第五話
粥ころside
なんでだろう。
涙がでない。
親友が、かえらぬ人となってしまったというのに。
悲しいはずなのに。
表情筋はぴくりとも動かない。
そもそも悲しい、という感情はどのようなものだっただろうか。
他のみんなが嗚咽をもらす中、自分だけが涙も流さず、真顔で突っ立っていた。
自分だけがのけ者にされたかのような息苦しさを感じ、私は早足でその場をあとにした。
ふらふらと自室へ戻り、ベットへと倒れこむ。
自分は、親友が死んだというのに涙さえ流さないような冷たい人間だったのだろうか。
自分のことが、わからない。
酷い吐き気を感じてきた私は、今日はもう寝てしまおうとクローゼットへ重い足を運ぶ。
__ふと鏡を見た私は、目を見張った。
映っていたのは、身体中から草花が生え、目はどんよりと黒く濁っている、酷く病状の悪化した自分の姿だった。
でも、不思議と頭のなかは冷静だった。
寧ろ合点がいって落ち着いたくらいだ。
私が「悲しみ」を感じないのは、おそらく奇病が悪化したからだ。
何故急に悪化したのかはわからないが、それくらいしか理由はないだろう。
__口元に笑みが浮かぶ。
これからは、楽しいことだけの世界で生きていけるのではないか。
もう、苦しまなくていいのだ。
嫌なことも、悲しいことも、こののことも、全部忘れて___
突然、視界が歪んだ。
続いて、温かいものが次々と頬を伝っていくのがわかった。
それの正体が涙だと気付き、困惑する。
何故。悲しいという感情はなくなったはずなのに。涙なんて、もう出ないはずなのに。
ぼろぼろと溢れるそれは、いくら拭ってもあとから次々と出てきて止まらなかった。
涙を拭っていて気づく。
親友を、忘れる?
自分は何てことを考えているんだろう。
少なくとも前までの自分はこんなことは考えなかった。
自分が怖い。
感情が消えて好都合だなんて。
自分がわからない。
こんな私を知ったら、みんなはきっと私のことを嫌いになるだろう。
嗚呼、それだけは絶対に嫌だ。
みんなの中の 私 が崩れる前に、
伝えなければ、
私は、