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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第一部 消失する日常
19/73

十九話 絶望の空

 影の能力測定を終えた僕たち一行。

 クラスメイトたちもそれぞれ種別毎の測定を終えており、僕たちは広場で輸送車の訪れを待っていた。


「思ったより早く終わって安心したよ。――今晩はリスティが夕食を作ってくれるんだけど、良かったらガウスも一緒にどうかな?」

「アロンはあれで良いのか疑問が残るけどな……」


 ガウスは僕の達成感に水を差しつつも、夕飯の誘いには「おう」と快諾した。

 この親友は一人暮らしをしているので、我が家に招くことは珍しくないのだ。


 ちなみにもうシュカは帰還済みだ。

 ガウスにだけは素直なニャンコは、文句も言わずに戻っていった。


「…………」


 もちろん我らがフェリさんは、僕の背後霊としての職責を果たし続けている。


 果たしてフェリはここに何の為にやって来たのかという思いはあるが、誰にでも個人差はあるのだから焦ってはいけない。

 今はシュカほど素直でなくとも、将来的には僕の意見を尊重してくれるようになるはずだろう。……多分。


 学園のテストが終わったばかりのような解放感に包まれた広場。


 この場で()()()()に気付いたのは――僕一人だけだった。

 視界の片隅にそれが映った時は、それが何を意味するのか咄嗟には分からなかった。見間違えだと思った。……いや、そう思いたかった。


 僕は嫌な予感を膨れ上がらせながら、()()()()()()()()()()に目を凝らす。

 そこに存在していたのは、本来そこにあるはずのないものだ。


 飛行船。

 しかもあの独特の形状は、神国の飛行船だ。


 ここは神国の国境に近いとはいえ武国の空域になる。本来なら視認出来るはずのない神国の飛行船が、なぜかそこには存在していた。

 問題はそれだけではない。


 その飛行船は()()()()()()()()()


 ――おかしい。

 神国が空域侵犯をしていたとしても、武国から神国に向かっているのは不自然だ。つまりそれは、武国に侵犯してから帰還しているという状況しかない。


 だが、何の為に……?

 国際法を犯してまで、あの飛行船は何の為に武国に侵犯したのか……?


 予感があった。全てが崩れ去る破滅的な予感。

 僕は咄嗟に真上を見上げる――――そして、絶望した。


 空にはカプセル型の物体が存在していた。救命カプセルにも見える物体だ。

 それは落下傘によって緩やかに降下していた。

 そして、僕はこれの正体を知っている。


「――――伏せてっ!」


 間に合わない。分かってはいたが叫ばずにはいられなかった。

 周囲に警告を飛ばすと同時、手近な場所に居たガウスを強引に押し倒す。


「ぅおっ!?」


 ほとんど無意識の行動だったが、おそらくこの行動は無駄に終わるだろう。

 この局面で何をしようとも、破滅の結果が変わるとは思えない。


 それでも、何かをせずにはいられなかった。


 全てが僕の勘違いであってほしい。

 僕が恥をかくことになるが、それで皆の命が助かるなら構わない。


「ど、どうしたのアロン君?」


 メガネ君の訝しむような声が耳に届いた。

 そして、それが彼の最期の言葉だった。


 僕が応えるよりも早く――――全てが光で埋め尽くされた。


 ――――。


 僕は夢を観ていた。

 施設から逃げ出したばかりの頃の夢だ。


 僕はリスティを連れて施設から脱走することに成功していたが、僕はその結果に満足していなかった。施設にはまだ友人たちが残っており、当時の僕には友人を見捨てて神国から逃げ出すという選択肢は存在していなかったのだ。


 僕とリスティは脱走後も神国に潜伏していた。

 人目を忍んで神国内の廃村に隠れ潜み、施設の友人を救出する為に、僕はリスティを村に置いたまま何度も施設への襲撃を繰り返した。


 だが施設の警備は厚かった。

 当時の僕は幼い子供に過ぎなかったが、それでも大人の影持ちが束になっても敵わないほどに強大な力を持っていた。


 しかし、施設出身の影持ちで構成されている集団――〔部隊〕と呼ばれる彼らの力は並外れたものだった。


 それも当然の事ではある。

 施設の子供は、その全てが選別された結果として生まれてきた子供だ。

 優秀な人間同士の遺伝子を掛け合わせ、常人の枠に収まらない存在であることを想定されて生まれてきているのだ。


 僕は同世代では頭一つ抜けた存在だと自負していたが、しかし施設出身の影持ちが敵となると相手が悪過ぎた。

 彼らは例外なく多大な魔力量を有しており、所持している影も魔力量に比例して強力な影ばかりだったのだ。


 僕は幾度となく施設への襲撃を繰り返したが、その全てが無駄に命を危険に曝す結果になっただけだった。おそらく僕が一人だったならば、致命的な失敗を犯すまで無謀な挑戦を続けていた事だろう。


 だが、僕には妹が……リスティがいた。


 何度目かの失敗の後、僕は重症を負って命からがら廃村へと逃げ帰った。

 そして遅まきながら気が付いた。

 半死半生となった僕を看病する妹が……気丈なリスティが、泣き出しそうな顔をしていることに、ようやく気が付いたのだ。


 当時の僕には周囲が見えていなかった。

 守るべき存在を蔑ろにして、成功する見込みの無いことを意地になって続けていた。僕は妹を守るべき兄でありながら、自分の事ばかりを考えてリスティを悲しませていたのだ。


 その時、僕は自分に誓った――もうリスティを悲しませたりはしない、と。


明日も夜に投稿予定。

次回、二十話〔混濁する記憶〕

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