出会い
「お前、こんなところで何やってんだ?」
男がダルそうな声で尋ねてきた。彼の視線の先にいるのは...俺だ。間違いなく俺だな。だって目がばっちり合ってるもん。状況を整理しよう。彼らは何やらヤバそうなやつに接触しようと言った直後に歩き出したのだ。ならば次は、その危険なやつのところに行って、そいつに話しかけるべきだろう。
「え、俺?」
心の底からの疑問がつい口から出てしまった。
「ああ、お前だよ。」
さも当然のようにそう返す男。
「いやいやちょっと待ってよ。なんか危険なやつがこの辺にいるんでしょ?こんなところで油売ってないでそいつを早く何とかしに行きなよ!」
「だから今何とかしようとしてんだろうが。」
「............」
沈黙が場を包み込む。
(あっれれー、おっかしいな。まるで俺が危険なやつみたいな言い方だ。)
天然パーマに冴えない顔つき、平均よりも小柄な体格、どこをどう見ても危険そうには見えない、むしろ貧弱そうな大学生。それが俺だ。大学に入学した後も、度々中学生に間違われ補導された。それが俺だ。ゆっくりと時間をかけて自分を振り返った。そして確信し発言する。
「俺は、弱そうだな。」
自分で言って少し悲しくなるな。昔は屈強な男の人に憧れたもんだな。プロレスラーとか。もう諦めたけど。
「見た目で騙すつもりなら場所を選ぶんだな。こんな危険な場所に素っ裸の女の子がいるのは不自然だろ?」
男が呆れたように呟いた。
(ん? 女の子? 何言ってんだ。)
「お前なあ、いくら俺が貧弱そうだからって、立派な青年に向かって女の子は失礼だr.....っ!?」
そこまで言って異変に気付いた。俺の発したはずの言葉がなぜか高めの声、まるで女の子のような声で聞こえていることに。
(まさか、俺が? いやいやまさかね...)
そんなことを思いつつ、恐る恐る手を股まで伸ばし、そっと確認する。そして、涙が流れた。
「ねえ、そいつ何で泣いてるの?」
「俺が知るかよ。」
そんな冷たい会話を聞きながら、俺は息子との別れを惜しんでいた。
(まさかこんな形で失うことになるとは思ってもみなかった。せめて一度、一度だけでも...)
そこまで考え、そして思い出した。そうだ、これ夢じゃん。てっきり本当に失ってしまったのかと思ったよ。未使用のまま別れるのはさすがに悲しいからね。そうして安心したタイミングで、再び声をかけられた。
「もう一度聞くぞ。何してんの?」
やはりダルそうな声で話しかけてくるなこいつ。まあこの夢で初めての会話だし素直に答えとこ。
「ヒマしてました。」
「馬鹿にしてんのか。」
ハイ怒られました。確かに舐めた返答でしたね。少し反省しよう。しかしこれが事実なのだ。
「いやいや本当なんですよ。起きたらここにいて、ボーっとしてたらあんた達が来ただけで...」
またもや沈黙が訪れる。そして、今度は女が口を開いた。
「嘘を言っているようには見えないね。どうする、カッツ?」
この男はカッツというらしい。そこでふと疑問がわいた。この人たち見た目も名前も日本人じゃないのに、なんで日本語ペラペラなんだろ?そして答えにたどり着く。夢でしたそうでした。いやぁ便利だな、夢ってやつは。
「ふむ、お前これからどうすんの?」
そうカッツに聞かれた。ん?考えてなかったな。どうしようかな。せっかくだし、覚めるまでこの世界を冒険するのも面白いかもしれないな。よしそうしよう。
「ちょっと冒険する予定だけど。」
「そうか冒険か...。おいキール、帰るぞ。」
そう言って踵を返し歩き出す。女はキールというのか。うん、よいな。少し歩いて立ち止まり、カッツがそういえばと言った顔で俺に尋ねる。
「その棒はお前のか?」
俺は何のことかわからず、しばらくキョトンとし、カッツの視線の先を見た。そこには、緑色の棒が横たわっていた。折り畳み傘だ。持ち手がカエルの頭になっており、揺らすと目の玉が揺れる。小学校二年生の時に買ってもらい、今もなお大切にしているものだ。
「ああ。俺の宝物だ。」
俺は自慢げに答えた。そうか、とつぶやき、カッツたちはそのまま去っていった。
「よかったの?あのままにしといて。一応Aくらいの魔力あったんでしょ。」
少女の外見をした何かの元を離れてしばらくした後、キールがそう尋ねてきた。
「今回の仕事はあくまでも調査。敵対反応を相手が示さなければ、無理に闘う必要もないだろうよ。それに...」
(表面に漏れたオーラだけでA相当。おそらく初めて人間を見たかなんかで興奮した拍子に漏れた分だろうな。魔力の総量はもっと上のはずだ。それに加えてあの棒のようなもの。魔力のオーラなどは一切感じなかったが、何か不気味な物を感じた。)
カッツは今まで数々の死線をくぐり抜けてきた。腕にも自信があるし、あの少女のような奴と戦闘になったとしても、苦戦はするだろうが負ける気はしなかった。
カッツ達の今回の仕事は洞窟の調査だ。3日前に突如あの洞窟でとんでもない量の魔力の反応を観測したとの情報が入った。その根源を探り、対象が敵意を抱いているのならば捕獲、あるいは討伐する、これが今回の仕事内容だ。
カッツは面倒ごとが嫌いだ。世界中が慌てるような魔力を有している奴を生かしておいて、面倒ごとが起きないはずがない。そう考えてこの仕事を始め、少女を見つけるまでその考えは変わらなかった。しかし、カッツは撤退を決断した。その理由があの緑の棒だ。あれが怖かった。そう、ただ怖かったのだ。
(あんな不気味な物を見たのは初めてだ。恐怖を感じたのはいつ以来だろうな。ありゃ全員で対処しねぇと…。いや、もしかすると全員でも…)
「それに?」
「ん? あぁ、なんでもねえよ。」
(キールは強いがまだ子供、変に脅かす必要もねぇだろ。)
そんなことを考えながら、アジトへと向かった。
彼らが去ったあと、俺はケロちゃんを見つめていた。ケロちゃんとは、そう折り畳み傘だ。昔のピュアな俺は、この折り畳み傘に名前まで付け、まるでペットのようにかわいがっていたのだ。
(夢にまでついてくるとはかわいいやつめ)そして、ケロちゃんにそっと手を触れた。
その瞬間、
「よっ!元気っすかー?」
とてつもない陽気な声が辺りに響いた。
ケロちゃんは実際に私が所有しているものです。つい作品に出してしまいました笑
一話一話が短いかな?次回はもう少し長めにしたいと思います。