ウイルと酸っぱいリンゴ
ぱくん。
うん、条件反射。
おいしいものあれば口開くよね。
そのまま、少年の口にくわえられた塩干しを食べた。
「ほにゃ?」
少年の唇が当たったような気がしたけれど……。
やばい、キス?
いや、そんな、これ、ノーカウントね。うん、成人前はノーカウントでいいからね、少年っ!じゃないと、人類の焼く半数以上はファーストキスの相手が親になるからっ!
「二人のために持ってきたんだから、二人で食べて!私の分は、まだあるからね?」
ものほしそうに私がよだれたらして見てるからだめなんだよね、きっと。
だから、少年にも猫にすら……気を使わせてしまうとか……。
立ち上がる。
「リーア、どこへ行くんだ?」
「料理大会の準備があるから行くね」
食料を確保してウイルのところに戻らないと。
「また、来い」
「にゃおーん」
「うん。じゃぁね!」
手を振り、扉の外へ。
あ!
甘いリンゴをもらえばよかった……。
まぁいいか。また今度で。
周りには、大量の酸っぱいリンゴの木。
「……焼けば甘くなるから、問題ないか……」
30人分って、リンゴいくつくらいあればいいのかな……?
酸っぱいリンゴの中でも比較的おいしそうなものを選んで、3つほどもいだところで手が止まる。
がんばって赤く色づき大きく育ったリンゴちゃん……。
酸っぱいからって、みんなからまずいって思われて……、嫌々食べられるなんてかわいそう。
父さんの言葉を思い出す。
おいしくない食材をおいしく料理するのが料理人だって。
例え酸っぱくったって……鮮度は抜群なんだよね。取り立てなんだもん。
巫女センサーを封印して、リンゴは食べごろに見えるものを近くから順に手にとった。エプロンを広げて、20個くらい持ってイチール領のキッチンに戻る。
「おっそいよ、ねーちゃん」
「ごめんごめん。かわいい猫ちゃんがいて」
「……で、俺がせっかく焼いた干物を持って行ったわけか」
にらまれました。
ごめんなさい。
「まぁいい。あまりにおいしそうでつい食べたくなったっていうよりは、猫にあげたくてというほうが”まとも”だから許す」
ふおうっ。
我慢しきれず、よだれをたらし、その猫に同情されて分けてもらったっていうところまでは言えません……。
そっと視線を逸らす。
「で、それ、何?」
あ、そうか。ウイルはまだリンゴを見たことなかったんだ。
「これ、リンゴ。1の円にはなんと果樹園があるんだよ。で、取り放題。収穫したてで新鮮だよ」
私の言葉に、ウイルは怪訝な目を向けた。
「新鮮なんだ」
「うん」
「いつもなら、おいしいよって言うのに……どういうこと?」
あうー。
「すっぱいの……」
「え?珍しい。ねーちゃんがすっぱいってわかっていて持ってきたの?」
「火をいれると甘くなるよ……っていうか、1の円の果樹園のリンゴはみんなすっぱいの……」
「なるほどね。リンゴって酸っぱい果物なのか。そりゃ、甘くておいしい実をねーちゃんでも選んで取ってくることはできないよな」
ち、違うよ。甘いのもあるんだよ。
……ウイルにリンゴっていう実は酸っぱい果物だと誤解させちゃった。
「酸っぱいっていうと、レモンとか酢とかか……ヨーグルトも酸っぱいか……どういう感じなんだ?」
はっ!
そうか!そうなんだ!
甘いものと酸っぱいものがあると思うと、酸っぱいリンゴはハズレみたいに思うけれど……。
もともと「酸っぱい食べ物」だと思っていれば、酸っぱくったって全然ハズレじゃないんだ!
この酢は酸っぱいからハズレなんていう人いないもんっ!
酸っぱいものという認識で改めてリンゴを見る。
じーっ。
もし酢だったとしたら、レモンだったとしたら……。
「あ!ウイル、これと組み合わせたらいいかもっ!」
あく抜きの終わったわらびを指さす。
巫女の血が正解だって言ってる。
「……なるほど。わかったねーちゃん。油とおろし金はあるな。作ってみるよ」
「えへっ、ウイルすごい。もう何か思いついたのね!」
ぎゅぅーってウイルを抱きしめた。
「や、やめろって、そんなことよりも、まだメインディッシュの食材がないんだ、取ってきてくれよ」
ぐぬ。
素直に抱きしめさせてくれるのはトトちゃんくらいか……。ううう、トトちゃんにまた絶対会いに行こう。
もふもふぎゅーさせてもらうんだ。
なでなで。
「ちょっと、ねーちゃん、何のつもり?」
おっと、無意識にウイルの頭を撫でてた。うん。トトちゃんより毛が堅いです。もふもふ感が足りません。




