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【書籍化】爆裂よだれチート!食いしん坊巫女と猫竜王  作者: 富士とまと


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かわいいにゃーん

「うるさいなぁ。食べたいならまた作ってもらえばいいだろう!これば俺の!それから、最後の一切れは」

 何やら巨体の猫竜王様が少年が手にしたアップルパイを爪の先でひっかけて奪おうとしているようだ。

 えーっと、仲良し?

 この少年って何者?

 っていうか、猫竜王様、ブルブル震えている人たちガン無視なんだ。

 うん、まぁ、そうだよね。おいしいもの目の前にしたら他の事どうでもよくなるよね。って、それって私にそっくり。なんだかすごく親近感。

「最後の一切れはリーアにあげるんだっ!」

 少年が私にアップルパイを差し出してくれた。

 よ、だ、れ!

 でも、食べない。

「ありがとう。でも、これ……」

 我慢だ、我慢。

 おいしいものは、一人で食べてもおいしいけれど、みんなで食べるともっとおいしい。

 それから、大切な人と一緒に分けて食べれば、もっともっとおいしくなるんだ。

「ウイルと一緒に食べたい」

 私の言葉に、ゴマルク公爵様が大きなお腹を揺らしながら笑った。

「おお、おお、そうじゃった。巫女様の舌を満足させる立派な料理人のことを忘れておった。すぐに丁重にお連れしろ!」

 えっと?なんで巫女様って呼ぶかな?まさか、本当に私が巫女になるとか言わないよね?


「お、お待ちください!」

 青ざめた顔のカジタナさんがそれでもしっかりとした口調でゴマルク公爵様に話かけた。

「彼女が巫女というのには納得がいきません」

 うん。だよね、私も、何で私が巫女なの?って思うくらいだから。

「ほほう、なぜだ?」

「その女は信用できません。敵国のスパイではなくとも、男を探すために来たと公言するような女です。巫女の血が流れていると言っていますが、何の証拠もありませんし……その、何らかの手段で殿下や陛下もその女に騙されている恐れも……」

 カジタナさんの声が最後は少し小さくなった。

「俺が騙されてる?」

 少年がムッとする。

「殿下、人々の言葉に耳を傾けるのも仕事のうちですぞ。納得できない人事を行えば国が乱れます故、納得していただくしかありませぬ」

 ゴマルク公爵様が、少年に「殿下」と呼びかけた。

 え?

 えええ?

 ええーっ!

「まったくじぃはうるさいな。わかったよ、娘、話を続けよ」

 うおおお、マジなのですか!

 殿下ってことは、王子様?

 猫竜王の息子?

 え?でも、人の姿してるよ?

 あ、そうだ。聞いたことあるぞ。

 猫竜様の逆鱗から生まれるのが猫竜で、猫竜様の奥さんが生むのは人間だって。

 あれ?じゃぁ、猫竜様は奥さんいるんじゃん。妃探ししてるって言ってなかった?亡くなったの?それとも愛人っていうか、側室?うーん、よくわかんないや。

「は、はい。先ほど、宰相様が巫女は食材を選別するのがお仕事だと……。おいしい食材を選ぶのは私も得意でございます。料理コンテストに出場する者として、食材の良し悪しを見抜くことなど基本中の基本でございます」

 基本……っていうか、むしろ私はおいしい食材を選ぶしかできない無能だけど……。

 カジタナさんの言葉に、公爵領代表の男が一人前に進み出た。

「お前はうちの代表者だったな。なんだ?」

 ゴマルク公爵領の人なのか。

「私も、彼女が巫女だということには納得できません。彼女が選んで買ってきた肉が、臭くて硬い悪い肉だったことは皆知っています。幸いにして調理方法に助けられていましたが……。さらに、翌日には肉の種類を知らないような注文をしていました。とても、巫女として食材を選別することに長けているとは思えないのです」

 少年……いや、殿下があーあと退屈そうに地面を足でぐりぐりしている。

「そういうあれじゃないっての、わかんないかな?いいよ。おいしいと思うの選んで持ってきなよ」

 半ばやけっぱちにも聞こえる口調で、殿下がカジタナさんに言った。

「は、はい!少々お待ちくださいませ、殿下!殿下のためにとびきりおいしいものを探してまいります!」

 すぐにカジタナさんはキッチンへと向かい、ブドウを手に戻ってきた。

 あー。確かに大粒で甘くてみずみずしいブドウだ……とは分かるけど。おいしいよって声はない。

 少年がブドウをちらりと見て、なぜだか私の顔を見た。そして嫌そうに眉根を寄せる。

「リーアがよだれたらしてないってことは、おいしくないってことか。はぁー」

 ちょっと、少年!じゃなくて、殿下ぁ!

 私はおいしいもの見てよだれいつもたらしているわけじゃないんですからね!よだれを判断材料に使わないでくださいっ!

 ぐぬぬっ。

 少年が、カジタナさんの持ってきたブドウの房に手を伸ばした。

「殿下、ブドウは下の方についているものが上よりもさらに甘いのですわ。そうですわね、特にこの粒がおいしいかと思います」

 カジタナさんは、先ほどまでのように青い顔はしていない。自信に満ちた様子でブドウの粒を少年に手渡した。

 ぱくん。

 少年が皮ごとブドウを口の中に放り込む。

「うえ。ピリピリする」

 と言ったかと思うと、少年の姿が掻き消えた。

 少年のいたはずの場所には、非常に物騒な生き物がいた。

「にーにーっ」

 そう、人間の精神を簡単に崩壊させる物騒な……。

「きゃうーっ、かわいい!なんて、なんてかわいい子猫ちゃんなのっ!」

「にーっ、にーにーっ!」

 真っ黒で目がまんまるの子猫が!

 子猫が私の顔を見ている。

「撫でてもいい?抱っこさせてくれる?」

 つい、子猫に心奪われ、少年が目の前から姿を消したこととか、巫女の話のこととか忘れてしまった。

 もふもふ。

 きゃうううっ。やわらかぁい。子猫だから、猫の毛が大人よりも細くて柔らかい。


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