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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第二部 吹き荒れる暴威

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三三話 乗り掛かった船

 深夜の食事を終え、僕たち一行は兄妹の家で(くつろ)いでいた。


 図太いガウスはあぐらをかいて家長のような顔をしているし、フェリは機嫌良さそうに僕の背後でふよふよしている。……どういう訳なのか、フェリは僕の背後を定位置としている節があるのだ。


 最初の頃は背後の気配が気になっていたが、今となっては慣れたものである。

 第三者視点では僕から怪しげなオーラが出ているように見えるかも知れないが、考えようによってはちょっと格好いいので問題は無いだろう。


 そして休息がてら兄貴さんから事のあらましを聞いて――思わず耳を疑った。


「デ、デモ活動……? それが命を狙われた理由なんですか?」

「そうだ。この街では増税が続いててな、オレたちはデモ隊を結成してたんだ」


 それは想像以上に些細な理由だった。


 神国では神王に批判的な意見を口にすると粛清対象になるが、この場合は街の領主に対してのデモだ。いくらなんでもデモ隊を皆殺しというのは苛烈過ぎる。


 だがしかし……神国の領主にそこまでの裁量があっただろうか?

 自分の街に重税を課すくらいなら神国基準では普通だが、裁判も行わずに一方的な虐殺ともなると只事ではない。


 そんな僕の疑問が伝わったのだろう、兄貴さんが苦々しい声で答える。


「普段ならここまでの事にならない。……だが、今回はタイミングが悪かった。別件で部隊が派遣されてきたんだ」


 部隊衆の存在から察していたが、やはり部隊はこの街に居るらしい。

 どのみち避けては通れない相手ではあるが……想定よりも早い接触だ。


「部隊が派遣された本来の目的はご存知ですか?」

「ここのところ近辺で強力な魔獣が暴れ回っててな。軍の手に負えないって事で、部隊から二人だけ派遣されてきたんだが……部隊の二人はともかく、その部下がな。あいつらは暴れる口実を探してるケダモノだ」


 部隊衆が生前に話していた内容からすると、彼らは領主からデモ隊の話を聞いて趣味のような感覚で出張ってきたらしい。


 無関係な僕を平然と殺そうとしていた事からしても、部隊衆が『暴れる口実を探している』という兄貴さんの言葉は的を射ているのだろう。……当初は犯罪組織同士の抗争かと誤解してしまったので兄貴さんに申し訳ない気持ちだ。


 だがそれはそれとして、兄貴さんの話で一つ気になる点がある。


「あの、強力な魔獣が暴れ回っていたという話ですが、それはひょっとして、()()()()()ではないですか?」

「なんだ知ってたのか。化け物みたいなヤギが一匹いるって話で、街の討伐隊が何度も返り討ちに遭ってんだよ」

「知ってるもなにも……さっき食べた肉が、そのヤギだと思います」

「ええっ!?」


 内都に向かっている途中、僕とガウスはヤギの群れに襲われた。

 一匹一匹はそれほど脅威ではない魔獣だったが、しかし群れを統率するボスヤギだけは格が違った。図抜けて高い魔力を持っていたらしく、他の魔獣とは力からスピードまで段違いだったのだ。


「ああ、アロンが仕留めたボスか。確かにアレは軍の手には余るかもな」


 ガウスもボスの異常性には納得の声だ。


 ボスヤギを撃破すると群れは散り散りになったが、配下の魔獣も加味すれば部隊員一人に匹敵するほどの脅威だったと言えるほどだ。

 あの群れが猛威を奮っていたのは外都だが、内都の食料は外都によって賄われているので、神国としては部隊を派遣してでも討伐したかったのだろう。


 結果的に僕たちがボスヤギを狩ったことで部隊の手助けをした形になっているが、街の人々の悩みを解決出来たのであれば何も問題は無い。

 部隊が討伐予定であれば、群れの残りも遠からず殲滅されるはずだろう。


 しかし、問題は依然として残ったままだ。


「あの三人の部隊衆を退治したのは良いですが……もしかすると部隊衆の残党がまた干渉してくるかも知れないですね」


 部隊衆の死体は地中に埋めてきたので行方不明扱いとなるはずだが、このまま全てが無事に終わるとは思えない。

 デモ隊を潰しに行ったはずの男たちが行方不明となれば、生き残りである兄貴さんの関与が疑われるのは必至だ。


 しかも部隊衆は兄貴さんの家族構成まで知っていた。おそらくは領主経由でデモ隊の情報が流れたのだろうが、領主が相手ならこの家の場所も露見していると考えるべきだろう。


「アロン、どうするつもりだ?」


 ガウスの問い掛けに、僕は静かに熟考する。

 僕たちの目的だけを考えれば『それじゃあ、お元気で!』と明日の朝に旅立ってしまうのがベストではある。


 だがそれでは、兄妹の命は風前の灯だ。

 ここまで関わっておいて無責任に放り出すわけにはいかないだろう。


 ちなみにガウスは素知らぬ顔で聞いてきているが、僕には親友の考えている事が手に取るように分かる。豪快なガウスのことなので『部隊衆も領主もまとめて殺っちゃおうぜ!』という反社会的な解決策を実行する気でいるのは間違いない。


 乗り掛かった船を後腐れなく片付けたいというガウスの気持ちは理解出来るが、しかし素直に頷くわけにもいかない。


「待ってよガウス、今回の関係者を皆殺しにしたいという気持ちは分かる。ただそれは最終手段にすべきであって、最初に取るような行動では無いよ」

「いつ俺が『皆殺しにしたい』なんて言ったんだよ!」


 胸の内を暴かれたのが恥ずかしいのか、ガウスは理不尽な怒りを僕にぶつけた。

 人は図星を突かれると怒るとも聞くので、推察が的中していたのは明白である。


「まぁ、何をするにしても情報収集からだね」


 ガウスからの文句を聞き流しつつ提案する。


 なにしろ僕たちはこの街を訪れたばかりだ。

 領主に関する情報にしても、一方からだけの情報を鵜呑みにするのは危険だ。

 ――そう、実は領主側に正当性があったという可能性も否定できないのだ。


 部隊衆については無法者集団である可能性は高いが、あの三人だけが素行不良だったという可能性もある。この兄妹は善人そうなので無条件で味方をするのも有りだが、ここは焦らず慎重に行動すべきだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、三四話〔幼馴染の息吹〕

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