王室御用達のお店
「どうぞ。私どもの店は塩専門店です」
「え?塩専門?塩だけしか売っていないってこと?」
驚いた顔をすると、少しだけ店員の口元が緩んだ。
野菜なら、いろんな種類の野菜が売ってる。季節によっても種類は変わる。
肉屋だって、何種類かの肉に、加工した肉などいくつも種類を売っているよ?
「うわー、え?え?」
店の中に入ってびっくり。
「これ、何ですか?」
まず正面に見えたのは、巨大な白い石。
「こちらは、岩塩ですよ。見るのは初めてですか?塩の塊です」
「岩塩、うわー、すごい。初めて見ました!こっちの、こっちは?」
隣には私の知っている塩よりもさらさらとした粉がのっている。
「雪塩です。少量でもしっかり塩味を感じることができますよ」
「すごいです、すごいです!塩にこんなに種類があるなんて思いませんでした!」
ほんのりピンクの色が付いた塩は、バラの香りがするらしい。すごい。
他にも焼き塩に、粗塩に、ごま塩……。
「ねーちゃん、さっきからすごいすごいしか言ってないけど、どうなの?」
ウイルが耳元でささやく。
どうなのというのは、巫女センサーで美味しいものがどれかわかるのかっていうことだ。
んー、センサー、働いてません。その証拠に、よだれ出てないです。
……塩だけじゃぁ、センサー働かないのかな。ショッパイイコール美味しいに直結しないんだろうか?
そんな時は……。
「あんまりいっぱいあって、びっくりしました。どの塩がおいしくておすすめですか?教えてください」
素直に聞く。
「そうでしょうとも。普段は店に入ることもできないあなた方には良しあしなどわかるはずもありませんね。どんな料理にも合い使いやすいくて旨みが多いのは、イチール領の特産品である藻塩ですよ」
「イチール領の藻塩?」
お店の人が、棚から、こぶしほどの量の塩を乗せた皿を手にした。
ってことは、普段使ってる塩?
「ええそうです。塩の作り方にはいくつかありますが、イチール領では海藻に塩分を含ませてそれを焼いて灰にして作っているんですよ。そのため、海藻の旨みの含まれた極上の塩ができます」
うん。塩の作り方は知ってる。浜で作っているの見たことあるから。でも、逆にほかの地域では違う作り方してるなんて知らなかった。
「王都への流通量は少ないため、この量で金貨1枚はいたしますよ」
は?
「銅貨の間違いじゃなくて?」
「ぷっ。何のご冗談ですか?先ほど説明したように、他の塩にはない旨みのある極上の塩ですよ。さらに、手に入れるためには……」
えー、だって、イチール領では銅貨1枚で一握りの塩は買えるんだけどなぁ……。
じーっと塩を凝視する。
「これは、本当にイチール領の塩ですか?」
ウイルが口を開いた。
あ、やっぱりウイルもそう思った?
「どういう意味ですかな?」
店員さんがむっとする。
「いえ、あまりにも白いので」
「それが何か?」
「イチール量の藻塩は灰を煮詰めて作るので、これほど真っ白にはならないんです。だから、特別な製法で別に作っているのかと思って」
普段使っている塩は、ちょこっと茶色っぽい。どう見ても、目の前の塩はまるで小麦のように白い。
「おや?まるで藻塩を見たことがあるような口ぶりですね?」
ひくりと店員さんの眉が動いた。
「っていうか、藻塩以外の塩を初めて見たね、ウイル。こんな大きな塩の塊があるなんてびっくりしたよ」
「僕たち、イチール領の代表なのです」
ウイルの言葉に、店員さんが顔色を変えた。
「にっ、偽物だっていうんですか?この塩は、藻塩じゃないと、我々が偽物を売っているとそういうつもりですかっ!」
今までにない大きな声で店員さんが叫ぶ。
あわわ、なんか怒らせちゃった?
「そんなつもりは……」
「イチール領につてのある者から独自に仕入れているきちんとした品ですよ、いくらイチール領出身といったって、おまえたち庶民が使う塩と貴族が使う塩が同じじゃないというだけの話でしょう」
そうだっけ?
いつも買ってる塩屋さんが領主様んとこにも届けてた気がするけどな。
「出て行ってください。物の価値がわからない人間に売るものなどありませんっ」
店員さんは真っ赤な顔をして怒りをあらわにしている。
ドアを開くと、手でしっしと追い払うジェスチャーをした。
あうう。
なんだか失敗した。
「ねーちゃん、塩一山で金貨1枚のレベルじゃぁ、何も買えそうにないから、次の通りを見てみよう」
ウイルが、王冠のついた看板の並ぶ通りに背を向けた。
次の通りは、店頭にこそ食料は並んでいなかったけれど、大きな窓が開かれて中の様子が見られるようになっていた。
生肉の店と、加工肉の店は別にあった。
野菜の店も、葉物野菜の店と、玉ねぎなどの日持ちのする野菜の店は別にあった。
「これはどこで買えるのかな?」
兵からもらった干した果物をポケットから取り出す。
果物なのだから、とりあえず果物屋を見つけて入ってみた。
「あの、これ置いてありますか?」
「ぷっ。なんの冗談ですの?こんな粗野なものを3の円の店が扱っているわけありませんわ」
粗野?
果物屋の女性が笑った。
「粗野って?確かに、見た目はちょっと悪いけれど、おいしいですよ?」
「ぷーくっくっく。こんな保存食がおいしいですって?おかわいそうに。こんな縮んでしわしわでみずみずしさのかけらもないものが、おいしいですって?生の果物を食べたことないの?ふふふふふ。そうですわねぇ。どう見ても、料理大会でもなければうちの店に入ってこられないみたいようですし」
干したものはまた別のおいしさがあるんだよ。そりゃ見た目は鼻血のついた鼻くそを丸めたみたいであんまりよくないけど……。見た目で判断するなんて損してるよねぇ。
「教えてあげますわ、そういう貧乏くさい食べ物は、円外の店でお探しなさい」
あれ?親切に教えてもらえちゃった。
そうか。3の円のお店では売ってないのか。
教えてもらったお礼を言わないと。
「教えていただいてありがとうございます。お礼に、あそこの果物、かびてるみたいですよ?」
こちらも、一つ教えてあげた。恩返しになったかな?
にこっと女性に笑いかけると、目を吊り上げて果物を手に裏を確認した。
「カ、カビっ。ちょ、ちょっとした商品管理ミスですわ!その干したものよりも日持ちしない新鮮な果物を扱っているんですから、こういうこともありますわ!もう、用がないなら出て行ってちょうだい」
あれ?何で怒ってるのかな?




