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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第一部 消失する日常
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四話 咎める非常識

 僕は機嫌良く荷物を自分の机に置き、定位置である教室の隅へと歩いていく。

 そこには僕の数少ない友人がいるのだ。


「おはようメガネ君」


 学生らしからぬ渋みを持つメガネ君。

 どちらかと言えば大人しい性質であり、クラスの中では目立たない部類に入る。


 彼も僕と同じく交友関係が狭い傾向があるので、マイノリティ同士の僕たちが友誼を結んでいるのは自然な事だと言えるだろう。


「おはようアロン君。もしかして、通学路で何かやったの? なんだか騒ぎになってたけど……」


 メガネ君は〔騒ぎ=僕の仕業〕という失礼な思考をしているが、これは僕に遠慮をしていないだけ喜ぶべきところだ。


 彼は中等部からの繰り上がり組ではなく、数少ない外部の学園からの進学組だ。


 つまりは中等部での僕の悪評を知らない人間だったので、同じクラスになってから積極的に話し掛けて友達になったのだ。悪い先入観さえなければ普通に友人関係を結べることの証明になったと言えるだろう。


 だが、そんなメガネ君でさえ周囲の噂を少なからず真に受けているのか、僕をトラブルメイカーだと無意識に思っている節があるのだ。


 もちろん僕の答えは決まっている。


「通学路の騒ぎ? はてさて、なんの事かなぁ……」


 そう、全力でトボけるのみだ。

 女生徒が地べたに座り込んでいた時には人だかりが出来ていたので、メガネ君の言う〔通学路の騒ぎ〕とは十中八九それの事だ。


 だが、ここで正直に認めるわけにはいかない。

 下手に事情を説明するとレイリアさんが悪く思われるかも知れないのだ。


「――それより、今日は影の召喚日だね!」


 僕はすかさず話題転換を図った。

 幸いにも、今日は話題には事欠かない日だ。


「あ、うん。そうだね……さすがに今日は出席率が高いね」


 僕の話題を変えたいという意志を悟ってくれたのか、メガネ君は拘ることなく乗ってくれた。そして彼からは出席率の話題が出たが、確かに普段と比べて学園に来ている生徒が多い。


 この学園は定められた出席日数を満たして年度末テストで点数を取れば進級可能という仕組みなので、普段の授業には最低限しか出席しない者が多いのだ。


「うん、今日は空席がほとんど無いね。影の召喚は昼からみたいだから、午後には全員揃うかな?」


 普段であれば六割程度しか出席していないが、今日に限ってはほぼ満席だ。


 教室の空席は二つのみ。


 一つはサボリ常習犯である僕の親友の席。

 もう一つは、高等部に上がってから一度も登園してきていない級友の席だ。


「あの席の人って、メガネ君と同じ中学の人だったよね?」

「う、うん……そうだね」


 まだ見ぬクラスメイトは外部からの進学組だ。

 このクラスでは、メガネ君と併せて二人しか存在しない貴重な人間でもある。


 僕の悪評に踊らされていない人材なので友人になるチャンスを窺っていたのだが、メガネ君の反応からすると仲が良い間柄ではないようだ。

 メガネ君の友人どころか、むしろ苦手な相手といった印象を受けるのだ。


 そして、その理由はすぐに分かった。


「――メガネェェェ! なんで起こしに来ねぇんだよ!」


 教室の扉をバーンと開けると同時、その生徒はメガネ君に怒声を浴びせかけた。

 着崩してはいるが学園の制服を着ている。

 彼が学園生であることは間違いない。


 メガネ君の知り合いのようなので、おそらく彼がもう一人の外部進学組だ。


 その少年は肩で風を切るように教室を突っ切る。

 そして突然、メガネ君の机を正面から蹴った!


「っぅ……!」


 信じられない、なんて酷い事を……!


 メガネ君は机で腹部を圧迫されて(うめ)いているではないか……。昔からの友人なのかは知らないが、コミュニケーションの一環だとしても度を超えている。


「ちょっと、君! いくらなんでも非常識じゃないか!」


 当然、常識を重んじる僕は口を挟む。

 友人のメガネ君が苦しそうにしているのに見て見ぬフリはできない。


「んだぁ、テメェ? このオレを知らねぇのか、あぁん?」


 もしかして、彼は有名人なのだろうか?

 交友関係の狭い僕が知らないだけで、クラスメイトの中では知らない者がいないのか……やっぱり僕はハブにされているのか!?


 僕が内心でショックを受けて言葉を失っていると、彼は「フン」と興味を失ったようにメガネ君の方に向き直る。


「おいメガネぇ、なんで影の召喚日に迎えに来ねぇんだよ!」

「そ、そんな事聞いてないよモブ君……」


 むっっ、黙って聞いてみれば理不尽な言い掛かりをつけているではないか。

 子供が母親に『どうして起こしてくれなかったんだよ!』と八つ当たりをするのに似ているが、どう考えても同級生に言うことではない。


 これは看過するわけにはいかない。

 僕は有名人が相手でも尻込みしない。

 ――そう、正義は我にあり!


「おおっと、待つんだモブ君とやら。メガネ君はきみの父親じゃないんだよ。……父親じゃないよね?」

「う、うん……」


 口上の途中で気になったのでメガネ君に確認を取ってしまった。複雑な家庭事情で〔実は親子〕という可能性を捨てきれなかったのだ。


 メガネ君は老け顔だから心配だったが、本人から否定してもらえたので一安心だ。危うく〔親子が同じクラス〕という学園の闇を見つけてしまうところだった。


「テメェ、舐めてんのかっ!」


 なぜかモブ君の方に怒鳴られた。

 怒るとしたら一児の父扱いしてしまったメガネ君の方だと思うが、もしかしたら彼は怒りっぽい性質なのかも知れない。


次回、五話〔聞こえてしまう心〕

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