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【書籍化】爆裂よだれチート!食いしん坊巫女と猫竜王  作者: 富士とまと


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生肉、食べちゃだめ、絶対

「好き嫌いせずにちゃんとなんでも食べたほうがいいですよ!胃が悪いんじゃないですか?胃が重たかったり時々痛かったりしません?」

 私の言葉に、兵がびっくりした顔をしる。

「確かにそうだが……何でわかるんだ?」

 あの時の匂いを思い出して思わず眉を寄せる。

「息が臭いです。口じゃなくて、胃から上がってくる匂いだと思います」

 兵は口をパッと抑えてそれから胃のあたりにもう片方の手を当てた。

「口が食べたいものと胃が食べたいものは別です。無理して胃を痛め続けちゃだめですよ」

 えーっと、兵の胃のあたりを見てからふわふわとわいてきたイメージを口に出す。

「お酒とお肉とはほどほどに」

「うっ」

 兵がうなる。

「大根やリンゴを食べてください」

「うっ」

 再び兵がうなる。

「リンゴって、あれだろう……酸っぱいの苦手なんだよな……」

 あれっていうのは、加工前のそれを想像してのことだろう。

「大根のあのぴりっていうのも……」

 大根のぴりっ?

「はははっ。まぁそういわずに嬢ちゃんに言われたことを実践するんだな。迷惑をかけたのに、こうして体を心配してアドバイスしてくれたんだ。役立てなきゃ罰が当たるぞ」

 タウロスさんが兵の背中をバンバン叩いて送り出した。

「ありがとうな嬢ちゃん」

 タウロスさんの大きな手がぐりぐりと頭をなでる。

「タウロスさん、何者なんですか?一兵卒ではないですよね?隊長?指導官?服装は平の兵と変わらないけれど、明らかにほかの兵のタウロスさんに対する態度は同僚に対するものじゃない」

 頭も撫でようとしたタウロスさんの手を、ウイルが手ではじいた。

「おっと仕事の時間だ。じゃぁな!」

 タウロスさんがきょろりとあたりを見るふりをして脱兎のごとく立ち去った。

 逃げた。

 なんでウイルの質問に答えなかったんだろう。

 隊長でも指揮官でも、実はそうなんだって言えば済むのに。もしかして、立派な偉い人に見られるの嫌いなのかなぁ?それとも、自由にふらふらしてるのがばれるとやばい事情だとか何か……?

「ねーちゃん、今日の準備を始めよう。食材頼む」

「了解です!」

 ふふふーん。今日はどんなおいしい料理をウイルは作ってくれるかなぁ~。

 想像したら楽しくなってきました。

 まずはえーっと、食糧庫じゃなくて今日は先に食堂の厨房に肉をもらいに行こう。

 昨日は遅く行ったから全然なかったっていうのもあると思うんだ。

「おっじさーん、昨日注文した一番おいしいお肉40人前取りに来たよ!」

 元気に声をかけると、おじさんが暗い顔を見せた。

「すまんっ!」

 え?

「最上位牛からとれた鮮度抜群の肉を持ってきたと押し切られた……」

 ふおおう!鮮度抜群なだけじゃなくて、最上位牛の肉!

 キラキラ。

 おっと、目と、垂れたよだれが輝いてしまったわ。

「俺も悪かったんだ。注文をそのまま伝えちまった。だから、こんなの注文してないと断れなかった……」

 何?なんでおじさんは謝ってるの?

 はっ!

「もしかして、すごく高い肉で、お金を払わなくちゃいけない?」

 こ、困る!軍資金として渡されたお金はそんなにたくさんないし、まだ2日目だし……。食堂で注文すれば食材は無料だって聞いてたのにっ!

 で、でも、一番おいしいお肉、最上位牛の新鮮なお肉……。

「いや、金はとらないよ」

「本当?だったら早くちょうだい!」

 他の人に取られる前に、出すのだぁ!

「本当にすまない!もしかすると、仕入れ先に出場者関係者からの息がかかっているのかもしれない。こんな嫌がらせをされるとは思ってなくてな……」

 おじさんが肉の入った箱を目の前に置いて頭を下げた。

 ああああっ!

 本当に見たことのないほどのすばらしい肉。

 最上位牛っていうのも新鮮っていうのも本当だ。食べたい。すぐにでも……って、ダメダメ!

 必死に出てくる唾液を飲み込み続け、口を開くことができない私におじさんは再度申し訳なさそうに頭を下げた。

 いやいや、こんな最高な肉、なぜ謝る必要が!

「食堂で使う分には、他のものもあるから選んでもらえば済むが、料理コンテストで使うとなると、全員同じメニューを提供しなくちゃならないだろう?それなのに……苦手な者が多いレバーだなんて……」

 血の滴るようなレバー、ぷるんぷるんのレバー。

 いやぁ、実に見事。まだぴくぴくと動き出しそうなほど新鮮。

 これがうまくないはずない!

「ありがとうございます!こんないいお肉!」

 他の人に奪われないようにさっと箱を抱える。

「え?いいのか?……明日からはこんなことがないようにもう少し考えて注文しておくよ」

「いいんです。私、本当にこんな最上位牛のお肉なんて見たことなくて、すごくうれしいんです。ありがとうございます!」

 足取り軽く立ち去る私に、おじさんががんばれよと声をかけてくれた。

 ああー、この最上位牛の超新鮮レバー。ウイルにどうやって調理してもらおう。

 今ならまだ生で食べられるんじゃないのかなぁー。うっふっふー。味見してもいいかな。

「ねーちゃん、つまみ食いは禁止だからな!」

 あううっ。頭の中でウイルの言葉が響く。

「生肉は絶対に食べちゃダメですからね!」

 母さんの言葉も頭に響く。食べても大丈夫な肉がいくら分かっても、血の滴る生肉をかじる娘は嫁の貰い手がなくなるからやめろと……。あううう。

 わ、わかりました。ぐすっ。

 せっかくのいいお肉ですが、我慢、我慢、我慢……。

 が、が、がま……がま……ん。

 うううっ。泣きそう。


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