にゃぁーん
そりゃそうだよね。巫女の力が犬並みの嗅覚とかそんなバカな!ですよね。っていうか、正確にはおいしいもの発見っていう、もっとそんなバカな!なんだけど……。は、はは。
「み、み、見つけの力、そう、何かを見つけようと意識を集中する力のことなの。えっと、そこかに隠したお菓子とかを見つけるのが小さいころからうまくて……」
しどろもどろ。
「ふっ。今回はその犬並みの見つけの力に助けられたってことか。今回の事件で他領の妨害をするような者はもういないと思うが、困ったことがあれば言ってくれ。じゃぁ、仕事があるんでな」
仕事?っていうか、抜けだしたりして平気なの?
っていうか、もう昼過ぎなのよね!今日の夕飯の準備!ウイルを手つだわなくちゃ!
その前に肉まん肉まん。ケーキ、ケーキ。ふわぁ。うまうま。
ナリナちゃんにお礼を言ってイチール領のキッチンへダッシュ。
おや?
キッチンには山とつまれた、蒸されるのを待っている肉まんが……。
「もしかしてウイル、今日のメニューは……」
「ああ、肉まんと蒸し野菜と蒸しリンゴ。一人じゃどうしても手が回らなかったからな」
ごめんなさい。今から手伝います。え?手を出すな?肉まんが肉の入ったエイリアンになっちゃうって?
そうですね……。おとなしく休んでいろって?でももう十分休みました。あ、そうだ。
昨日、トトちゃんにお土産買ってきたんだった。んふふ。癒されて来よう。
トトちゃん、どこかなー。
果樹園に向かい、ドアをくぐる。
「トトちゃーん」
きょろきょろしながら呼んでも見つからない。がっかり。
少し、待ってみよう。
木の根元に腰かける。木にもたれかかって上を見上げれば、おいしそうなリンゴ。
あれ?おいしそうな実がなっているのはこの木じゃなかったはずだけど……。
この木のリンゴがおいしいよって言ってる。
ああ、そうか。ウイルが蒸しリンゴを作っている。生じゃなくて料理に使えばおいしいよって……。
うん。そうだね。わかったよ。ごめんね。この間はおいしくないなんて思って。
体を反転させて、リンゴの木にぎゅって抱き着く。
木のひんやりとした感覚。あー、ウイルをぎゅっするときとは全然違うなぁ。両目を閉じると、ほわんと体が温かくなった。
「何だ、その魔法?」
少年の声に振り返る。
「魔法?」
「今、ちょっと光ってただろ?」
ん?いやいや。ニーラさんじゃあるまいし。人間が光るわけないよね?
ああ、木漏れ日がまぶしいから光っているように見えたのかな?
「私は魔法が使えないから見間違いだよ。あ、そうだ。これお土産。おいしいよ」
もちろん少年にもちゃんと買ってきましたよ。トトちゃんとおそろいで。お土産を手渡すと、少年は満面の笑みを浮かべすぐに包みを開いた。
「トトちゃんにも買ってきたんだけど、今日はいないの?」
せっかくだから一緒に食べたらおいしいかなぁと思って聞いたんだけど、少年がすっごく不機嫌な顔を見せる。
「トトのことなんてどうでもいいだろう。リーアには俺がいればっ!」
う、ううう。確かに少年はかわいいし。
なでなで。
おっと、高貴なお子様の頭を思わず撫でてしまった。いや、いいか。嫌がられてないからこのままなでよう。
細くて柔らかな髪。……まぁ、ちょいと猫のもふもふに比べたら物足りないけれど……。
「にゃっ、にゃにゃにゃっ!」
おうっ!この声は!
「うわっ、トト、来たのか!」
頭上の木の枝からすちゃっとトトちゃんが華麗に飛び降りてきた。
「にゃっ」
トトちゃんが目の前に座って頭をずいっと差し出してきた。もしかしてなでろっていうこと?
おいしくなでさせていただきますっ!
少年を撫でていた手を今度はトトちゃんの頭、それから背中をもふもふもふ。
「トトっ!俺が俺がリーアに撫でてもらってたのに、ずるいぞっ!」
少年がトトちゃんを押しのけて頭を突き出した。
「にゃにゃにゃっ」
「にーにーにっ!」
「にゃんにゃにゃにゃっ!」
「にー、にゃんにーにー!」
あれ?少年がトトちゃんと猫語で話してる。えーっと、それって、ちゃんと通じてるのかな?
なでなで。右手にトトちゃん。左手に少年。はっはっは。もふもふなでなで天国とはここですよ!
「トトも木が光ってたから気になってここに来たんだって。やっぱりさっきの光ってたのは勘違いじゃなかったんだ」
と少年。
「木が光ってた?ああ、だからそばにいた私も光って見えたのね。そっか。目をつむっていたから気が付かなかったよ、なんで光ったんだろう?」
不思議に思ってリンゴの木を見上げる。
「ふわぁぁぁっ!」
もふもふなでなで天国を思わず放棄して、立ち上がってリンゴの木に抱きついた。
「そうか、そうなのね。がんばったの。リンゴの実をおいしくしたくておいしくなぁれってがんばったのね!」
少年とトトちゃんが急にリンゴの木に話しかけた私を怪しんだ。
「あのね、さっき見た時はおいしいよって感じただけなのに、今見たら、すっごくおいしいよって。この木が実をおいしくするために頑張ったんだと思うの。光って見えたのもなんかパワー出したからじゃないのかな?うん、きっとそうだよ!」
私の言葉を聞いて、トトちゃんがしなやかな体で跳躍して木の枝に飛び乗り、前足で器用にリンゴの実を一つ落とした。
少年がそれをキャッチして、すぐさま大きな口を開ける。
「ああ、まって、違うっ!」
ガブリ。
「すっぱーっ!うえぇ」
あーあ。
「トト、わざと酸っぱい実を落としただろう!」
「にゃんにゃっ」
違うって言ってる。そうだよね。
「あのね、この木のリンゴはそのまま食べるとどれも酸っぱいのよ。蒸したり焼いたりしたらそれはもうおいしいの。……そうだ……パイ、パイにしたらとてもおいしいお菓子ができるんじゃないかしら?」
「パイか。うん、うまそうだ」
「おいしそう」
「にゃぁーん」
おっと、よだれ、よだれ。




