「あーん」
「おや?予選を通過した者は希望すれば城で働けるって聞いておるが、希望するつもりはないのかい?」
初耳だ。
「給金もいいし、城で1年も働けば箔が付いて店も繁盛間違いなしだと、優勝は狙えなくても予選通過を狙っている代表者は多いって聞いたがね」
うおー、知らない話ばっかりだ。っていうか、もしかしてそうして領主様が出場者にはっぱをかけて頑張らせようとしてるのかな?
いや、単にゴマルク公爵様がお城で各地のおいしい料理を作らせたいだけという可能性も……。
しかし、そうだったのかぁ。優勝じゃなくて城で働きたいから、他の領を妨害するくらい必死だったりするのか……。とんだとばっちりだなぁ。
「あー、優勝も狙ってないですし、予選通過の野望もないですから……」
「そうかい、そりゃ残念だ。お前さんみたいに食料と真剣に向き合ってくれる人間に働いてもらいたいんだけどねぇ。どうも、最近は納品業者は食料の良し悪しもろくにわからない人間が増えていやんなるんだ」
カシェットさんが私の手元のじゃがいもを見る。
「リーアと言ったか。50年前は、今お前が選んで手にしたようなじゃがいもばかりじゃったよ。いいや、それ以上に選び抜かれた上物のじゃがいもが倉庫にはあふれていた」
ふおおっ!上物のじゃがいもっ!
っていうか、50年前?ガシェットさん一体いつからここにいるの……?!
「王室御用達の店も2代目3代目になったら、目利きがいなくなっちまった……。いい品は珍しい物、希少なもの、入手困難なものだと勘違いする店もある」
珍しいもの……うん、食べてみたいなぁって思うよね。
私みたいな庶民からすると、王都御用達で、貴族様とか買いに行く店にじゃがいも積まれてたらちょっとがっかりしちゃうかもなぁ。
でも、じゃがいもの中でも選び抜かれた極上品のじゃがいもばかり並んでいたら、さすが王室御用達って思うかも。
……貴族とかは、じゃがいもの良しあしが分からないから「なんだじゃがいもしか置いてないのか」ってなるのかな?
そうすると、店もめずらしい芋とか集めて置くようになったり?噂では紫色や黄色やオレンジ色のじゃがいもが世の中にあるそうだし。
「ほら、それを見て何か感じないかい?」
カシェットさんが今度はニンジンの山を指さした。
うん、どれも使いやすそうな大きさで、使いやすそうな形で……。
味は、普通といったところだろうか。
「お行儀がいいだろう?」
行儀?
「足を突き出したようなニンジンは一つもない」
足を突き出す?
そうだ。街で買うニンジンはこんなに形はそろっていない。二股三股に分かれていたり、デコボコしてたり、大きいのもあれば小さいのもある。そして、形は悪いけれどニンジンの味がぎゅっと凝縮したものや、ニンジンの草っぽい独特の味が薄くて生でも食べやすいものとか味もいろいろあった。
「形がいいものが、いい野菜だと信じてるバカが王室御用達業者だよ」
言われてみれば、つるされてる玉ねぎも私が選んだじゃが芋も、形が妙にそろっている。
「キュウリはまっすぐ、ナスは皮に傷は厳禁、リンゴは真っ赤、それから……おっと、ついつい愚痴が出てしまったよ。倉庫から私は離れられないからね。搬入される食材を受け取るだけだ……誰か仕入れしてくれるものがいればと思ったんじゃが……リーア、本当に働かないかい?」
おいしい食材を仕入れる仕事……。
外円の店に並ぶ見慣れた食材に、見たことのない食材。大きな都市だけあって、その数はすごくて、イチール領では見られないような極上品もちょこちょこと混じってた。
「仕入れるために試食とかできるのかな……」
「そりゃもちろん。仕入れるときにも、出来上がった料理も試食できるさ」
おおうっ!まじっすか!じゃぁ、仕入れの名のもとに極上品食べ放題じゃないっすか!
よだれがっ!
恍惚の表情を浮かべた私に、カシェットさんがにまぁと笑った顔を見せる。
はっ!だめだめ!
「む、無理ですっ!私はイチール領に帰って、両親の食堂を継がなくちゃいけないんですからっ!」
やばい。うっかりカシェットさんの術中にはまるところだった。
じゃがいもをエプロンで包むようにして持ち、急いで食糧庫の出口に向かう。
「はー。巫女様が納入業者を選んでくださっていたころは、こんなことはなかったのに……」
カシェットさんの嘆き声が聞こえた。
ん?巫女様?
いやいや、気にしちゃだめだ。私はここには残れない。イチール領に帰るんだ。
キッチンが見えるところまで小走りで戻る。
ウイルの姿が見える。
真剣な顔でフライパンの中をかき混ぜている。ああ、ソースを作っているのか。
片目をつむってウイルを見る。
キラキラ。
キラキラ。
父さんと同じ。おいしくなれって全身からキラキラがあふれてる。
ウイルは料理が好きなんだと思う。おいしいって人に食べてもらいのが大好きなんだと思う。
食堂は、ウイルが継ぐべきだ。
食べるのは大好きだけど、料理のできない私よりもずっとふさわしい。
実の子じゃないからって、私に遠慮があるならば……、私がいなければ?
「あ、ねーちゃん遅いっ!」
顔をあげたウイルに見つかった。
「ごめん」
今は、何かを考え込む時間はないんだった。急げ。
じゃがいも担当は私だ。洗う。茹でる。あ、茹で上がりを確認するのはウイルの仕事ね。
……ええ、料理が壊滅的な私だと、茹でたりなくて硬いか、茹ですぎてドロドロかどっちかだからね……。
皮のまま茹でたじゃがいも、熱々のうちにスプーンで皮をペロリンとむく。これは上手だよ。だって、自分の分を食べるときにむくのと同じで料理じゃないもの。
おお、きれいにむけた。
いっただきまー
「ねーちゃん、つまみ食い禁止だからな!」
ぐおっ、なぜわかる。後ろを向いたままなのに、なぜ今口に入れようとしたのがバレてるんだ!
ウイルの後頭部を驚きの気持ちでにらみつけると、くるりとウイルが振り向いた。
「ほれ、味見」
いやーん、ごめんね、にらんだりして。おねーちゃんが悪かったわ。
あーん。
お口を開けて待ってると。
「じ、自分で食べろよっ」
差し出したスプーンを手渡そうとする。
「私の手は忙しいんです。
じゃがいもの皮むきで両手がふさがっている。空いているのは、口だけなのでーす。
「あーん」
今度は声に出して催促する。




