お肉の扱い方
おじちゃんたちの手元はきらきらしてる。
そうだよね。昨日だって、リンゴに火を入れると甘くなるって発見してすごく喜んでた。
少しでもおいしくみんなに食べてもらえたら、うれしいんだよね。
よだれをたらして眺めてた私に、味見もさせてくれた。
おいしそうだなって見てたからだよね。
おいしいって言ってくれるのが喜びだから……。
両目を開いて、手元の肉を見る。
えへへ。
君たちはラッキーだよ。ウイルに料理してもらえるんだもん。
思わず出来上がりを想像してににゃらとして歩いていたら、何かに足を取られて転んでしまった。
ぎゃーっ!に、に、肉がっ!
肉を乗せていたお盆がすっとんで、肉は床に散らばってしまった。
あああっ!
急いで拾い集めようと手を伸ばすと、肉をぐしゃりと踏みつける足が目に入る。
「いやぁーっ!やめてぇ!」
思わず悲鳴が出る。
それ以上肉を踏みつけられないように、踏みつけている足にしがみついた。
「離せよっ!」
バシンと、肩が叩かれる。
「せっかく、俺たちが先回りして肉も魚も使えないように持ち出したのに、どうやって肉を手に入れやがった」
え?
あの大量の肉や魚は、料理に必要だったんではなくて、私たちが使えないように持ち出したっていうの?
「どうしたの?その肉とか魚は?」
そこで初めて顔をあげてしがみついている男の顔を見た。
ああ、そうだ。この顔だ。大量の肉を持って行った男だ。魚を運んでいた男の姿もある。
「ふっ。さて、どうしたかな?」
ニヤリと嫌な笑いを浮かべる。
「どうしたの?」
立ち上がって、男の胸倉をつかむ。
今、この男は平気で肉を踏みつけた。
もしかして、あの肉も……。
「残念だなぁ、もう無いよ。いくらくれと言っても、無いんじゃぁ渡しようがないからなぁ」
無い?
「どうしたの?」
ぎりぎりと、思わず手に力が入る。
食べ物を粗末に扱うなんて、許せない。
料理に使うような時間はなかったはずだ。なのに、あの大きな肉がもうないなんて……どうしたのか。
「うるせーな、離せよ!」
ドスンと肩に衝撃を受け、後ろによろけてしりもちをついた。
「!」
私の手の下に、先ほどおとしてしまった肉の感触があった。
つ、つぶしちゃった?
「女性に手をあげるとは最低だな」
肩に手が置かれる。
「大丈夫かい?」
そこには、ナリナさんのお兄さんのダリさんの端正な顔があった。
「けっ、色男がでしゃばるなよ!」
魚を運んでいた顔の男が、落ちた肉片を蹴り上げダリさんにぶつけた。
「ああっ!」
肉が!肉が!
これ以上踏まれないように必死で肉に手を伸ばして集める。
「あなたたちは、確かガマガエ領とブタード領だったね?」
あ、マイマインさんが遠くにまで飛んで行った肉を拾って持ってきてくれた。
肉を手にしたまま、私の前を通り過ぎて男たちの前に肉を掲げて見せた。
「ガマガエ領とブタード領は、兵や騎士様が食べるものを踏みつけたり蹴り上げたりすると、そういうことかい?」
マイマインさんの言葉に、男たちが一歩後ずさった。
「もし、このことが騎士様に知られたら、どうなるかね?」
後ずさった男の一人が背を向けて立ち去る。もう一人も
「わざとじゃないっ、足元に転がっているのに気が付かなかっただけだっ!」
と、言い訳を口にして去っていった。
去り際に、振り返りマイマインさんをにらみつけて。
「ひどいことをするね」
「ごめんなさい、あの、ありがとう……」
やっぱり、マイマインさんはいい人。
肉を丁寧に拾いながらお盆に乗せてくれる。
ダリさんも黙々と肉を拾い集めてくれた。
「残念だけど、これは兵士や騎士の皆さんへの食事に使うわけにはいかないね……」
ダリさんの言葉にため息が漏れる。そうか。
そうだね……床に落ちて踏みつけられた肉を使ったなんて侮辱罪に問われても仕方がないものね……。
肉さんごめんね。守れなくて。
目じりに涙がたまる。
「よく洗って砂を落とせば食べられるよ。ちょっと旨みが落ちちゃうけれど……あとで焼いてみんなで食べないか?うちの領では網の上にのっけてバーベキューをするんだ。夕飯が終わってから打ち上げでどうかな?」
マイマインさんが最後の肉をお盆に乗せると笑った。
「うちの領の郷土料理に、ピリ辛のたれに付け込んで肉を焼く料理があるんだ。辛いのは大丈夫かい?」
マイマインさんの領の郷土料理?
ああ、噂にしか聞いたことのない、別の地域の独自の料理が味わえるんだ!
しかも、巫女の血がマイマインさんの料理の腕は保障してる。
うおう、口の中に唾液がたまってくるのを感じる。
ぱぁっと顔を明るくする。
「ふふ、その顔は大丈夫みたいだね」
マイマインさんが私の顔を見て、今度は心から楽しそうに笑った。
「ヨガマタクル領の郷土料理かそれは楽しみだ。今日の夕食にはチーズを使ったフータ領で流行しているデザートを作る予定だったが、少し多く作って打ち上げに持っていくことにするよ」
と、ダリさんの言葉に、思わず感極まって両腕を広げて二人を抱きしめてしまった。
あ、もちろん手は二人の体に全然回りきらなかったけど。
「うれしい~。楽しみ。うちも、うちもウイルに頼んで何か持ってね!」
ぎゅぎゅぎゅっ。
腕に力を入れちゃう。
「何をしていらっしゃるの?」
ご覧いただきありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、励みになります。感謝です。
さて、次回の更新は土曜日。
来週より、週2回更新(水曜、土曜)を予定しております。今後ともよろしくお願いいたします。




