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女子友

 リンゴをエプロンのポケットに入れて、扉をくぐり食糧庫に戻る。

「おかえり、食糧を荷車に乗せといたから、持っておいき」

 カシェットさんが、私がよけておいた食料を運びやすいように手押しの小さな荷車に積んでおいてくれた。

「ありがとうございます!」

 親切にしてもらったのになんのお礼もできないのは心苦しくて、苦渋の決断をする。

「こ、これ、お礼です。おいしいリンゴを選んできました。食べてください」

 唾液が出てくるのをごくんと飲み込む。

 ポケットから先ほどのリンゴを取り出してカシェットさんに手渡す。

「おや、こんな小さな実しか残ってなかったかい?ありがとうよ」

 カシェットさんは、食糧庫に積んであるリンゴと一緒にせずに小さな棚の上にリンゴを置いた。

 もしかすると、カシェットさんもリンゴはおいしくないと、あの少年の用に信じ込んでいるのかもしれない。それでも、私がお礼にと渡したリンゴを食べようと別によけておいてくれたんだから、いい人。大丈夫、おいしいよ。間違いないから!

 食料を積んだ荷車を押してイチールのキッチンへ戻る。

「ねーちゃんどうだった?」

「ウイル、ほら、これ!えへへっ」

 特上干し肉を自慢げに持ち上げて見せる。

「ふーん。いいのがあったのか」

 ウイルがにやりと笑った。

 えへへ。いろいろと厳しい弟だけど、私の目は信じてくれてるんだぁ。このウイルのこの顔大好き。

「やめろっ」

 思わずぎゅっと抱きしめたら、しかめっ面された。

 むぅ。かわいくない。おねーちゃんおねーちゃんって後をずっとついてきてた、あのかわいいウィルはどこへ行っちゃったの……。ぐすっ。

「材料はこれだけか?」

 荷車に乗った野菜を下ろしながらウイルが尋ねる。

「えっと、肉とか魚とか生ものは食堂の調理場に運ばれてくるらしいの。何が運ばれてくるのかはその時によって違うらしいんだけど」

「ふーん。そっか。まぁ、何とかなりそうだな」

「ほーっほっほっほっ、これで何とかなりそうですって?皆さま、お聞きになりました?」

 突然、後ろから甲高い女の声がして振り向く。

 そこには、ピンクのフリフリのついたワンピースを着た女の子がいた。

 その後ろに、3人ほどのもう少し年かさの女性がいる。

「最後に到着したばかりか、ろくに準備もしていないなんて……優勝する気があるのかしら?」

 馬鹿にしたような言葉を吐き出す、ピンクの女の子。

 同じ年くらいかな?それとも少し若いかな?15,6歳?

「もしかして、あなたも出場者?私、イチール領のリーアです。こっちは弟のウイル。同じ年くらいの出場者がいてうれしいなぁ」

 にこっと笑うと、一瞬女の子は息をのんでほっぺを赤くした。

「なっ、仲良くするつもりなんてありませんわ!リーア、あなたはライバルなんですよ?」

「わーい。早速名前を憶えてくれたのね。あなたの名前は?」

 女の子はますますほっぺを赤くする。

「だ、だから、人の話を聞きなさいよっ!仲良くする気はありません。でも、名前が知りたいというなら教えて差し上げるわ」

 んー。ライバルって言われてもピンとこないんだよねぇ。

 だって、優勝する気なんてないんだもんなぁ。

「私は、フータ領の代表、レストランpurumiのナリナよ」

 ナリナさんが名を名乗ると、続いて後ろにいた女性が次々と自己紹介を始めた。

「私は、ミリナル領代表のカジヤンよ。隣にいるのは妹のカジタナ」

 カジヤンさんは、20歳くらいの背の高い女性だ。薄茶色の細身のワンピースに大きなエプロンをつけている。髪の毛はしっかりと後ろで一つに結んで、調理に邪魔にならない恰好をしていた。カジタナさんは、真っ赤な口紅が象徴的な濃い化粧をしている。服装も調理に向いているようには見えないオシャレ着を着ていた。妹というからにはカジヤンさんよりも若いのだろうけど、濃い化粧のせいで20代半ばくらいに見える。

「私はマイマイン。ヨガマタクル領代表。イチールの特産品を見せてほしいと思ったが、持ってきてないのか?」

 イチールの特産品?

 女性にしては骨格が太くてがっしりした体系の赤毛のマイマインさんは30歳ちょっと前かな?

 腕には何か所かの小さなやけどの跡があって、手のひらは堅そう。指は太い。

 母さんと同じだ。食堂で長年調理を続けてきた人の手だ。なんか、それだけでいい人だと思ってしまった。

「特産品?もしかして、他の領では特産品を持ってきているの?」

「あら、やだ。リーアはそんなこともご存じないの?優勝するためにはおいしいだけじゃだめですのに。見た目そしてインパクト、すべてそろっていなければ難しいんですわよ。それには領ごとに特色のある料理を出さなければなりませんでしょう?」

 へーそうなんだ。

「ナリナさん、いい人ね、そっか。教えてくれてありがとう」

「わっ、私は親切で言っているわけではありませんわっ」

 また、ナリナさんがほほを赤くする。

「皆さんの領の特産品は何なのか、見せてもらってもいいですか?」

「しっ、仕方がありませんわね。そんなに見たいというのなら、ついていらっしゃい」

 うふふ。やっぱりナリナちゃんいい子だ。おっと。ついさん付けからちゃん付けに移行しちゃった。まぁいいか。

「ダリお兄様、あれを見せて差し上げて」

 4つ隣の特設キッチンには、男女合わせて10人ほどがいた。多い。っていうか、うちが少なすぎるだけ?

「おや?ナリナのお友達かい?」

 白い調理服を着た金髪長身の男性が振り返った。

 うおう、金髪に青い目に、整った顔立ちに、なんだか気品まである。

「ダリ様、先ほど到着したイチール領の代表ですわ」

 なぜか、私の存在を、カジタナさんが説明する。

 あれ?これってもしかして、ダリさんにカジタナさんが言い寄っている感じ?

 まぁかっこいいもんねぇ。もてるよねぇ。

 でも、ダリさんはあんまりおいしそうじゃないよ。

 マイマインさんのほうがおいしそう。絶対、おいしい料理作れる人だよ。あの腕がそう言ってるもん。

 ダリさんが、木箱を持ってきて中を見せてくれた。

 ふわぁーっと、いい匂いが立ち上る。

「どう?これがフータ領の特産品、オレンジよ」

 すっきりした香りに甘さも漂っている。初めて見た。

 そして、おいしいよって血が騒いでる。

 オレンジ色のつやつやした実から目が離せない。

「触ってみてもいいか?」

 マイマインさんの問いに、ダリさんがにこやかにオレンジを手に取ってマイマインさんに渡した。

 手触りを確かめ、香りをかいでいる。

「わ、私も、私も、食べてみてもいい?」

 今にも口から零れ落ちそうなつばをごくんと飲み込む。

「何を言っているんですの!食べていいわけありませんわっ!これは大会用の大切なオレンジですのよ!」

 あ、そうだよね。うん、そうだった。

「あまりにもおいしそうで、つい……」

 あははと笑ってごまかす……。

「ごめんね、ナリナの言う通り、大会用の食材だから分けてあげるわけにはいかないんだ。でも、フータ領の特産品をおいしそうだと言ってくれてありがとう。あまり王都では出回ってないけれど、もしかすると3の円の商店では扱っているところもあるかもしれないよ」

「本当?じゃぁちょっと探してくるっ!」

 オレンジ、オレンジ、オレンジ。

 あー、どんな味なんだろう。おいしいことは間違いない。でも、食べたことがないから想像できないよう。

 他にもイチール領で見たことのない食材とか売ってるのかな。

「ウイル、買い物に行きましょう!」


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