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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第一部 消失する日常

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十八話 入れてしまう喝

 僕の戦闘を観戦していただけのモヤモヤに『本当にフェリは僕の影なのかな?』と、根本的な疑問を抱いていると――ガウスが待ちきれないとばかりに口を開く。


「次は俺だな。――おっさん、まだ終わりじゃねぇよな?」


 むむっ、ガウスめ……。

 相変わらず年長者に対する礼儀がなっていない。

 ここは親友としてビシッと言ってやらなくては。


「かぁぁっつ! ガウス、教官殿に向かって無礼ではないか!」

「なにが教官殿だよ……。また妙なキャラに目覚めやがって」


 僕の一喝を受けても、太々しいガウスには全く反省の色が見えない。

 あろうことか僕に悪態を吐いている始末である。


 ちなみに『かぁぁっつ!』とは、モブ君の『ッカァーッ!』という謎の奇声にインスパイアを受けた叱り文句だ。

 僕の戦闘に引いたのかモブ君が余所余所しい態度になっているので、さりげない心理的歩み寄りを見せているのだ。


 そして、無作法なガウスの態度にも関わらず、巨漢のおじさんには不快感を覚えている様子はない。体格に見合った大らかな態度で粗野なガウスを許容する。


「構わん構わん。若い内はそれくらいでいい」


 鷹揚(おうよう)な態度のおじさんは「顕現せよ」と、流れるように白熊二号を召喚した。


 通常の生物型という事で、召喚魔力にはまだ余裕があるようだ。このレベルの影を何度も召喚可能なのは中々に脅威だと言えるだろう。


 ガウスの方も不敵な笑みを浮かべたまま――「シュカ」と、黒猫を呼び出す。

 すると、元からその場に存在していたかのように「にゃん」と黒猫が現れた。


 そしてシュカは召喚されるや(いな)や、ガウスの足にまとわりついて甘えている。

 ……相変わらず可愛い猫で羨ましいなぁ。


 動物好きの本能を刺激された僕は、思わず人懐っこい黒猫へ手を伸ばす――そして「ニャァッ!」と爪で削られた!


 ひ、ひどいっ……!

 ガウスに対する反応と違い過ぎる……!

 やはり顔なのか、イケメンがいいのか? 


「…………」


 おっと、まずい。

 召喚主が手傷を負わされた事に反応したのか、フェリが不穏に動き始めた。

 短い付き合いだが、フェリがシュカに強い敵意を持っているのが分かる。


 僕は咄嗟にフェリの前に立ちはだかる。


「待ってフェリ! 僕が不用意にタッチしようとしたのが悪かったんだ」


 僕の為に憤ってくれるのは嬉しいが、ガウスの影を攻撃してはいけない。


 このニャンコは僕に恨みでもあるのか? と思いたくなるような峻烈(しゅんれつ)な反応ではあったが、元はと言えば僕が悪いのだから報復行為は許されない。

 セクハラをして『上司に逆らうのか? 減給!』と言い出すくらいに理不尽だ。


 しかし……僕が怪我をしたことでフェリが怒ってくれるとは思わなかった。

 フェリの気持ちが嬉しいので怪我の痛みなど全く気にならないというものだ。


 そういった意味ではシュカに感謝したいくらいだ。……いや、それでは自傷行為で気を引こうとする〔かまってちゃん〕のようだろうか?


 いやいや、別に他人を傷付けている訳でもないので問題は無いだろう。

 むしろ他人を傷付けていないのだから自信を持って堂々とすべきかも知れない――『僕の日課はリストカットです!』


「…………」


 僕の説得が届いたのか、フェリは渋々のようにモワンと動きを止めた。

 うむ、シュカの方も臨戦態勢に入っていたので危ないところだった。


 フェリの心意気には胸が温かくなったが、しかしそのファイティングスピリッツは白熊戦で見せてほしかったという気持ちもある……。


「おい、やり過ぎだシュカ」


 僕の手がザックリやられているせいか、ガウスから(たしな)めの言葉が入った。

 しかし……ガウスの叱責を受けても、シュカは反省していないのかマイペースに前脚をペロペロ舐めている。


「悪ぃなアロン、大丈夫か?」

「僕の自業自得だから気にする必要は無いよ。それにこれくらいは蚊に刺されたようなもんさ」


 世界最大級の蚊に刺されたくらいの勢いで流血しているのだが、そろそろ出血は止まりかけているので問題は無い。

 セクハラ犯を銃殺するような苛烈反応ではあったが、面食いニャンコに軽々しく触ろうとした僕が悪かったのだ。こちらが文句を言える筋合いはない。


 ガウスは「ったく」と溜息を吐き、白熊に視線を向けてからシュカに向き直る。


「シュカ、やれるか?」

「にゃん」


 ガウスが戦闘意思を問いかけると、シュカは注意を受けていた時とは打って変わって『当然にゃ』と素直に返事を返した。


 巨大な白熊が相手であるにも関わらず、小さな黒猫には臆した様子はない。

 傍目にはかなりの無茶ぶりをしているように見えるガウスだが、こちらもシュカの勝利を疑っていない態度だ。


 しかしそれも無理はない。


 白熊は手強い相手ではあるが、弱体化している僕であっても対応可能な相手だ。

 必然的に、万全な状態のガウスの敵ではないので、自分の影であるシュカも問題無いと考えているのだろう。


 恐ろしい信頼ではあるが、強い信頼関係で結ばれているのは素直に羨ましい。


「おっさん、その影も消して構わねぇんだよな?」


 本日二体目の白熊という事で気を使ったのか、ガウスから確認の声が飛んだ。

 シュカの敗北を念頭に置いていない傲岸不遜な発言である。


「構わんぞ。やれるものならやってみるがいい」


 おじさんは腹を立てた様子もなく、静かに戦意を(みなぎ)らせている。

 カマキリが相手でも油断していなかっただけあって、白熊より遥かに小さな黒猫に対しても全く気の緩みがない。


 そして白熊と黒猫の対決は始まった。


 両者の条件は五分(ごぶ)ではない。

 白熊は消失しても再召喚が可能なので多少の無茶が出来るが、異性体であるシュカの生命は一つだけだ。


 実力的にはシュカの方が上と見ているものの、決死の戦法が取れるというアドバンテージは大きい。……もしシュカが危険に陥るような事があれば、僕も割って入るつもりでいる。


 しかしそれは杞憂だった。


「ニャッ!」


 勝負は一瞬。

 シュカが一声鳴いた直後、両者の闘いは決着を迎えていた。


 試合開始から五秒も経たない内に、白熊の首が胴体からスルリと離れ――白熊の巨体は消失してしまった。


「なぅおっ!?」


 モブ君が驚愕の奇声を発するのも当然だ。

 集中していなければ何が起きたのか判別できないほどの瞬殺だった。


 シュカが白熊を攻略する為には、体格差が壁になるだろうと僕は見ていた。


 なにしろ相手は二メートル近い白熊だ。

 シュカのサイズでは有効打を浴びせることも一苦労となる。


 影へのダメージが少なくとも足元を狙って攻撃するしかないと考えていたが……シュカにそんな心配は無用だった。


「なるほど。シュカは()使()()なんだね」


 そう、風だ。

 試合開始直後、シュカは肉眼では視えない〔風の刃〕を放ったのだ。


 風切り音が聞こえたことに加えて、白熊の背後の壁が切り刻まれている。風によるものと考えて、まず間違いないだろう。


 恐るべきは、耐久力の高い白熊を一撃で葬り去った威力だ。

 純粋な物理攻撃でも魔力攻撃でも、あの白熊を一撃で消失させるのは簡単な事ではない。僕が精神的苦痛に耐えながらボコボコしたのは何だったのかと言いたくなるほど非常識な切れ味だ。


「ああ、そうみてぇだな。よくやったなシュカ」


 当然の如くガウスも風の刃を把握していた。

 洞察力に優れているガウスに、シュカの攻撃が分からないはずがないのだ。


 ガウスが健闘を称えて手を伸ばすと、シュカも嬉しそうに擦り寄っている。

 上機嫌で喉をゴロゴロ鳴らしている黒猫からは、先の異常性は感じられない。


「うむ、天晴れだ。まさかワシの影が一日に二度も敗れるとはな」


 おじさんの声には、学生に敗北を喫したことの悔しさは含まれていない。

 軍事教官という立場が勝敗への拘りを生まないという事もあるだろうが、学生の僕たちに敗北しても純粋な称賛を送ることが出来るのは立派だと思う。


 ともかく、これで影の能力測定は終わりだ。


 僕だけが虚偽の能力を申告した形になっているので胸が痛むところであるが、今後機会があれば訂正させてもらうつもりでいる。

 今は素直にこの場を乗り切ったことを喜ぶべきだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、十九話〔絶望の空〕

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