巫女の力
片目をつぶり、兵が持ってきた皿の上の毒キノコを見る。
覚えろ。この色。
黒。
ただの黒じゃない。真っ黒じゃなくて、少し紫がかった黒。そしてところどころに腐った血の色のようににじみがある。
探す。
この色。
犯人を。
片目をつむったまま、野次馬を見る。
黒い。黒い人たち。その黒い人たちを割って、キラキラが飛び込んできた。
「ねぇちゃんっ!ヨガマタクル領が失格だって?」
ウイルだ。
「失格になんてさせない」
ウイルのキラキラから視線を外し、再び野次馬に目を向ける。
真っ黒。
茶色っぽい黒。
黒と黄色のまだら。
違う、違う。違う。
そこに春のように明るい桃色が見えた。
「大丈夫?ショックですわよね。顔色がよくありませんわ……」
ナリナちゃんがふらついた私を支えてくれた。
顔色が悪い?
ああ、そうだ。そうだった。
色を見すぎると、気分が悪くなるんだ。
だけど構うものか!
「ねーちゃんっ!」
違う、あの色も違う。あれも違う。
野次馬にはいない。
それから、各領のキッチンを見ていく。
違う。違う。
肉を踏みつけた男、こいつか?いいや……違う。
「ねーちゃん、もうやめろ!これ以上力を使うなっ!」
力を?巫女の力?私は力を使っているの?
頭に霞みがかかったような感覚と、鼻から何かが垂れる感触。
「血が……」
すぐにナリナちゃんがハンカチで鼻を押さえてくれた。
鼻血が出たのか。
「やめろ、ねえちゃん」
「そうですわ。リーア。休んだ方がいいですわ。顔色が真っ青ですわよ」
やだ。
目から涙が伝う。
マイマインさんを助けたい。
もし、本当に私に巫女の力があると言うのなら、犯人はどこ!
指先が冷たい。
頭がぼんやりとしてきた。
駄目!駄目!
犯人を見つけるんだ。倒れない!まだ、やめるわけにはいかない!
ああ、だけど、血の気が引くようにふわりと頭がぐらつく。だめ、目を開けていられない。
両目をつぶる。だけど、全身の感覚は手放さない。色を、色を……!
ああ、体が透き通るようだ。目をつむっているのに周りの色だけが見える。
ふわっと、その色の中から一つ浮き上がった。
あの黒だ!毒キノコがまとっていた色と同じ色!
パッと両目開けて、今見た色の元を指さす。
「あの人、あの人が犯人です!ヨガマタクル領の料理に毒キノコを混ぜ入れた犯人!」
私の叫びに、タウロスさんが指さした男を取り押さえてくれた。
「ち、違う、知らない」
男が叫んでる。
違わない。確かにあいつだ。
同じ色してる。あいつが触ったはずだ……。肉を踏みつけた男と一緒にいたあの男……。
「言い分は、嘘のつけない部屋で聞こう」
タウロスさんの言葉に、男はうなだれた。
それを確認すると急に足に力が入らなくなった。。
「ねーちゃんっ!ねーちゃんっ!」
もう、立っていられない。意識も……。ウイルの声もナリナちゃんの声も遠くなってく……。
「すぐに医務室に運びましょう」
ねぇ、ウイル、ナリナちゃん……。一言言っていいかな?
「お腹が空いたけど、今は眠い……」
そこで意識が途切れた。
「馬鹿っ!起きたらとびっきりのご飯用意してやるっ!だから、絶対に目を覚ませよっ!」
ってウイルが言っていたような気がするので、幸せな夢が見られた。
うん。確かに、起きたらとびっきりの料理が目の前にありました。
ウイル特製の肉まん。おやま食堂人気のメニューで、小麦と卵で作った生地に甘辛く煮詰めた肉を詰めて蒸し上げる一品。私の大好物だ。母親がお持ち帰りしやすいものとして開発した料理。何度こっそり持って行って怒られたことか……。それをウイルは作ってくれたんだ。えへへ。うれしい。
おいしいよー、たくさんお食べって声が聞こえてくる。
それが、手を伸ばしても届かない小さなテーブルの上にあります。もちろん、今すぐに医務室のベッドを降りて、テーブルに駆けつけたいのはやまやまなのですが、目の前には仁王立ちになっているウイルが。
「いいかねーちゃん。二度とあんな無茶はするな」
「無茶?」
きょとんとして首をかしげる。
「巫女の力を無理して使うなってことだ!あのまま犯人が見つけられなくて力を使い続けたら、意識を失うくらいじゃすまなかったかもしれないんだぞ!」
……ウイルの顔が怖い。




