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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第一部 消失する日常

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二四話 厄災の二人

 僕とガウスの退院の日が訪れていた。

 今日は退院日であり、武国を発つ日でもある。

 そう、僕とガウスが神国へ出立する日だ。


 僕の身を案じてくれるリスティとレイリアさんの説得は難航を極めたが、それでも最終的には二人を説き伏せることに成功したのだ。

 説得成功の要因としては、僕がテコでも動かない姿勢を示したこともあっただろうが、もう一つ決定的なものがあった。


 僕は二人の不安を吹き飛ばすだけの力を見せたのだ――そう、フェリの能力だ。


 不安を訴える二人を説得する為に、絶対的な力を持つ固有能力をお披露目したことが大きかった。フェリに頭を下げてお願いした甲斐あって、頑なだった二人も渋々ながら納得してくれたのだ。


 二人に頭を下げてフェリにまで頭を下げているという腰の低さではあるが、これで丸く収まるなら僕の威厳など大した問題ではない。……そもそもそんなものは元から存在していない。


「心配はいらないよリスティ。ちょっと行ってすぐ帰ってくるだけだからね」

「別に心配していません。ただ……難しいようであれば迷わず引いてください」


 心配していないと言いつつ、しっかり僕の身を案じてくれているリスティ。

 そしてこの様子からすると、まだ武国での留守番に納得していないようだ。


「うん、無理はしないよ。まぁでも、ガウスも一緒だから窮地に陥ることは無いんじゃないかな?」

「……私が付いていくのは足手まといになるようですからね。ガウスさんに任せるしかありません」


 おっと、リスティが拗ねているではないか。


 だが、ここで中途半端なフォローをするわけにはいかない。足手まといとは言い方が悪いが、影を持たないリスティでは不安が残るのは事実なのだ。


 今のリスティなら部隊の影持ちが相手でも負けないのは間違いない。

 だがそれは、敵と一対一であればの話だ。

 生憎と僕たちの敵は、個人ではなく組織だ。


 こちらに被害を出さない事を前提に考えれば、神国側に対して圧倒的な実力差が必要となるのだ。……厳しいようだが、そういった意味ではリスティは力不足だ。


「まぁまぁリスティ。軽く一当てして無理そうなら戻ってくるからさ」


 拗ねているリスティも可愛いが、嫌われてしまうのは辛い。

 ここはご機嫌を取りつつ耳障りのいい言葉で受け流すのが最善だろう。


「それからレイリアさん。施設の友人たちの件で力を借りるかも知れませんので、その時はよろしくお願いします」


 友人たちを解放した後のことだ。


 当時の僕やリスティもそうだったが、施設という閉鎖的な環境で生きていると一般的な生活能力を得る機会がない。

 そんな世間知らずな友人たちを無責任に放り出すような真似はできないのだ。


 従来の予定ではレイリアさんを巻き込む予定は無かったが、こうなってしまったからには遠慮なく後ろ盾になってもらおうという訳である。大変に厚かましい話ではあるのだが、友人の為なら図々しい我儘であっても躊躇などしない。


 それに、これはランズバルト家にとっても決して悪い話ではない。


 なにしろ施設の友人たちは高い魔力を有する人材揃いだ。ランズバルト家として彼らに恩を売っておくことは将来のメリットとなる可能性がある。……もちろん友人たちが借りを返す義務はないが、少なくとも僕は恩義を忘れるつもりはない。


「その件は構わないけれど……本当に、二人だけで行くの? 私も一緒に……」

「――おっと! いくらなんでもレイリアさんが動くのはいけませんよ」


 レイリアさんは同伴を希望してくれているが、考えるまでもなく論外だ。

 自由な立場となっている僕やガウスならともかく、ランズバルト家の一人娘が行方不明になれば大騒ぎになってしまうのだ。


 そもそも戦力的には僕一人でも問題無いと思っているくらいなのに、僕に加えてガウスまで同行するという万全の態勢だ。

 ここからレイリアさんまで加入するのは過剰戦力も甚だしい。


「それに僕にはフェリが一緒ですから。たとえ神国と正面から敵対したとしても負ける気はしませんよ」

「異性体……異性が、アロン君に……」


 フェリの優秀さをアピールしてみた結果、なぜか彼女の視線は険しくなった。


 その鋭い視線の先は、僕の首に巻かれている漆黒のマフラー。

 柄も無いシンプルなマフラーでありながら不思議な魅力を感じさせる逸品。


 なぜフェリの話をしている最中にマフラーへ視線が飛ぶのか?

 その答えは単純明快――そう、このマフラーの正体がフェリだからだ……!


 ――――出発を控えた僕は悩んでいた。


 神国の施設までの道程は楽なものではない。

 戦力的には余裕があるとはいえ、無駄な争いは極力避けなくてはならないのだ。


 下手に目立って神国の軍に捕捉されれば面倒な事になるし、あの神王なら終末の槍を落として外敵を排除しようとする可能性だってある。


 そこで問題になるのが、最大戦力であり一際目を引く存在でもあるフェリだ。


 物質化した黒球状態であっても抜群の存在感。

 黒球を抱えて移動する姿は、怪しい占い師か、はたまた怪しい宗教家か。

 いずれにしても怪しい事は請け合いである。


 それでもフェリが帰還を拒む以上はやむなし……と考えていたが、しかしフェリはここに来て新たな成長を見せてくれた。

 それが、このマフラー形態だ。


 旅の準備がてら入院を続けていたある日の朝。

 僕がいつものように病院の個室で目覚めると、さも当然のように僕の首にマフラーが装着されていたのである。そしてマフラーに触ろうとして首を締められた事で確信した。


 このマフラーは――フェリだ、と。


 首に巻き付いておきながら触るのはタブーというのは理不尽であるし、考えようによっては呪いのアイテムであるかのようだが、僕の為を思って新形態になってくれたと思えば文句は言えない。

 ……危うく『これが縛りプレイってやつかな?』とジョークを飛ばしそうになったが、絞殺されそうな予感がしたので口にしなかった。


 フェリは神国潜入への話し合いには興味が無さそうにしていたが、マフラー形態が僕の為の変化であることは明らかなのだ。


 終末の槍で僕が半死半生となったという事実を重く受け止めているのも知れないが、言葉を語れないフェリの心中は分からない。それでも僕は、フェリの無言の優しさを感じている。


「――そろそろ行こうぜアロン」


 僕がリスティたちとの別れを惜しんでいると、我慢ができない事には定評があるガウスからの声が掛かった。


 敵対国への潜入を控えているにも関わらず、図太いガウスは普段通りの様子だ。

 怖じ気づいているどころか、神国へ向かう事が楽しみであるかのように見える。


 そんな危うい男であるガウスの身を案じたのだろう、優しいレイリアさんが無鉄砲なガウスに声を掛ける。


「アロン君が危ない目に遭ったら代わりに死なないと駄目よ?」


 うむ、厳しい……!


 相変わらずガウスには厳しいレイリアさん。

 ガウスは「アロンなら殺しても死なねぇだろ……」と失礼な事を言っているが、悪態を吐きたくなる気持ちも分からなくはないので責められない。


 ともあれ、レイリアさんから殺気が(にじ)み出ているので止めなくては。


「まぁまぁレイリアさん、軽く里帰りに出掛けるだけですから心配は無用ですよ。――それじゃあ、フェリも準備はいいかな?」


 出発前に頼れるパートナーにも声を掛ける。

 機嫌よくマフラーを顎でぐりぐりしてしまうと、反発するように首をぐいぐい締められた――そう、僕には顔を動かす権利も与えられていないのだ!


 おっと、過保護なレイリアさんがマフラーを危険な目で見ているので親交を深めるのはこれくらいにしておこう。


 ――――。


 僕とガウスは二人に別れを告げ、長く滞在していた病院を後にした。

 当然の事ながら、神国までの公共交通機関は存在しない。武国の北方まで馬車で向かって、そこから先は徒歩で行く予定だ。


 乗り合い馬車の停留所に向かっていると――ガウスが悪戯っぽい顔になった。


「施設にいる人間の解放をするとして、それで終わりじゃねぇんだろ?」

「ふふ……なにか続きがあるのかな?」


 ガウスの悪そうな顔を見ただけで、僕は親友の言わんとすることを悟った。

 その言葉の裏に隠された真意は明らかだったが、僕はあえて先を促す。


「アロンのダチを解放したとしてもよ、元凶が残ったままじゃ安心できねぇよな? ついでに全部片付けていくのも当然だよな」


 そのガウスの言葉は、僕の予想と遜色違わぬものだった。

 そう、リスティたちには『施設の友人を解放する』とだけしか伝えていないが、僕もガウスもそれだけで済ませるつもりはない。


「うんうん、ついでに()()()()()のも友達を助ける一環だよね」


 そう、僕は神王を殺すつもりだ。


 友人を救出しても、神王が健在のままでは同じ事が繰り返される可能性がある。

 神国の膿を全て排除してこそ、友人を助けたと胸を張って言えるというものだ。


「ハハハッ、それでこそアロンだ。そうだよな、フザけた真似をしてくれた奴らは地獄に叩き落としてやらねぇとな」


 ガウスはいつになく猛々しい笑みだ。

 親友の中で僕のイメージがどうなっているのか気になるところではあるが、この様子からすると神国に対して相当怒りを覚えていたようだ。


 僕にはガウスの心情まで心を回すだけの余裕がなかったが、考えてみればガウスも多くの友人たちを終末の槍で失っているのだ。表面上は平静さを保っているように見えても、内心では神国の所業に激怒していたのだろう。


「やれやれ……ガウス君は野蛮だなぁ。まぁでも、神王を倒すとなれば施設の友達も協力してくれるかも知れないから、そんなに難しい事じゃないんじゃないかな」

「なにが野蛮だ、アロンにだけは言われたくねぇよ。それにしてもアロンのダチか……まともなやつなら良いが、どう考えても無理だろうな」


 自分を棚に上げて僕を乱暴者扱いするガウス。


 しかもこの男、〔僕の友人=頭がおかしい人間〕みたいなイメージを持っている節がある。自分が友人の筆頭格であることを忘れているのだろうか?


 まぁいい、自慢の友人たちと再会出来る日は近い。その時が来れば、ガウスは己の失礼な発言を悔い改めることになるだろう。


 武国に逃げてきてから十年。

 ここに至るまで長かったが……待ち望んだ日は、もうすぐ訪れる。

第一部【消失する日常】終了。


明日からは第二部【吹き荒れる暴威】の開始となります。

次回、二五話〔許されざるセクハラ〕

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