猫猫猫
もぐもぐと口を動かしているトトちゃんに頬ずりをしたいのをぐっと我慢する。食事の邪魔すると、猫って怒ってひっかくよね。
……せ、せめて……。
トトちゃんに構ってほしくて、干物を食べやすい大きさにちぎって手の平に乗せて差し出す。
「はいどうぞ」
「にゃん」
うわーん。返事をしてから、ぱくんって食べてる。それから、てしっと、手の平にちいちゃな手をのせてお代わりを要求。
「ずっ、ずるい、ずるい」
少年が怒り出した。
あ、ごめん。
トトちゃんは少年の猫なんだよね?私ばっかりかわいいを堪能してごめんなさい。
少年の手を取り、手の平にちぎった干物を載せました。代わりばんこということで、手を打ちませんか……の、つもりだったのだけれど……。
ぱくん。
少年が、手の平の身を口に入れた。
あれ?
ずるいって、トトにばかり食べさせてずるいって意味だったの?
「うっ」
少年がうなった。
「リーア、本当だ!リーアの言う通り、干からびて変な色した魚だけど、うまい!」
「干物っていうちゃんとした加工食品だよ。干からびた魚じゃないからね?」
「あ、うん、干物だな、干物……。そっちのも食べてみたい」
少年が、塩干しを指さした。
「はい、どうぞ」
差し出すと、少年は手を出して受け取らず、口をあーんと開けた。
ふおうっ。お口をあーんしてかわいいと思うのは5歳くらいの子供までだと思っていたのに……。
10歳でもかわいいじゃないかぁっ!
そのまま魚を少年の口まで運んであげると、ぱっくんっと一口かじりついた。
「こっちもおいしい。今まで食べてた魚よりも、ずっと味わい深い。不思議だ……」
幸せそうな顔を見ると、私も幸せだ。
「にゃっ、にゃっ、にゃーんっ」
トトちゃんが、肉球のついた小さなおててで、てしてしと、私の手の平をたたいている。
「あ、ごめんごめん、トトちゃんも食べたいよねぇ」
塩干しを少しちぎってトトちゃんの口元に運ぶ。
「トト、何甘えてるんだよっ、自分で食べられるだろう?」
少年が、ズボンのポケットからハンカチを取り出して地面に置き、その上に残ったみりん干しを置いた。
「リーア、ちょうだい」
あーんと口を開ける少年。
うっ。抗えない。
美少年のあーんに抗える人間がいたら、きっとその人は……。
ぱっくんっ。
少年の口元に持っていこうとした塩干しに、ジャンプしてトトちゃんがかじりついた。
「トトっ!」
「にゃーんっ!」
「僕のだって!」
「にゃにゃにゃっ」
おいしいものを取り合う気持ちはよぉくわかる。ウイルと私、しょっちゅう取り合いしてたからね……。
だ、け、ど、
「喧嘩するなら、もうあげないよっ!仲良く分けて食べようね?」
そんな私とウイルを叱った母さんの気持ちが、今、よくわかりました。
争って食べるより、分けて味わいながら食べたほうが絶対いいよ……。うん。
「わかった。リーア……」
「にゃおん」
塩干しとみりん干しを半分ずつにして、それぞれに渡す。
もきゅん、もきゅん、とトトちゃんが食べる。
はぐ、はぐ、と少年が食べる。
……おおう、本当においしそうだ。
よ、よだれが……。
「はい、リーア、口開けて」
少年が一口大にした身を差し出してくれた。
ぱくん。
「ありがとうっ!なんていい子なのっ!大好きっ!」
ぎゅぅーって少年を抱きしめる。
あ、そういえば、ナリナちゃんが異性にはなんとかとか……まぁいっか。少年は子供なので、異性にカウントしません。
「リ、リ、リ、リーアっ」
「あ、ごめんなさい。つい、感激のあまり……」
食べてる途中にいきなり抱きつかれたらそりゃぁ迷惑だよね。ごめんなさい。
トンっ。
ん?
肩に重みを感じたと思えば、トトちゃんが私の右肩に飛び乗っていた。
口にはみりん干しを加えている。
「え?もしかして、トトちゃんも分けてくれるの?」
にゃんと鳴く代わりに、すりっと、ほっぺに顔を押し付けられた。
くっ。
かわいすぎるやろっ!
あーんと口を開けると、トトちゃんが口にくわえた身を運んでくれる。
まさか、猫に口移しで干物を食べさせてもらえる日が来るとは思ってなかった。
っていうか、そこまで私、ものほしそう食べてるところ見てた?
「リーア」
少年に名を呼ばれ、顔をあげると、正面に少年の顔があった。
すぐ目の前に、塩干しを加えた少年の顔。
「え?」
と、声をあげると、少年の口元が、私の口元に近づく。




