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【書籍化】爆裂よだれチート!食いしん坊巫女と猫竜王  作者: 富士とまと


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ペッパー、ペッパー、ペッパー

「まずは、ここに入ろう」

 ニーラさんが私の手を取った。

 貴族がお手をどうぞと淑女に差し出す感じじゃなくって、母親が子供がどっかへ行ってしまわないようにしっかり捕まえるみたいに握られて引っ張られる。

 いや、さすがに子供みたいに急にどっかに行ったりしな……い自信はない。

 ううう。そうでした。おいしいもの見つけてふらふらと歩きだし「どこ行くんだねーちゃん」とウイルに手を掴まれたこと多数です。はい。

 入った店は肉屋だった。

 にこにこと愛想のよい店員さんが「何をお求めですか」とニーラさんに話しかける。

 肉屋といっても、並んでいるのは加工肉。

 いたって普通の品質のものばかりです。

「他のものも見せてもらっても?」

 ニーラさんの言葉に、店員さんが奥へと続く扉を押開いた。

「ええ、ぜひどうぞ」

 そこには冷たい不思議な箱が置かれている。肉を腐りにくくするもので、そごく高価だ。

 箱のふたを開けると肉がぎっちりと入っていた。

 おおお、すごいの入ってる!

 ぎっちりと入った肉の一つに、すごいの見つけた。

「ニーラさん、あれがおいしい」

 手を伸ばして箱の中を指さそうとしたら、パチンと手を軽く店員さんにはじかれた。

「お客様のような方が手を伸ばされますと商品価値が落ちてしまいます。ご遠慮ください」

 え?

 別に触ろうとしたわけじゃないのに?でも、まぁ冷たい箱の中に手を伸ばすなんてマナー違反だったのかもしれない。

「ごめんなさい」

 素直に謝ってもう一度肉に視線を移す。

「三段目の向こうから5番目の肉がおいしいよ」

 今度は指さしじゃなくて、場所をニーラさんに伝える。

「店主、今彼女が言った肉を」

「お客様、そちらの肉よりも、こちらの肉がおすすめですよ。なんせ、牛は牛でも黒牛と呼ばれる幻の牛の肉です」

 店主が進めたのは、少しばかり古くなり始めている肉だ。まだ大丈夫だけど、鼻には感じない程度の少し臭みが出ている……と、巫女の血が教えてくれる。

「黒牛?脂身が甘いというあれか?」

 ニーラさんが店主の説明を聞いて私を見た。

 おいしいものを教えるという約束をしている。嘘は付けない。黙って首を横に振った。

「今日は必要ない」

「では、こちらはいかがでしょう?なんでも、お酒を飲ませて育てた牛の肉ですよ。非常に柔らかくほんのりといい香りがします」

 へー。お酒を飲ませて育てるって、すごいな。

 でも、やっぱり珍しくってすごいなぁっていう感想しかない。だって、よだれ出ないし。

「店主、もう一度言う、彼女指定した肉をくれ」

 ニーラさんが首を振った私を確認してから店主に告げた。

「かしこまりました。残念です。何もわからないような素人が選んだ肉をお買いになるとは……。その肉は、どこにでもいる牛ですよ?」

 と、ため息をつきながら肉を用意する店主。

 ああ、肉の質が落ちていく。

 もう、それ以上触らないで!せっかくの極上物が……!

 こんな肉、こんな肉って、肉に呪いの言葉を吐きかけないで!

 ……。

 店を出てニーラさんに謝る。

「あのね、この肉は極上品だったのよ。選んだときは。だけれど……今は上品かな。うん。おいしいけど、もっとおいしい状態で食べてもらいたかった……って、違うね。私が、こんなこと言っちゃだめだ」

 私も呪いをかけるところだった。

「おいしくなれる、大丈夫だよ。おいしくなぁれ。おいしくなぁれ」

 肉の包みに話しかける。

「ふっ。面白いな」

「えへ。食堂をやってる両親に教えてもらったの。おいしくなぁれって言って料理するとおいしいものができるんだよって。だから、料理じゃないけど、おいしくなぁれって言えばおいしくなるかなぁと」

「なったよ。リーアが言うんだ間違いないよ。で、この肉はどうやって食べるとおいしいだろうか?」

 ニーラさんがうれしそうな顔をした。

「焼くだけでとっても美味しいと思う。あ、少し胡椒と塩をかけるともっとおいしいかも」

「そうか。じゃぁ、胡椒を買って焼いて一緒に食べよう」

 うほっ?一緒に食べる?その少し質が落ちたけどかなり上物の肉を私も食べられるの?

 でも……。

「焼くって、誰がどこで?」

 自慢じゃないが、私が焼くと間違いなく消し炭。ウイルに焼いてもらおうか……でも、ニーラさんは1の円出入り制限されてたんだっけ?

 胡椒を扱う店は近くにあった。

 扉を開けると、いろいろな香辛料の匂いがぶわり。

 むせかえるようなとはこのことだろうか。店内には色とりどりの香辛料が小皿に載せて並べられている。

 ああ、こりゃ、むせかえるよ。瓶に入れておかないのかな?香りの渦だ。どれがなんの香りなのかこれじゃぁわからない。でも、今回は買うものが決まっているから大丈夫。

「胡椒をいただけますか?」

「胡椒ですか?どういった胡椒を?」

 どういったって、そりゃぁもちろん。

「おいしいものをお願いします!」

 くっと、店主が鼻で笑った。

「おいしい胡椒、どれにいたしますか?ホワイトペッパー、ブラックペッパー、ピンクペッパー、それから」

 店主が、棚に並んだお皿のいくつかをカウンターに並べる。

 えええ!胡椒にも種類があるの?

「おすすめは、そうですねぇ、ご予算にもよりますが」

 店主がちらりとニーラさんを見た。

「金ならある。うまいものを頼む」

 ニーラさんが懐からじゃらりと重そうな巾着を出した。

 うわお。金持ちです。まぁ、想像通りなので。はい。

「そうですね、でしたら、このピンクペッパーなどいかがでしょうか。海を越えた異国でしか取れない希少なものでして。値段は普通の胡椒の20倍ほどしますが、王室にも納めている最高級品でございます」

 説明は、私ではなくニーラさんに向けられた。

 ピンクペッパー……。


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