お詫びですか
「ああ、すまなかった。あまりおいしそうなんで」
すまなかったじゃないよっ!
「弁償しよう。店主、桃を一つ」
美青年が懐から金貨を取り出した。
おおおっと、どよめきが起こる。
銅貨1枚の果物を買うのに金貨を出す人なんて見たことない。。
「いらないっ!弁償なんて無理だもん。あの桃は、ここにある桃の中で一番おいしい桃だったんだからっ!」
ぎいっとにらみつけてやると、美青年は少しだけ申し訳なさそうな表情をした。
「そうか、では店主、二番目においしい桃と3番目においしい桃を頼む」
「無理よっ。2番目と3番目も私が買ったから」
ウイルの持っている桃を指さす。
「そうなのか……じゃぁ、どうすれば許してくれるか?」
むぅ。
食べ物の恨みは恐ろしいって言葉を知らないのかっ!
許せるわけないじゃないっ!
一番だよ?一番おいしい桃だったんだよ?
「そうだ、じゃぁ、別の店の一番をごちそうするよ。ほら、隣のブドウもおいしそうじゃないか?」
そういわれて視線をブドウの山に移すと……。
はー、確かに、おいしいぞって声が聞こえてきた。
よ、よだれが……。
「ブドウの店主よ、一番おいしいの頼む」
美青年の言葉に、店主が一番大きなブドウに手を伸ばした。
「待って、それじゃないわ!あっちよ、あっちのちょうだい!」
「これでいいのかい?毎度あり」
はー。いい香り。
「さっそくいただきまーす」
実を一つつまんで口に入れる。
むっはっ!
うんまぁーーーい!
「ウイルも食べてごらんよ!」
房を持ち上げてウイルの顔の前の差し出す。
そこに手を伸ばして、実をぷちっと3つも一度にもぎる美青年。
「本当だ、うまいな」
待てー!
誰が、お前に食べていいと言った!
そりゃ、確かに金を払ったのはおぬしだが、桃のお詫びだろう?
所有権は私にあるだろう?それとも何か、桃は一口かじったあとだったから、その分は返してもらうとか、そういうことか?
……ああなら仕方がない。
ぷちっ。もぐもぐ。おいしい。
仕方がない。3つくらい許そう。怒りながら食べても仕方がないし。
ぷちっ。もぐもぐ。
「うめぇな」
ぷちっ。もぐもぐ。
「おいしいね」
ぷちっ。もぐもぐ。
「本当にうまい」
待て!
なんで3人で仲良く分け合って食べてんの!
おかしいよね?
ぎろりと美青年をにらむ。
「すまん、つい……。お詫びに、ほら、隣の店で一番おいしいものを……」
ん?ならいいか。
って、また3人で食べまして、次の店でお詫びをって……。
あれ?
次々おいしいものを食べられるのはうれしいけど、5件目でなんかおかしいと気が付いた。
「も、もういいです。もう怒ってません。ありがとうございます」
さすがに、おごってもらい続けてる状況にいたたまれなくなって次の店は断った。
「そ、そうか?何も遠慮することはないんだぞ?」
美青年は、めっちゃしゅんっとしてしまった。
いやいやいや、何、私が悲しませたみたいな感じになってるから、そんな顔しないでくれる?
「おいしいものが食べられて、私はとても幸せなんだ」
「そうですよね!おいしいもの食べると幸せですよね!」
そうか。この悲しい顔は、もうおいしいもの食べるのおしまいっていうときの顔ね。
わかる。わかる。
目の前においしいものあるのに食べられないのってめちゃくちゃ悲しいよね。
「もっと、一緒に食べたい……ダメかな?」
くおっ。
背が高くて体つきもしっかりしてひ弱な感じはない、立派な大人で、しかもめっちゃ美しい男が小首をかしげておねだりって……。
このしぐさで効果があるのは10歳までの子供だけかと思ってたら、大人でも効果発揮できる人間がいたーーーっ!
いいよ、おいしいもの食べるのは私も大好きだし、それに、おいしいもの見つけるのは私の唯一の特技だしね!
頷いちゃうすんでのところで、くいくいと袖を引かれた。
あ、そうでした。ウイルと一緒に行動してたんだった。私の一存では決められない。
「うっ」
ん?
急にうめき声とともに、美青年が額を抑えた。
「君のおかげで少し元気が出たけれど……まだ、これ以上は無理みたいだ……」
え?
元気が出たって?
「もしかして、病気なの?だったら早く休んだ方がいいよ。そうだ、これあげる」
ウイルに持っていてもらったピンクの果物を2つ手渡す。
「2番目と3番目だけど、これもおいしいから」
「いいのか?」
美青年は、額に汗を浮かべながらも、必死に微笑もうと私の顔を見る。
「いいよ。いろいろ買ってもらったし」
「じゃぁ、また今度一緒においしいものを食べよう……お礼もしたい……」
美青年は私の耳元に顔を寄せた。
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やっと、謎の超絶美形男を出すことができました。変な人ですね。ふふふ。




