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テスカトリポカ

 失敗だった。今更後悔しても遅い。僕自身の失敗故、かような状況に置かれているのだ。
 全てが上手くいかなかった。無論、人生は何事も上手くいかぬというのは十分心得ているつもりではあった。僕は対人関係において、決定的に何らかの要素が欠落しているのかもしれない。
 三つの失敗があった。最初の失敗は、優しさをわざとらしく振り撒いたことであろう。僕は優しい人、という印象を持たれがちであった。僕は甘えていたのだ。他人に依存し、その優しさに甘えていながら、あたかも自分こそが真に優しい人間であるかのように振る舞っていたのかもしれない。
 つまるところ、僕は決して優しくなどない。むしろ、寄生虫の如く他人にはりついている小物にすぎない、気味の悪い人間なのだ。
 次の失敗は、努力したことだろう。僕は並の人より努力家であるらしかった。才能などというものは一つとして持ち合わせていないが、努力であらゆるものを補ってきたような気もする。
 僕は人に好かれる努力をした。生活を変え、言動を変え、格好を変え、しまいには関わる人間さえ変えてしまっていたのかもしれない。
 友人Dの話をしよう。彼は聡明な男であった。嗚呼、彼の才能を、彼の輝きを、僕はどんなに羨んでいただろう!妬んでいただろう!僕の頭から未だに離れないのは、いつも笑顔を振り撒く彼の姿。その笑顔が、どれ程僕の心を抉ったことか。
 三つめの失敗、最大の失敗は、人に好かれようとしたことである。僕は人が好きだった。色々な人と仲良くなろうと試みた。僕は人を監察し、仲良くなる術を模索した。そうしてそれを実践した。
 ところが、人は皆揃いも揃って僕を拒絶した。どうやら僕は気味が悪いらしい。僕は自分の話をしないのだという。
 嗚呼、そうか、僕は確かに気味が悪い、どこにも素の僕がいない、自分がわからない、馬鹿馬鹿しい悩みだ。僕は駄目な奴だ。名乗らせたならば、こちらも名乗らねば。どうしてわからなかったのか、いやわかっていた、相手はそれ以上を要求していたらしい。僕は嫌気が差し、消えたい、嗚呼、消えてしまいたいと、毎日毎日、祈った。
 虚しかった。人として生まれたのだ、人らしくありたいと、一人よがりな我儘を振り回していた僕は、きっと馬鹿なのだ。僕は理解した、人は皆多かれ少なかれ自分を偽っている。気づいているか否かは別として、きっとそうなのだ。案外僕は見てはいけないところを見てしまったのかもしれない。
 僕は今、橋の上にいる。きっと僕は人に見てほしいのだ、好かれたいのだ。何人に嫌われようと、僕は人に好かれたいのだ。そのために自分を変えよう、変えようと、そうして歪めて見失ってきた、嗚呼、これは感傷だ、甚だ阿呆臭い、消えてしまおう。
 結論を言うと、僕はきっとなんだかんだで自分が好きなのかもしれない。むしろ、こんな僕自身を僕は愛していたのかもしれない。心底、気持ち悪いと思う。こんな人間は時々いるのだ。見つける度に安堵を覚えた。僕は手を取り合って助け合おうとしたつもりだった。しかしできなかった。
 人間は身勝手だ。お互いの身勝手を上手いこと衝突させずにやっていける人間こそ幸せなのかもしれない。
 僕には到底できそうも無かった。だから今ここにいるのだ。必要なのは前に踏み出す勇気。そこに道があろうが無かろうが関係ない。僕の場合は無いのだが。

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