。


「お前、無茶苦茶だな……アロンと変わらねぇじゃねぇか」

「ありがとうガウスちゃん!」

「いや、褒めてねぇよ……。それにガウスちゃんは止めろ」


 どうやらカーラは『僕と一緒』と言われて喜んでいるようだ。

 ……うむ、このポジティブさは無敵である。


 しかし批判に負けないカーラも凄いが、ガウスの方も大したものだ。

 なにしろあれほど凄惨な殺人事件を見せられても態度が変わっていない。


 ガウスはカーラの凶行に大いに引きつつも、これまでと変わらずに接してくれているのだ。これは中々出来ることではないだろう。

 

 だが……それはそれとして、これは聞き捨てならない発言だ。


「待ちなよガウスちゃん! 僕が呼吸するように殺人を犯しているような言い方は心外極まりないね。いつ僕が無茶苦茶な事をやったって言うんだ」

「なに言ってんだ。ランズバルト家絡みで襲われた時なんかは殺りまくってただろうが。それにその呼び方は止めろ」


 サイコキラーに成長してしまったカーラと一緒にされた事に反論すると、ガウスからは思わぬ反論が返ってきた。


 たしかにランズバルト家絡みで襲撃を受けた時には殺ってしまった事もあるが、あれはれっきとした正当防衛だ。

 それに武国へ移住したばかりの頃の話でもある。


 正当防衛とはいえ僕の評判が壊滅的になりつつあったので、近年では襲撃者を生け捕りにすることを覚えたのだ。


「嫌だなぁ、それは昔の話じゃないか。まだガウスが一匹狼を気取ってた頃だろ? 『俺はロンリーウルフ』とか言っちゃってさ、まったく」

「そんな事言ってねぇだろ!」


 昔の話を持ち出されたのでガウスの幼少期を持ち出しての反撃だ。

 確かにロンリーウルフとは言ってなかったが、当時のガウスが他人と交わろうとしなかったのは事実なのだ。


「ずる〜い! お兄ちゃんたちしか分からない話してる〜っ」

「ごめんごめん、お詫びに一から十までガウスの事を教えてあげるよ」


 話の輪に入れなくて不機嫌なカーラをあやしつつ、ガウスからの「自分の昔話をしろよ」という文句を聞き流す。


 カーラにはガウスの事をもっと知ってもらうべきなのだ。この子は身内以外には非常に厳しい子なので、ガウスの身を守る為にも欠かせない儀式となる。


 しかし、戦略的に考えれば回復役が加わってパーティーに安定感が増したはずなのに、なぜ新しい不安を抱え込んだような気持ちになるのだろう……。

 ……いや、ここは純粋な気持ちで妹分と再会出来たことを喜ばなくては。


 これから先も旧友たちと再会することになるだろうが、今回のように争いにならずに解決出来ることを願うばかりである。

第二部【吹き荒れる暴威】終了。


明日からは第三部【神都炎上】の開始となります。

次回、四一話〔施設の裏事情〕

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