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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第二部 吹き荒れる暴威

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二八話 保証してしまう余命

「爺さん、それだけで良いのか? 残りも置いてくから干し肉にでもして食えよ」


 口は悪くとも人の良いガウスだ。

 僕たちの手持ちの肉を余すことなくお爺さんに渡すつもりらしい。


 もちろん僕も異存はない。

 むしろ僕に確認を取らなかったことを嬉しく感じているほどである。つまりそれは、僕が賛成することを確信しているという信頼の表れだからだ。


 それに――この辺りの魔獣は強力な個体が多そうなので村人の手には余るだろうが、僕たちにとっては気軽に狩れる獲物に過ぎないのだ。


「ええのか? 老い先短い身には勿体無いが、ありがたく頂くとするかの」

「何を言ってるんですか、まだまだお爺さんの青春はこれからですよ。僕の見立てでは……はい、あと十六年は寿命が残ってますよ!」

「おい、妙にリアルな数字を出すんじゃねぇ」


 僕の安心余命保証に、すかさずガウスからクレームが入った。

 声の張りや肌のツヤから試算した自信のある数字なのだが、どうやらガウスは余命宣告否定派であるようだ。


 だがよくよく考えれば一理ある意見だ。


 僕は余命宣告肯定派なので善意で告げてしまったが、お爺さんは『知りたくない――死にたくないのじゃ!』という宣告否定派かも知れないのだ。


 危ない危ない……幸いにもお爺さんは気にした素振りを見せていないが、危うくどうしようもない魂の叫びを聞く羽目になるところだった。


 これは僕が浅慮だったと言わざるを得ない。

 まったく、軽率な僕を戒めてくれたガウスには感謝するばかりである。

 このお礼にガウスの余命も診断してあげたいところだが、話の流れからするとガウスは宣告否定派らしいのが残念だ。


 ちなみに――医者が周囲の人間だけに余命を知らせる事もあると聞くが、これは個人的には如何なものかと思っている。

 僕が長編の小説を読み始めた時に、『おいおい、余命一カ月で全百巻の方を読み出してやがるぜ。アロンの人生が先に完結するってなもんだ!』などとガウスに思われてしまうのは耐えられないのだ……!

 

 余命宣告を聞いても動じていないお爺さんは、僕へ朗らかに言葉を返す。


「生憎じゃが、儂は今年で六十八じゃからの。あと二年で終わりじゃ」

「終わりとは、どういう意味ですか?」

「なんじゃ知らんのか? この国では七十歳になったら人里から追放される決まりじゃぞ。働けぬ者を置いておく余裕は無いからの」


 自明の理を述べるように語るお爺さん。


 だが……僕とガウスは、その残酷な内容に言葉を失っていた。

 今の僕は余所者に過ぎないので神国の政策に口を挟めない気もするが、それはあまりにも酷薄ではないだろうか?


「よく反乱が起きねぇもんだな……」


 ガウスが忌々しそうな声を漏らすのも当然だ。


 比較的安全な武国であっても、都市部を離れて郊外に行けば危険な魔獣が徘徊しているのが現状だ。そして、神国は武国より遥かに魔獣の数が多い。

 老齢の身で人里から追放されるのは、実質的には処刑に等しい行為だ。


 しかしそれでも、民衆が反乱を起こすことは難しいと言わざるを得ない。


「神国では影を持ってない人が大多数だからね。影を持ってる軍や警察と闘うことは難しいんじゃないかな」


 この神国では、全ての国民が解放玉に触れられる訳ではない。

 地方に居住する人間で影持ちとなると、軍や警察などの政府側の人間だけだ。


 国全体で考えれば全国民に影を手に入れさせた方が国力増強に繋がるはずだが、神国は民衆に影という〔力〕を持たせることを警戒しているのだ。


 しかしガウスはまだ納得してない様子だ。

 この様子からすると、『影が無くても闘えるぜ――レッツ反乱!』と思っているようなので、ここは親友として諭してあげるべきだろう。


「自分を基準に考えてはいけないよ。誰もがガウスみたいに『俺が神王を倒しちゃうぜ。いぇい、いぇい!』なんて明るく言えないんだから」

「そんなこと言うワケねぇだろ!」


 即座にツッコミを入れてくるガウス。

 どうやら自身の過去の発言を忘れているらしい。

 ……若干台詞が異なるところはあるが。


 ちなみにお爺さんがこの場に居るので言及は避けているが、政府関係者が軍の一部を扇動してクーデターを目論んだことはある。


 ここでそれを口にしないのは、一般の人々はクーデターがあったという事実そのものを知らないからだ。不必要な情報を与えるのはマイナスにしかならないので、お爺さんの為にも余計な事は口にしないのだ。


 そのクーデターはそれなりの人数が参加した計画だったが、彼らは半日も経たない内に殲滅されている。……だからこそ人々は、その事実を知らないのだ。


 反乱分子を一掃したのは、神国が誇る最大戦力――そう、部隊だ。


 訓練を積んだ軍人であっても、生まれる前から選別されているような部隊が相手では分が悪すぎた。クーデターが早期に鎮圧されたのも当然と言えば当然だ。


 僕たち施設の子供たちは、神王に逆らった愚か者の末路としてクーデターの一件を聞かされたのだ。


「しかしお爺さん、それでも生を諦めてはいけません。近日中に神国の体制が変わるかも知れないですから」


 僕たちが神王を打倒することで国民にどのような影響が出るかは分からないが、一部の権力者が富を貪っている現状よりはマシになるような気もする。

 既存の悪法を改定する、という流れになる可能性もゼロではないだろう。


「……おんしら、何をするつもりでおる?」

「ふふ……心配ご無用ですよ。僕たちは悪人ではありません。僕の将来の夢は世界平和なくらいですから」


 お爺さんの質問には答えず、僕の善良性をアピールして安心させるのみである。

 このお爺さんは何も知らなかった、というスタンスを崩すべきではないのだ。


「なんで個人の夢が世界規模なんだよ」


 相変わらずのガウスが横から茶々を入れてくるが、もちろん気にしない。

 この親友は、僕に絡まずにはいられない性質を持っているだけなのだ。

 なんだかんだ文句を言いながらも手伝ってくれるのが、このガウスという男だ。


明日も夜に投稿予定。

次回、二九話〔合法的な金策〕

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