明日の注文
食堂の他の領からだ。
なんだろう?匂いがあっちまで言ってるから、一緒に食べたいのかなぁ?
そりゃぁ、これだけおいしいものが食べられるのに食べられなかったら、睨みつけたくもなるよねぇ。
何か持参して「一緒に食べさせて」って一言いえば済むのに。
何度か気になって食堂を見ていると、カジタナさんと目があった。
おいでよーっていうつもりで手を振ったんだけど、すぐに視線をそらされた。
あれれ?忙しいのかな?
私たちは優勝狙ってないけれど、優勝狙ってる領からしたら、今日の反省会とか明日の準備とかあるのかなぁ?
ウイルと私は食堂と同じ感覚。
明日手に入った食材で料理をするだけ。
「そういえば、リーアたちは明日の食材はどうするつもりだい?」
マイマインさんがふと思い出したように尋ねた。
「えへっ。大丈夫です。ちゃんと食堂のおじちゃんに注文しときました」
うん。だから確保はされるはず。今日みたいにほとんど残ってないっていう事態にはならない。
「あら、それで本当に大丈夫ですの?食堂の食材は、王室御用達の店から納入されるけれど兵たちが食べるものだからと、普通のものしか手に入らないと聞きましたわ」
普通か。
食糧庫の野菜たちは、まぁ確かに普通というか……。物によっては普通以下だったけど。
あれは、目利きができないだけじゃなくて、兵たちが食べるんだから適当でいいだろうっていう気持ちも含まれてたのかなぁ?
でも、そこまで”悪い色”はしてなかった。
「普通じゃない、特別なものってなんだ?」
ウイルが珍しく食べ物の話に入ってきた。
「希少なものだろうね。隣国の食べ物だとか、生産量が少ないものとか、保存がむつかしいもの……3の円の店を見た限り、そういう印象だ。じゃがいもはあるかと尋ねたら、じゃがいもなら外円の店で買えと言われたよ」
マイマインさんの言葉にウイルが頷いた。
「特別なじゃがいもを売っているわけじゃなくて、じゃがいもじゃない特別の芋を売っているわけか」
なぁーんだ。特別においしいものがあるわけじゃないのね。王室御用達っていっても期待外れだ。
「じゃぁ、問題ないな、ねーちゃん。食堂にどうやって注文したのか教えてやれよ」
え?
「待ってください。聞くだけでは公平ではありませんので私たちのことも教えますわ。明日は骨付き牛のすね肉を注文しています」
ほえ?すね肉?
「ヨガマタクルは豚の脂の多いバラ肉だな」
ほにゃ?バラ肉?
困ってウイルの顔を見る。
「ねーちゃんのことだ、どうせおいしい肉くださいとでも言ったんだろう?」
ウイルが面白そうに笑った。
「ち、違うもん。ちゃんと、兵たち30人分と余分を合わせて40人分のお肉、一番おいしそうなのくださいって注文したもん」
シーン。
あれ?
固まってますよ皆さん?
「はっはっは。間違いないね。一番おいしいのって注文は確かに間違いないな」
マイマインさんが笑った。
「ちょっとリーア、いくら一番おいしい肉といっても、レバーやモツだったらどうするつもりですの?」
「レバーなら、香味野菜と炒める。モツなら臭みをよく洗い流してぐつぐつ煮込む」
ウイルが即答した。
出来上がった料理を想像して、よ、よだれが……。
おいしいよねぇ、レバー炒めに、モツ煮込み!
「リーア!あなたが好き嫌いがないのはよぉく分かりましたわ!ですけど、30人を相手に料理するんですのよ?レバーやモツなんて、苦手な人が多い肉の部位ツートップってわかっていますか?」
え?部位で好きとか嫌いとかあるの?
がくがくとナリナちゃんに肩を揺さぶられた。
「あはは。きっとウイル君なら上手に調理してくれるよね、リーアちゃん」
にこっとダリさんが綺麗な微笑みをくれる。うん。そうなの。
思わずダリさんの腕に抱き着いた。
「そうなの!ダリさん、分かってくれる?ウイルはね、何でもおいしくしちゃうのよっ!」
「ちょっとぉ、リーア!あなたがウイルを信用してるのは分かりましたが、お兄様から離れなさいっ!」
「あはは。そろそろ片付けようかね?」
マイマインさんの言葉に
「マイマインさん、とてもおいしかったですよ。でもさすがに30人前ともなると食べきれなかったね」
焼くだけ焼いて、焦げないように皿に引き上げた肉の山を見てダリさんがつぶやいた。
ううう。おいしかったの。残したくなかったの。でもデザートも食べてお腹ぱんぱんなの。
持って帰ってお腹が空いたときに食べるの!
ん?お腹が空いたとき?
「そういえば、マイマインさんのところの兵でたくさん料理を残している人はいませんでしたか?」
「ああ、いたよ。口に合わなかったかねぇ。2人ほど半分ほど食べ残していた」
「口に合わなかったんじゃないと思います」
兵なら多少まずくたって残すようなことはしないと思う。食べられるときに食べておかないといざというときに動けない。
一度に食べられる量が少なくて途中でお腹が空いてしまう人がいる話をした。
「じゃぁ、この肉もパンにはさんで明日配るかい?」
マイマインさんの提案に、ナリナさんが待ったをかけた。
「踏みつけた肉を配ったって知られたら怒りを買うんじゃありませんこと?」
ふおっ。忘れてた。あんまりおいしいから。
「ヨガマタクルで配るよ。あいつらが踏んづけたのはイチール領の肉だろう?大丈夫さ。もしばれても悪いのは踏んづけたやつらだと言ってやるからね。じゃぁ、ちょっと手伝ってくれるかい?余っているパンはあるかい?」
マイマインさんやウイルにダリさんとナリナちゃんがパンとお肉とか挟んだりし始めた。
私は……簡単な作業でも手伝うと足手まといにしかならないので、傍観。
っていうのも申し訳ないので、タウロスさんを探して、いつも食事を残してる人に声をかけてもらえるように頼んでおいた。小食なのか、一度に食べられる量が少なくて途中でお腹がすいてしまうのかわからないけれど、もしお腹が空いたならヨガマタクル領のキッチンに行ってみてほしいと。
あ、もちろんタウロスさんの分はないからと念押しは忘れません。
いつでも腹ペコ食いしん坊が集まったら、いくらあっても足りないからね!
えーっと。作業を眺めながら他に何かできないかなぁと考えていて思い出した。
そうだ。




