巫女って誰?
私が犯人だという自信満々なカジタナさんの様子に、周りの人々もそうじゃないかという疑いを確信に変え始めている。
違う、違う!私も、ウイルも、毒なんて!
「そういえば4の円で売っていた藻塩は白かったぞ。その塩の色おかしいよな。やっぱりあれは毒が混ぜてあるんじゃないのか?」
「遅効性の毒を兵たちに与えて戦力に打撃を与える、隣国のスパイかもしれないぞ」
「イチール領がすでに隣国と通じているのかもしれない」
「国境沿いの領だ。可能性はあるな」
どんどん話が大きくなっていく。
「違う、違う、違うっ!」
なんで、どうして……。
「優勝を狙っていないと言っていたが、油断させるための嘘かもしれない」
「昨日のキノコ事件も怪しいぞ。なぜ犯人が分かったんだ?裏で糸を引いていたんじゃないのか?」
ああ、あああ!
誰か信じて、私は違う!
どうしたらいいのっ!
胸に抱いたトトちゃんが、ぺろりと心配そうに私の手の甲を舐めた。
「ごめんな嬢ちゃん」
聞きなれた声に顔をあげると、タウロスさんがいた。
「成分は調べさせてもらう」
残っていた藻塩の乗った皿を兵の一人が手にしていた。
「奴は血を吐いて倒れていたが、命に別状はなさそうだ。意識が戻れば証言を得られるだろう。それで犯人が分かれば、すぐに解放される」
申し訳なさそうな顔をしつつも、仕事は仕事だ。
兵たちに私を拘束し、牢へ連れていくように命じた。
「さぁ、行くぞ!」
ガチリと両脇から腕を取られる。
「あ、トトっ!」
胸元のトトが、ぴょんと飛び降り、姿を消した。
あれ?どこに行ったの?
「その手を離せ」
あ!ニーラさん!
少年の後ろに、ニーラさんが現れた。やっぱり貴族だったんだ。ここにいるってことは……。
「な、なんだ、どこから現れた?」
私の腕をつかんでいた兵をニーラさんがにらみつけた。
「偉そうに、お前は何者だっ!」
「リーアは毒など使わぬ。隣国のスパイだと?誰だ、そんなバカなことを言い出したのは!」
ニーラさんが、いつもの優しい表情ではない冷酷な顔を見せる。
「だっ、だまされているのですわ!その女は、男あさりが何よりも好きな女ですのよ?どんな方法を使っているのかは知りませんが、次々と男を惑わしていく。ダリ様だけではなく、あの人も、その人も!」
は?
惑わす?
カジタナさんが、運ばれていった兵とタウロスさんを指さした。
まったく身に覚えがありません。
「そうだわ!毒を使うくらいですもの。男を惑わす媚薬も使っているのかもしれませんわ!あなたも、この女に騙されているのよっ!」
カジタナさんがニーラさんに微笑みかけた。
「さぁ、目を覚ましてくださいませ」
ニーラさんに伸ばした手が見えない何かにはじかれる。
「な、何?」
ニーラさんがすっと右手を上げ、私の脇にいる兵に向ける。
すると、兵は見えない何かの衝撃で後ろにふっとんだ。
すぐにもう一方の兵も同じように後ろに倒れる。
そういえば、ニーラさん、魔法が使えたんだった。すごいなぁ。
「リーアは私の大切な人だ」
大切な……。うん。ありがとう。
おいしいもの一緒においしいって食べられる人は大切だ。
「誰も、リーアを傷つけることは許さぬ。毒など、我が巫女が見逃さぬはずないだろう」
巫女?
我が巫女って誰?
確か、巫女様は何年も前にいなくなったってガシェットさんが言っていた。それは間違いなの?
どこかにいるなら、毒を見逃さないなら、出てきて私やウイルは無実だって皆に教えてよっ!
「我が巫女?わけのわからないことを!」
「そもそもどこから現れたんだ?この男」
「怪しい、その女の仲間かもしれないぞ」
「敵国の者か?見たこともない術も使っていた」
ざわざわとニーラさんに悪意が放たれていく。
ああ、私をかばったがために、ニーラさんまで悪く言われるなんて!
「ありがとうニーラさん。大丈夫です。私の無実は、きっとすぐに証明されますから……」
ニーラさんの耳元でささやいてから、前を向く。
「タウロスさん、ニーラさんは関係ありません。私、牢屋へ行きます。」
「リーア、ダメだ!巫女を牢屋になど」
え?
巫女?
まさか、ニーラさんの言う巫女って私のこと?
「ああ!そうですわ!ウイルがリーアに巫女の力を使うなと言っていましたわ!リーア、あなた本当に巫女でしたの?」
ナリナちゃんが声をあげた。
「巫女だ?」
「どういうことだ」
ざわざわと騒ぐ人をかき分けて、ゴマルク公爵様が姿を現した。
「巫女が現れたと言うのは本当のことですか?」
息を切らせてゴマルク公爵様がきょろきょろと人を探している。
ひぃー。
なんだかすごく大事になってる。
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3月15日書籍発売直前、連日更新いたします。




