塩オレンジ
4の円の門から馬車にのって1の円まで戻ってきた。
「おお、すごい荷物だなぁ。持つの手伝ってやるよ」
食堂に向かう途中にタウロスさんに会った。
「わー。ありがとう。すごいです。私とウイルの荷物全部を片手で軽々と持ち上げちゃった」
全部で幼児2,3人分の重さはあると思うのにすごいなぁ。
「嬢ちゃんはこっちにぶら下がっていくか?」
タウロスさんが開いてる腕を90度に曲げた。
「うんっ」
元気に返事をしたら、ウイルに首根っこを掴まれた。
「ねーちゃんっ!みっともないからやめてくれっ!」
「えー、ええー、」
「あはははっ。お目付け役がいないときにな」
タウロスさんがおどけた表情を見せる。
「じゃぁな、がんばれよ!何が食べられるか楽しみだ!」
タウロスさんが去っていくと、入れ違いでナリナちゃんが現れた。
「ずいぶん根回しが上手ですこと」
?
「根回し?なんのこと?」
「とぼけてもダメですわ。兵に取り入って、票を稼ぐつもりでしょう?」
はい?
票を稼いでなんの得があるの?
「票なんて欲しくないよ。どうせ取り入るなら、ナリナちゃんのお兄さんに取り入る」
優勝するつもりないしね。
「はっ?お兄様に取り入ったって無駄ですからね!」
ナリナちゃんがめっちゃ怒った。
「じゃぁ、ナリナちゃんにお願いしよう。特産品のオレンジ……一つでいいから食べさせて!」
「は?え?オレンジ?お兄様に取り入るって、オレンジが欲しいから?」
ナリナちゃんの両手をにぎる。
「うん。お願い、市場を見てきたんだけど、どこにも売ってなかったのよ。食べたいの。食べてみたいのっ!」
ナリナちゃんの顔から怒りが消えている。
「あなた、変わってるわね。お兄様よりもオレンジに興味があるなんて……」
うおう、変わってるって言われちゃった。
食いしん坊って言われるよりはいいか?
「分かりましたわ。ただでというわけにはいきませんが、イチール領の特産品と交換ということでしたら、1つくらい何とかしてあげましょう」
「うわー!本当?うれしい、ありがとう、ナリナちゃんめっちゃいい子。大好き、大好きっ!」
感極まってナリナちゃんを思いっきり抱きしめる。
「だ、大好きって……あ、あなたが好きなのはオレンジの方でしょう?」
焦ったような声。
「オレンジも好きだけど、ナリナちゃん好きだよ。友達だもん」
「は?ちょっとお待ちなさい、私はあなたと友達になった覚えはありませんわ!それに、ちゃん付けで呼ぶなんて……なれなれしすぎますわ!だいたい、さっきの兵といい、ちょっと人との距離がおかしいと思いわすわ!」
ナリナちゃんが何か言っている横で、ウイルがうんうんと小刻みに頷いている。
え?なんか、意気投合してない?
「そうそう、特産品なんだけど、これでいい?知らなかったんだけど、イチール領の特産品って、塩なんだって。藻塩っていうらしくって……」
「も、藻塩!聞いたことがございますわ!幻の塩と呼ばれるほのかな甘みが感じられる塩ですわね!」
ナリナちゃんの目が輝いた。
「ふふ。やっぱりナリナちゃんもおいしいものには目がないのね。よかった。お友達になれて」
「だから、友達じゃないからっ!いいわ。藻塩とオレンジを交換してあげる。来て」
わーい。
オレンジ、オレンジ。
どんな味の果物かなぁ~。
オレンジの箱にナリナちゃんの手が伸びる。
「あ、やっぱり今はだめ」
伸びた手を引っ込めるナリナちゃん。
「え?なんで、どうして、ここまで来てお預けなんてひどいよ~」
うぎゅぎゅ。
そんな意地悪すると絶交しちゃうぞ。
「大会が始まってから……料理を見てもらってから差し上げますわ」
「え?なんで、今じゃだめなの?」
「食べ方をご存じないでしょう?この果物は、ただ実を食べるだけの果物ではありませんのよ?いろいろな料理に使えますし、皮もおいしいんですの」
皮がおいしい?
「皮ごと食べられるの?」
「そうではなくて、皮からもおいしいものができるのですわ」
すっごぉーい。このオレンジすごい!
「ナリナちゃんありがとう。やっぱり大好き!教えてもらえなかったら、中身たべて皮は捨てちゃうところだった」
ふんっと、胸をそらしたナリナちゃんは
「あなたのために教えたわけではありませんわ。オレンジを無駄にされたくないだけです」
「食べ物のこと大切にするナリナちゃんも好き!」
感激の余り抱き着いたら、目いっぱい迷惑そうな顔をされた。
「だから、ちょっと距離感が……」
「おや?ずいぶん仲良くなったみたいだね。よかったね、友達ができて」
「お、お兄様、違いますわ、友達では「はいっ。ナリナちゃんと友達になれて良かったです!」ありま、ちょっと私の話を聞いてます?」
ナリナちゃんのお兄さんとも、オレンジと塩の交換を認めてもらった。
「塩ならいっぱいあるので、また必要になったら行ってください」
にこにこ。
「ふんっ。今度は何と交換してくれと言うつもり?」
ふお?
交換?塩と交換?
「ねぇ、ナリナちゃん、もしかして他の領の特産品も塩と交換してもらえるかな?ちょっと聞いてみよう?」
ナリナちゃんの手を引いてずいずいと歩き出す。
「ちょっと手を放しなさい、なぜ私まで一緒に行かなければならないのですっ」
あ!




