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【書籍化】爆裂よだれチート!食いしん坊巫女と猫竜王  作者: 富士とまと


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黒い悪魔

 ふえええっ!

 そして、店主はお金を手からとると、持ち手にトウモロコシの葉っぱを巻いて、白い手に渡した……。

 うわわーーーっ、あ、あたしが、狙っていた、狙っていた……トウモロコシが……。

 いや、うん、買い食いダメだって、見えない力が働いたに違いない……。

 がっくりと肩を落として、肉を探す旅に戻ろう。

「うん、おいしいな。さすがにリーアが目をつけただけのことはある」

 へ?

 声に振り向いてみれば、昨日の超イケメンが焼きトウモロコシをはぐはぐ食べながら立っていた。

 貴族様っぽいのに、ナイフとフォークを使った食事しかしたことなさそうなのに、トウモロコシにかぶりつく姿は妙に似合っているというか……。よほどおいしかったのか、上手にあっという間に……。

「うわーん、食べたかったのにぃっ!ひどいよぉ、ニーラ!」

 粒一つ残さずきれいに完食した超イケメン、ニーラを思わずにらみつけた。

 昨日去り際に教えてもらった名前、間違ってないよね。

「あ、ごめん、ずっと見ているだけだったから、食べないんだと思ってた……」

 ううう、そうだよ。食べたいけど食べないつもりだったんだから……。

 文句言う筋合いはないんだよ……。

「代わりに、これ、食べる?女の子はこういうの好きでしょう?」

 ニーラがポケットから手の平くらいの小瓶を取り出し、その中に入っていた指のような形の黒い棒状のものを取り出した。

 何、これ?

 黒くて見たことがないけれど、おいしいぞ、おいしいぞ、虜になるぞ、ほーら、食え、食え、食わないと一生後悔するぞぉーって血が騒ぐ。

 うわー、こんなに興奮するのって珍しい。

 よっぽどおいしいものなんだ。

 ほしい。

 でも、どう考えても焼きトウモロコシを食べたことにニーラに非はないわけで。お詫びしてもらう話でもないし……。

 あ、やばい、よだれ垂れそう。でも、何でもかんでも食べ物をたかる女じゃないんだから、私……。

「ねーちゃん、知らない人から食べ物もらうんじゃないっ!」ってウイルの声が頭で響く。

 ウイル、でもニーラさんは知らない人じゃなくって、昨日も会った人なんだ……とか頭の中でウイルに言い訳したり。

 と、受け取るのを躊躇していると、ニーラさんが手にもっていた黒い棒状の何かを自分の口に持って行った。

 ぱくんと口を開いて加える。

 うわー、くれるんじゃないの?見せるだけで自分で食べてお預けとか、何のお仕置きなの!

 ううう、よだれより先に涙が出るって。涙目だよ、涙目。

 と思ったら、ニーラは口にくわえたままそれ以上食べなかった。

 ん?もしかして、見慣れない品だから毒じゃないよって大丈夫だよって教えてくれようとして口に入れただけ?

 ニーラさんいい人?

 と、毒見までしてもらって食べないのは人としてどうなの?ね?食べないとね!うん。

 とか思っていたら、ニーラさんが口に黒い棒状のものを加えたまま顔を近づけてきた。

 にゅ?

 にゅにゅにゅっ?

 く、口移し?何それ……。

 ぱくん。

 あうー、私のバカ!何それとか思いつつも、おいしいぞー、極上だぞーの誘惑に勝てなかった……。

 いや、でも、口同志は触れてないし、セーフ?ねぇ、誰か、セーフだって言って!

 ふわぁ、おいしい。

 甘い、何、これ……幸せの味がする。

 そして、その甘くておいしい何かの中はこれまた甘いビスケット?もっとさっくりしてるけど。

「おいひい。幸せ」

 ほわぁんと、もう何も考えられない。ただ、ただ、口の中に広がる甘い幸せの味に酔いしれる。

「もう一つどうかな?」

 と、差し出されたものを拒否できる人間がいるなら教えてほしい。

 よって、私は何も悪くない。

 ついうっかり、今度もまた口移しだったことに何の疑問も思わなかったことは……。

 ぱくん。もぐもぐ。

 はー、お、い、し、い。

「もう一つどう?」

 と再び差し出されたとき、悲鳴が耳に入った。

「きゃーっ、いやぁーん、うらやましい」

「見せつけてくれるなぁ、こんな町中で」

 ふおっ?

 はっと目が覚めた。

 また、口移しで食べさせようとしている、目の前に迫った美しい顔が目に入った。

「ひゃ、ひゃーっ、あの、普通に取って食べられますからっ」

 ずささっと、3歩ほど後ずさる。

「ん?」

 ニーラさんがかがめていた腰を伸ばして、首を傾げた。

 口に加えていた黒いお菓子を手に取って、私の口についっと入れてくれる。

「ああそうだったね。つい、猫の癖が出た」

 苦笑いするニーラさん。

 猫の癖?

 猫に餌をあげるときはいつも口移しっていうことなの?

 っていうか、私、もしかして猫扱い……?

 そういえば、トトちゃんにも干物分けてもらったりしたけど、あれは同族扱いだったんだろうか……。

 私の、いったいどこが猫っぽいというのだ?!

「ごめんね。ちょっとまだ頭が混乱しているみたいだ」

 ニーラさんが頭をフリフリしてからにこっと笑った。

「気に入ったのなら、あげるね。チョコレートクッキーっていうんだって。隣国のお菓子だよ」

「チョコレートクッキー?」

 聞いたことがある。チョコレートもクッキーも貴族様でも1年に何度も食べられないくらい珍しいお菓子があるって。

 って、そんなに貴重な品って、めっちゃ高いんじゃないの?!

「も、もらえませんっ」

 食べちゃった分は返せないけど、まだ器に入ったものはニーラさんに押し返す。

 ニーラさんが悲しそうな目をして、首を傾げた。金の髪がさらりと揺れて光る。

「気に入らなかった?」



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