食いしん坊公爵登場
「そうか、まぁ、二人がそこまで言うなら……、期待して待ってろと伝えるよ。だが……本当に気をつけろよ。今回はこの程度で済んだが、どの領も必死だ。猫竜王様の妃を我が領からという領主からのプレッシャーがすごい。正直、どんな手を使ってでもと思っている領も多いからな。予選突破は10の領だ。公爵領など上の方はもうすでにいろいろと手をまわして予選突破は確実だと言われているから、下手なことはしてこないと思うが……問題は」
ん?
公爵領とかは予選突破が確実?
確かに金に糸目をつけないいい材料を取り揃えている感じはあったけれど……。それほどいい色の料理が作れるようには思わなかったよ。
「いや、噂の段階であれこれ言うべきではないな。俺らは公平に味を審査するだけだからな。じゃぁ、がんばれよ!」
タウロスさんが軽く手をあげて去っていった。
もしかして、肉事件を耳にして心配して来てくれたのかな?
「タウロスさん、いい人だね、ウイル」
「は?ねーちゃんはああいうのが好みなわけ?」
ん?前にも同じこと聞かれたような気がするぞ?
「ううん。タウロスさんは料理できないよね」
ウイルがはぁーと、大きなため息をついた。
「だめだよ、ウイル。ため息をつきながら料理するとまずくなるよ?」
「ったく、誰のせいだと……。いや、ねーちゃんの言う通りだな。おいしいものを作って食べてもらう、それだけを考えないとな」
「うん。早く出来上がらないかなぁ。ウイル、味見は私に任せてね!」
ウイルが再びため息をついた。
「ねーちゃんは、本当に食べることばっかりだな……」
ううっ。
「だ、だって、私が手伝えること終わっちゃったら、逆に手を出すと焦げたり崩れたり、辛くなったり……」
ウイルの手が私の頭の上に乗った。
「わーってる。僕にあとは任せとけ。ねーちゃんにうまいって言わせて見せるからな」
ニッと、ウイルが自信に満ちた顔をする。
「うん。ウイル大好き!」
両手を広げてハグ!しようとしたら、ひらりとかわされた。
くっ。
ダメか。ちくしょうめ!
小さいころのウイルは、ぎゅーってしたら、ぎゅーってし返してくれるかわいい存在だったのに……。
「おや、そんな肉しか手に入らなかったのか……。大丈夫かい?」
マイマインさんが心配して様子を見に来てくれた。
「私の領では、硬い肉は果実の汁に漬け込むと柔らかくなるんだよ」
声を潜めて教えてくれた。
「えへへ、ありがとうございます。一応対策はしてるんですが、せっかくなので一部の肉で試してみますね!」
「いいってことよ。あんな卑怯な奴らの思い通りになるのが許せなくてね。みんなにおいしいものを食べてほしいじゃないか」
うるり。マイマインさん本当にいい人。
「そうですよね、おいしいものを食べられればそれだけで今日も一日よかったなって思えるし」
それはどうかという顔をウイルがしているが無視。
「ふっ。そうだね。食べることは大事だ。じゃぁ、がんばるんだよ」
ウイルに肉を食べやすい一口サイズに切ってもらい、酸っぱいリンゴをすりおろして肉を浸す。
「うっわー、本当でしたのね?こんな肉じゃぁ、あいつらが勝ち誇ったような顔をするはずですわ!」
ナリナちゃんも様子を見に来てくれた。
なんだか、私以上に悔しがってハンカチをぎりぎりかみしめている。
っていうか……。
「ナリナちゃん、どんな噂が広がってるの?」
さすがに心配して次々と人が見に来るなんてどんなことになっているのかと確かめてみる。
「庶民の最下層が買うような、年老いた牛の一番硬くて不味い部位を買ったと噂されてますわ」
ん?
その通りだ。誰か買うとこ見てたのかな?
「わざとまずい料理を作って、他の領の人間に肉をダメにされたと騎士様に訴えるつもりだという噂もありますわ」
「はぁ?何それ!わざとまずい料理を作る?そんなことするわけないじゃないよっ!」
「ですわよね。リーアさんはそのつもりでも、臭み強い硬い肉では……満足いく料理は作れないのではないかと皆が噂していますわ。ライバルが一つ減ったと喜んでいる領もあるようです」
いや、もともと優勝狙ってないからライバルじゃないけど。うちの領は領主からの支援もないからねぇ。材料費も最低限支給されたものしかないから、もともと食材の質で勝負なんてできないし。
よい食材じゃないとおいしい料理ができないと思っている人からすれば、今回のことがなくても、イチール領は眼中外だよね。早くいやがらせとかなくなるといいな。
「そうそう、赤ワインを使うと、お肉が柔らかくなりますわよ」
ナリナちゃんが去り際にこっそり耳打ちしてくれた。
ナリナちゃん、なんていい子なのっ!
むぎゅっ!
「ありがとうっ!」
去ろうと背中を向けたナリナちゃんに抱き着く。
「ちょっ、放しなさい!もう、だから、抱き着くのはやめなさいって言っていますでしょ!」
ぐふふっ。
ウイルと違って、まだ背後からの抱き着き回避スキルは身に着けていないようね。ニマニマ。
「なっ、何を笑っていらっしゃるの?もうっ!あなた方は子供2人で一番つぶしやすいと思われていますからね、とにかく気をつけなさいよっ!」
真っ赤になってナリナちゃんが戻っていった。
あ、そういうことか。確かに、私とウイル二人で大人がいない。まだ料理を見せあってもいなくて実力もわからないのになぜいやがらせの対象となったかといえば、そういうこと?
「おや?最後に来たというから、手の内を見せずに何か作戦があるのかと思っていたが……、イチールは勝負を捨てたのか?」
おや?って、今度は誰?
キッチンをのぞき込むように姿を現したのは、やけにきらびやかな衣装を身にまとった小太りのおじさんだった。
「ゴマルク公爵様のおなりである。控えおろう」
小太りのおじさんの後ろに立っていた数人の男のうちの一人が声を張り上げた。
ふおうっ!公爵様かっ!
偉い人だ!
えっと、ほら、領主様に会うときもそうだけど、偉い人と会うときは頭を下げて、それからどうするんだっけ?そ、そうだ、スカートのすそをつまんで膝を……慌てて礼を取ろうとすると、
「よいよい、コンテストの料理の準備で忙しいだろうから、礼はいらぬ」
と、ゴマルク公爵様が家来をたしなめてくれた。
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