まぶしいニーラさん
「一緒にこれ食べませんか?さっき買ったんですけど……」
「ずいぶんいい肉みたいだな、いいのか?ごちそうになって?ニンジンの礼にしては一切れでもわりに合わないんじゃないか?」
ふははは。それはね、ギブアンドていくっていうか、ウィンウィンなあれです。
「焼いて食べようと買ったんですけど、焼く方法がなくて、焼いてもらえればうれしいなぁって」
「あはは。そうか、じゃぁ遠慮なく」
わーい。
じゅぅじゅぅ。
ぐおおうっ。めっちゃうまそう。
もぐもぐ。やっべ。やっべ。うますぎて、ほっぺた落ちる。
焼きあがる肉を、私とニーラさんと八百屋さんで次々食べていく。
「ああ、そうだ。ちょうど今日はあれがあったな」
と、八百屋さんが小さな白いニンジンを持ってきて、すりおろし始めた。
ふえ?何それ。八百屋さんが肉にすりおろした白いやつをのっけて食べた。
うんまいぞーオーラに体がビリビリする。
「私にもくださいっ!」
「おお。やっぱり大根おろし乗せるとさっぱりしてどんどんいけるからな」
大根おろし?
肉にのっけてぱっくん。
うおおおおっ!ぴりっ。だ。ぴりっ。だけど、肉の脂っこさがさっぱりとして……おいしい。
これが夏大根なの?
大根はスープの具にするものだと思っていたけれど、生のまま食べることがあるんだ。
「ありがとうございました!」
すっかり肉を食べ終わってから、夏大根を買った。
「いや、こちらこそな。いい肉食わせてくれてありがとな」
ニーラさんも扱っているすべての種類の野菜を3つずつ買っていた。本当はもっとたくさんほしかったみたいだけど、持てないよね?
「また来る。必ず来る」
ニーラさんが八百屋さんの手を握り締めて硬く握手している。
「あははっ。ありがとうよ」
当然、八百屋さんは苦笑いだ。うん。大げさだものね。
八百屋を後にして、ぎゅっとニーラさんに抱きしめられた。
「ありがとう。リーア。……忘れかけていた味を思い出させてくれて……」
なんだか分からないけれど、あのニンジンの味は大切な思い出の味だったのかな?ごめんね大げさなんて思って。
「うん」
「リーア、このまま君を連れ去りたい……」
えっと?
耳元にニーラさんの声が届く。
「私のそばにずっといてほしい……」
それって、もしかして……。
「毎日、いいや、毎食、リーアとおいしいものが食べたい。そうすれば私は……」
おおう、やっぱり!毎食ってことは、住み込みで食糧庫管理かなにかの仕事のスカウトってことよね?
カシェットさんみたいな食糧庫番かぁ……。
仕入れも全部させてくれるなら、お金に糸目をつけないなら、食糧庫はいつも最上級食材だらけ。
ちょっと想像してみただけで……。よだれ。
まって、でも、いくら食材がよくても扱う人間が悪ければ……。
料理コンテストの他の領の料理を思い出す。
よい食材を使って、腕のある料理人が調理しても、味はいいけどどおいしくない色の食べ物になることもある。
私が集めた食材は、マイマインさんやウイルのような人に料理してもらいたい。
そうだ、ウイルも一緒に雇ってもらえばいいんだよね?違う違う、おやま食堂を継ぐんだもん。
高級食材の誘惑には負けない。
でも、もしウイルが家を出て、私に婿が見つけられなくておやま食堂がつぶれちゃったら……。
それか、ウイルがおやま食堂を継いでくれるなら……。
私はニーラさんに雇ってもらうというのもありなのかも……。
「ニーラさん……あの、今は返事できません」
どうなるかわからないんだもん。
即答で断るのはもったいないお誘い。
だけど、やっぱり私の一番はおやま食堂だから。
中途半端でずるい返事だなとは思うけど……。
私の返事を聞いて、ニーラさんがゆっくりと体を離す。
両腕が私の肩の上に置かれ、顔をのぞかれた。
「うん」
ニーラさんは笑った。まぶしいほどの笑顔だ。いや、ニーラさんはいつもまぶしい。じゃなくて、本当にまた光を放っている?
「リーアはまだ王都にいるだろう?その間、またおいしいもの教えてほしい。ゆっくり考えて」
ニーラさんの唇が、そっと私の唇に触れた。
え?
驚く私の目の前で、ニーラさんの輝きは瞬時に増し、目を開けていられないほどになった。
思わず目をつぶる。
目を開けた時には、もうニーラさんの姿はなかった。
えーっと、キスされた?いや、単に挨拶?
それとも、口にソースか何かついてた?……そういえば、なんか、ニーラさんに猫扱いされてたんだっけ?
「猫竜さまだー!ありがたや、ありがたや!」
「猫竜さまー!」
猫竜様?ずっと姿を見ないと言っていたのに、毎日見てる気がする。
もしかして、ゴマルク公爵様の言うように、料理コンテストが開催されてるからなの?
だとしたら……。
猫竜様は、食いしん坊仲間なのかな?
それとも、料理コンテストの結果でお妃様が決まるから、じっとしていられないとか?
……やだ、もしそうなら、猫竜様発情期じゃないの。って、猫とは違うか……。
そうだ、トトちゃんに何かお土産買っていってあげよう。
にゃーん。会えるといいなぁ。




