表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とりあえず かなえとく  作者: 深川 七草
それぞれの世界
52/52

52*そしていま*

 まだ四月になっていないのに、私は勤め先で研修をしていた。

 ゲートが守れるように、そしてそのゲートがあると悟られないようにである。

 袴型の制服を着て祈らなければならないのだが、ゲートからお気楽な李華が出て来ればこの場所、この建物に、ありがたさを感じない。

「よお! 元気してる? 聞いたぜ」

「もう。でも、謝らないといけないわね。ごめんなさいね」

 李華が実地組に選ばれた理由は、私の間違いであったからだ。

「そう言われると、真空先輩も大した事がないなって言いたくなるんだけど、この前ベート様に会ったときに今更ながら私が選ばれた理由を聞いたんだよね」

 私はその理由を聞いて、ベート様が全部を話していないと分かった。つまり、神への依存という楽な選択に頼り、考える努力をしない者を恐れているだけでなく、行動する努力をしていないリカも否定しているのだと。

 アビーとエマという子はとても努力をしている。そこで違う形で努力ができるリカを動かそうと考えたのだろう。そこまで話したら、リカはまた怒って途中で帰っちゃうだろうけどね。

 でもそれでも、私の推測が外れていたことは変わらない。

 私は一年半前、恋に夢中の紗綾に李華をちゃんと見るようにと説教をした。だけど自分が、李華のことをちゃんと見ていないのだと思い知らされた。

 単純なのではなく、真っ直ぐなんだと。

 それも分かっていたからこそ、神様やベート様は天使に選んだのだと。

 続けて聞くと、今度編入させられたクラスは大学への進学が当たり前なエリートの集まりだそうだ。勉強もそこそこで口の聞き方も悪い彼女が、そんなところでうまくやっていけるか心配になってしまうけど二人もいるし、神様やベート様はそれも承知で入れたのですよね?

 私のことを、写し世でしかやっていけないことに気がついていたから選んだのなら、それもまた理解して選んでいるに違いない。

 私にも、職員としてここに場所を与えることで、ただの落ちこぼれにしなかったのだから。


「ところで、李華。とうもろこしやかぼちゃは小袖が持って帰ったからいいけど、マンションの処分や家具の片付け大変だったんだからね」

「わりいわりい。家具やるから、真空先輩の家で使ってよ」

「あんな大きなソファーやテレビ、うちに入るわけないでしょ!」

「じゃあ、どうしたんだよ?」

 李華が聞くので、私は横の部屋と仕切っている障子をゆっくりと開ける。

「ここに」

 障子の向こうの部屋には、施設に合わない洋風で高そうな家具が並んでいる。

「なんだよ、貪欲な主が住んでそうだな」

「元はあなたの持ち物でしょ?」

「そうだったな」

 ひと事だと笑っている。

「そろそろ戻るよ、偉い人に見られたくないし」

「ねえ、小袖にはもう会わないの?」

「そのことなんだけどさ」

 李華は、申し訳なさそうに本を差し出してきた。

「何よこれ?」

「小袖に返しておいてくれ。借りパクになるのは嫌だからな」

「自分で行きなさいよ」

「ケチなこと言うなよ」

「会わなくていいの?」

「そうだな、イチゴができたら届けに行くよ」

「イチゴ? イチゴって今が旬でしょ」

「分かってないな。それは作られた旬なの。できたら真空先輩にも少し分けてあげるから」

 そう言いながら持っていた本を私に押し付けると、振り返り戻ろうとする。

「その時に会うのね!?」

 呼び止めるように声をかける。

「さあね?」

 少し顔をこちらに向けたかと思うと、後姿のまま手を振りゲートを進んで帰ってしまった。


 天使と呼ばれた私たちも、新たな場所で次を迎えようとしていた。


 終わり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ