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3番目においしいリンゴ

「そんなにおいしいというのならリンゴの実を1つ食べてみろ」

「え?そんなことで許してくれるの?……くださるのですか?」

 っていうか、むしろこれって食べてもいいよっていうお許しだよね。

 勝手に実をもいで食べたとか叱られないってことだ。

 わーい。

「リーア、よだれが垂れてるぞ」

「しっ、失礼いたしました。では早速一つ、いただきます」

 と、おいしいと手招きしているリンゴの木から、とびっきりおいしいぞと主張している実を一つもぐ。

「おい、そんな実でいいのか?形も大きさも、あっちの木の実のほうが立派だしおいしそうだぞ?」

 と、少年が私のことを心配してくれる。

 少年が指さした木には、確かに大きくて赤々と輝くリンゴがたわわになっているけれど……。

 酸っぱいぞーって顔してるんだよね。

「では、早速いただきます」

 手にしたリンゴを服でこすってかぶりつく。

 ちゅぱっと、リンゴの汁が口の中に広がる。そしてシャキっとした歯ごたえ。

 リンゴの香りが鼻に抜け、そして舌に甘みが広がる。

「あー、おいしい」

 シャリシャリ、もぐもぐ。

「今まで食べたリンゴの中で一番おいしい」

 ごっくん、もぐもぐ。

「はー、しあわせぇ」

 止まらない。

 あっという間に一つ食べきってしまった。

「そんなに、おいしいのか?」

 おっと、声をかけられて思い出した。少年がいたんだった。

「っていうか、よだれが垂れてるぞ」

「す、すいません、あまりにおいしくて……も、もう一つ食べてもよろしいでしょうか?」

 勝手にしろと許可をもらったので、もう一ついっただきまーす。

 シャリシャリもぐもぐ。

「あー、みずみずしい。甘い。おいしー」

 ごっくん、もぐもぐ。

 あきれた顔で私を見ていた少年が、ふとリンゴの木を見上げた。

「お前を見てると、リンゴが本当においしいような気がしてくるな……」

「気のせいじゃなくて、リンゴはおいしいです」

 少年が手を伸ばして、大きくて真っ赤な実を一つもいだ。

「……一つ、食べてみようかな」

 私がしたように、服でリンゴをきゅっきゅとこすって少年がリンゴの実を口元に運んだ。

「だめーっ!」

 少年の手からリンゴの実を取り上げる。

「何が駄目だ。リーアがおいしいっていうから、俺も食べてみようという気になったというのに」

 急いで、私が実をとった木から新たにリンゴの実をとる。

「食べるならこっちです。この実を食べてみてください」

「は?なんでそんな貧相な実を食べないといけないんだ?」

 二つの実を並べてみれば、確かに私の手の上の実は二回りくらい小さくて輝くような赤というよりはどっしりとした深い赤。おいしそうかと言われると、見た目だけならあんまりおいしそうじゃないけど……。

「こっちの方がおいしいんです。嘘じゃありません」

「は?食べてもないのになんでわかるんだよ」

 少年の手にしていたリンゴにがぶりとかみつく。

「うえー、おいしくない……ほ、ほら、食べたけどやっぱりおいしくないですよ、こっち」

 皮には苦みがあって、実は酸っぱくって、かすかすしてて……。

「お前の言葉を信じろっていうのか?嘘をついているかもしれないだろう?」

 うう、まぁ、そうだけど。でも本当なんだもん。

 少年が、私の手から二つともリンゴを取り上げた。

 私の目の前に、大きなリンゴを突き出す。まずかったやつだ。

 次に、小さなリンゴを突き出した。ああ、これおいしいリンゴ。

 もう一度、大きなリンゴが突き出される。まずいリンゴだってば。

 今度は小さなリンゴ。ふわぁ。匂いだけでもめっちゃいい!

 って、なんで少年は私の前にリンゴを交互に突き出すんだろう?

「ぷっ。わかったよ、リーアの言葉信じるよ」

「え?本当ですか?」

「お前、気が付いてないのか?こっちのリンゴが目の前に来ると、よだれ垂れてるぞ」

 まじかーっ!

「し、失礼いたしました。で、でも、本当に、今まで食べた中で一番おいしいリンゴなので、その……」

 うひー、私のバカバカ。っていうか、リンゴは今日初めて食べたんだけどさっ。

「ははははっ。本当に、面白いやつだな。その面白さに免じて、このリンゴがまずくても許してやる」

 とげらげら笑いながら少年が小さなおいしいリンゴを遠慮気味に小さくかじった。

「は?」

 声をあげて、私の顔を見る。

 ん?

 少年がもう一口、今度は大きくリンゴにかじりついてペッと実を吐き出した。

「お前……これはどういうことだ?」

 どういうことって、どういうことですか。

「こっちの、リンゴなのに、うまいぞ……。どんな魔法を使ったんだ」

 シャリシャリと少年がおいしいリンゴを食べきった。

 えへへ。

 うまいって言ってくれた。うれしいな。やっぱり、おいしいものをおいしいって言って食べてもらえるのはうれしい。

「魔法でもなんでもないです。おいしいリンゴを見分けられるだけです」

「どれだ!」

 え?

「おいしいリンゴはどれだ!教えてくれ!」

「この木と、そっちの木になるリンゴならおいしいです。その中でも……一番おいしいのは、あれ。次があれです」

 木の上の方になっているリンゴの実を指さす。

 梯子があれば絶対にあの実を食べたのになぁと思ってみていたら、少年がするすると気に上って一番おいしいのと二番目においしい実をとってしまった。

「次はどれだ?」

 え?

「次は、あれです」

 木の枝を移動して少年がそのリンゴをもぎ取ると、ぽいっと私に向かって投げ落とした。

「あわっ」

 あわててキャッチ。

「一番おいしいのはトトに食べてもらう。次は俺だ。それはお前にやる。じゃぁな!」

 へ?

 少年はぴょーんと、2メートルはあろうかという高さから飛び降りるとそのまま木々の間をすごい勢いで走って行ってしまった。

 えーっと。

 手元に残された3番目においしいリンゴ。

「ありがとうございます!」

 聞こえるかどうかわからないけど、大きな声でお礼を言った。

 また来てもいいのかな?とか、他の実も取っていいのかな?とか聞けばよかった。


ご覧いただきありがとうございます。

早速ブクマ、評価、感想をくださった皆様感謝いたします。励みになります!

この先ですが料理コンテストが始まると陰湿な嫌がらせとかありますがリーアの性格的にめげません。

今後ともよろしくお願いいたします!

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