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【書籍化】爆裂よだれチート!食いしん坊巫女と猫竜王  作者: 富士とまと


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安い肉

「気に入らないわけないです!すごくおいしくて、夢のような味がしました!だけど、私には過ぎた品ですっ。チョコレートもクッキーも、甘いお菓子は、私にはぜいたくなんです。もらえません」

 ニーラさんの手が、小瓶を私の手に握らせ直す。

「僕がリーアにあげたいんだから、もらってほしい」

 首を横に振った。

「甘いお菓子は少しでいいんです。1年に一度食べられれば……すごく幸せになれるの。食べすぎて、口が甘さになれるのが怖い……」

 桃の甘さも、トウモロコシの甘さも、甘いと感じなくなったら……。

 チョコレートがもう一度食べたいと、手に入らない品を求め続けることになったら……。

「そうだね。確かに、毎日食べるようなものじゃないよね……。いくら、他に食べられるものがないからと言って……」

 ニーラさんが顔を曇らせた。

 ん?毎日食べる?

 こんな、贅沢品を?

 た、例え話だよね?

「お願いがあるんだ」

「お願い?」

 えっと、チョコレートクッキーを2個もらったんだから、お礼はしなくちゃいけない。うん。

 おいしいものの恩義を返すのは大事。巫女の血もそう言っている。感謝して食べないと罰が当たるの。

「リーアにしかできないというか、リーアなら信用できる。リーアの力を貸してほしい」

 え?

 信用とか、たった2度会った人間を信用しちゃっていいの?

 あ、うん、私もおいしいものくれる人は信用しちゃうタイプなんだけど……。っていうか、それでよくウイルに怒られるんだけど。

 私にしかできないなんてことあったかな?できないことはいっぱいあるけど。

 魚のうろこ取りとか、野菜の皮むきとか、卵を割るとか……。

「おいしいものを教えてほしい。リーアが教えてくれるものはどれも間違いなくおいしい」

 ふおっ!

 おいしいものを知ってる人間は無条件で信用しちゃうとか!

 同種の、匂いがするわ!例えお貴族様で超イケメンでも、なっかーま!うれしくなって思わず顔が笑う。

 ウイル、ナリナちゃん聞いた?食べ物は人と人をつなぐんだぞ。食いしん坊も役に立つんだぞ。えっへん!

「いいよ、おいしいものを見つけることだけは自信があるんだ!」

 どーんと胸を張る。

「あ、でも、ダメだ、今日は時間が……」

 肉を買って帰らないと。

「ああ、私の方もそろそろ時間がないな……次に会った時に」

「うん。そうだ、もし買い物するとしたら、あの店とそっちの店なら置いてあるものの8割はおいしいよ。じゃぁ、ごめんね、今日は本当に時間がなくて」

 ばいばーいと手を振ってニーラに背を向けて走り出す。肉を扱う店が立ち並んでいるのはもう少し南の方だ。

 あれ?次に会った時といいながら、会う約束はしていないよね。

 まぁいっかな?なんか、ニーアとはまた会えそうな気がする。


 さて、困った。

 肉を扱う店を一通り見て途方に暮れる。

 財布の中身と、肉の値段……。この差をどう埋めるべきか。

 買い食いもせずに我慢したのにも関わらず、財布の中身で買えそうな肉の量は、どう考えても20人前くらいだ。

 20人前の肉を買って帰って、お金を持ってもう一度来る?

 うーん……。

 肉屋の前でたたずむこと10分。

「嬢ちゃん、何を悩んでるんだい?今日の献立がまだ決まってないなら、こいつがおすすめだよ。焼いても煮てもいいからね」

 店主が声をかけてくれた。

 人の好さそうなにこにこ顔だ。片目をつむって店に並んでいる肉を見れば、店主のにこにこ顔と同じようにほんわりと黄色っぽいあたたかな色を帯びている。

「えーっと、安いお肉をたくさんほしいんですけど、どれも予算より高いなぁって……」

 ああまるで値引き交渉みたいな言葉が出た。

「安い肉かぁ、こんなのもあるぞ?」

 店主が見えなかった場所から一塊の肉を取り出した。

 うっ。

 巫女の血はおいしいぞってまったく反応しない。それどころか、ランクとしてはかなり下っぽい。

 いや、庶民は肉が食べられるだけでもありがたい話なんだけど、城のコンテストで使う肉としては……。

「年老いた牛の、首の部分の肉だ。だから、かなり硬くて少し臭みもある。だからな、値段はこれくらいだ」

 と、店主が指で示した金額は十分買える金額だった。

 硬い……。

 臭みがある……。

 だから、おいしくないよーっていうことなのか。

 父さんの言葉が頭に浮かぶ。

「おいしくないものをおいしくするのが料理人の仕事だ」

 ふっと息を吸って、もう一度肉を見る。

 あ!

 ぶわぁっと、おいしくないよっていう肉からのイメージが、おいしくなれるよってイメージに変わった。

 そうだね。うん、そうだ!

「おじさん、この肉ちょうだい!」

「おおう、いいのかい?まいどあり」


 キッチンに戻って、自慢気にウイルに買ってきた肉を見せる。

「どう?いいでしょう!」

 どーんと、調理台の上に肉の塊を乗せてウイルに見せる。

「なんだか少し色が悪くて匂いもするようだけど……」

 一瞬ウイルがぎょっとした表情をする。

「でも、リーアがいいっていうんだから、いいんだよな」

 それから、すぐにニッと笑った。

 えへへ。ウイルの絶大なる信頼がうれしい!

 ここから先は私がウイルの料理の腕前を信用するところだ。


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