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5.晴天の…… 『少女が気付く、自分の道』

※2013~同人誌で各イベントにて発表済みの作品に加筆修正を加えています。

※他サイトに重複投稿を行います。

※更新は火・木・土にて定期的に行います。

挿絵(By みてみん)

三人と、クルス、エミリアは、その光景を見守るしかなかった。

あたりには黒煙が立ちこめ、闘技場はまったく何も見えなかった。

「……イースちゃん」

森野がその名を呟く。しかし、その声には少しだけ残念そうな、そんな雰囲気があった。

「……今のをまともに貰ってしまっては……いくら石の型といえども」

「真正面から受けることしかできないじゃん……くそぅ」

エリスもハノンも悲観的に言葉を漏らす。

それもそのはず、誰の目から見ても、……いや、仙機術を学ぶものだからこそ余計に解る。

あの術の規模、タイミング、それまでの布石、全てを知っていれば解ってしまう。

イースフォウは避けられない。イースフォウは耐えられない。

しかし、クルスは不思議そうな顔をする。

「なんだ、森野。別に負けたと決まったわけじゃないだろう?」

しかし、森野は首を横に振るう。

「……作戦は良かったわ。石の剣に成りすました、もっと仙気の燃費が良い術を使って、相手よりも力を温存して戦う。そうすれば確かに、持久戦で戦えば勝ち目があるわ。……でもつまり、それだけ防御力も低くなっていた。絶望的よ」

「……例え石の剣の防御力をもってしても、破壊力が違います。まだ水面木の葉の型などが使えれば、あの閃光を逸らす事も出来たかもしれませんが……、純粋に実力が違いすぎました」

「くそぅ、イース……」

森野、エリス、ハノンは悔しそうに呟いた。

しかし、その様子を見て、クルスはフッと笑う。

「おいおい、彼女が使っていたのは、『低燃費』な僕の技だぞ? 僕はあの技を使うと同時に、他にも術を同時に使ったりするんだ」

その言葉に、三人はハッとする。

「なんで、他の技で防御したって、考えないんだよ」

クルスがそう言ったころには、黒煙は晴れ始めていた。




スカイラインは、ギリリと奥歯をかみ締めた。

「イースフォウ、……あなたっ!」

その視線の先には、イースフォウが立っていた。

少しばかりボロボロだが、未だ両方の足で立っている。あれほどの攻撃を受けたあとなのに、少々息を切らしているだけで、五体満足である。

その右手には、伝機『ストーンエッジ』

そして、その左手には……。

「なによ、そのバリアは……」

障壁術。アムテリアの仙機術使いのおおよそ九割は、この術を使い、相手の攻撃を防御する。逆にこの技を使わない使い手などヴァルリッツァー等のごく一部くらいなものである。

そう、イースフォウの左手には障壁術が展開されていた。もちろんヴァルリッツァーの術ではない。三日前にエミリアから教わった術であった。

「……まさか、その『石の型』も!」

スカイラインは恐ろしいスピードで、イースフォウに接近する。

障壁術では間に合わない。イースフォウは障壁を消し、両手で伝機を構え、迎え撃つ。

何回かスカイラインが切りかかり、それをイースフォウが捌いたところで、スカイラインは気付く。

「……やっぱり! 『石の剣』じゃないわ!」

スカイラインは集中する。注意深く感じ取れば、イースフォウの伝機は、片面のみ仙気が流れているのだ。石の剣は伝機全体を覆い、絶対の防御を作り出す術である。

「このぉっ!」

スカイラインの鋭い攻撃が、イースフォウの伝機の仙気が通っていない部分に当たった。

その衝撃で、イースフォウの術が解ける。イースフォウは。大きく後方に跳び、伝機を構えなおす。

どうやら、スカイラインにばれたらしい。

先ほどは『石の剣』を展開している様に見せかけるために、悟られないように剣を振り回して術式を編んだのだが……。もう必要もないだろう。

イースフォウは先日、クルス・ハンマーシュミットに教わった呪文を詠唱する。

「光、古より輝き、汝、永久に不動。北の天に輝く道しるべよ、ひと握りの勇気と成れ」

ヴァルリッツァーとは似ても似つかない術式。だが、イースフォウはためらうことなく、その始動キーを叫ぶ。

「Little Blader!!」

そして再び、イースフォウの剣が輝き始める。

今度は、今までの金色ではなく、淡い、青色であった。

これぞ本来教わったクルス・ハンマーシュミットの術。偽装していた分の仙気も省かれ、先ほどよりもさらに燃費が良くなった。

「……イースフォウ。……それは何?」

しかし、そのスカイラインの問いかけに、イースフォウは答えない。

「私は……ヴァルリッツァーの誇りのために、戦っているのよ?」

それでも、イースフォウは沈黙する。

「貴方は……ヴァルリッツァーの術を捨てて、何をしているの!?」

それは問いかけと言うよりも、激昂に近いモノがあった。。

イースフォウしは、それを見て冷静に思考する。

(なんで、この子はこんなにも怒りをあらわにしているのだろう。なんでこんなに悔しそうなのだろう)

『捨てた』と言われると、彼女としてはそうでは無いつもりだ。たまたまスカイラインに打ち勝つ方法がヴァルリッツァーでは無く、たまたま今回は他の技術を使うことになっただけだ。 

更に『ヴァルリッツァーの誇り』と言われても、イースフォウにはピンとこない。彼女は、確かに子供のころからこの術を学んで、中途半端といえどもその身に宿してきた。

だが誇りがどうとか言われると、こんなものただの技だしそこまでこだわる必要など無いと思える。彼女としてはただただ、尊敬する先人の知恵として活用するだけである。

その時になってようやく、イースフォウは理解できた。スカイラインが今まで、自分に対してなぜ突っかかってくるのか、イースフォウを貶してきたのかを。

「……そうか、スカイラインはヴァルリッツァーを、心から信頼しているのか」

だから、ヴァルリッツァーを学べるにもかかわらず、それを信頼できないイースフォウを、憎んでいた。

「何をいまさら! ヴァルリッツァーこそ、誰にも負けない、最高の力を得ることが出来る! だから、私はずっと信じて、迷わずこの力を磨いてきたんだ!」

その言葉をもってイースフォウは、純粋にこのスカイラインという少女を再度尊敬した。

迷わず、信じて、ここまできたという。だからここまで強くなったという。

それはきっと今までのイースフォウとは本当に違った心持、純粋さでスカイラインは強くなってきたのだ。そりゃあ、誇りも感じることだろう。

だから……、取るに足らない作戦と術に翻弄されていることが、彼女の誇りを大きく傷つけているのだ。

だったら、ここでしっかりと、自分の意思を伝えなくてはいけない。そうイースフォウは強く思った。

彼女が考えていることと、自分の考えていること、思い、覚悟、誓い、全てが一緒でないことを教えなくてはいけない。そう改めて思い直した。

「ヴァルリッツァーの教えは……否定しないわ。でも、私はそれのみを信じて生きていけるほど、純粋じゃない。疑問に感じ、思案し、考察し、迷って迷って迷って、その果てに答えを私は導き出すわ。だから、ヴァルリッツァーのみで生きていくことは出来ない。その誇りの為だけに戦うことは出来ない! 私は、『イースフォウ・ヴァルリッツァー』として前に進むわ!」

伝機が、彼女の精神の高ぶりに呼応して、唸る。

そう、それこそイースフォウが進むために見つけた答え。ヴァルリッツァーだけでは彼女は前に進めなかった。それだけでは彼女は答えを見いだせなかった。目標を見つけられず進めなかったのは、彼女にとってはそれだけでは足りなかったからなのだ。

そう、彼女はイースフォウ・ヴァルリッツァー。ヴァルリッツァーでもなく、曇天でもなく、アムテリア学園の劣等生でもなく、他の何者でもないたった一人の少女であった。

だから彼女は理解した。イースフォウ・ヴァルリッツァーならば、この先も進むことが出来る。

迷いながらでも、イースフォウとして、戦い続けることが出来るのだ。

「だから、悪いわね! ヴァルリッツァーとしての決闘なんかに付き合うつもりは無いわ! 捨てたつもりは無いけど、今使うことは出来ない」

「……曇天、ヴァルリッツァー使わずに、一体何をしようというの?」

冷たく、重い声でスカイラインが尋ねる。

その言葉に、イースフォウはにやりと笑う。

「貴方に勝とうとしているのよ」

「……っふ」

スカイラインは鼻で笑う。

「笑わせてくれるわね、ヴァルリッツァー無しで、どうやって戦おうというのよ。対人戦闘で、ヴァルリッツァーに勝とうなんて、夢物語にもほどがある!」

「なら、使えばいいわ。石だろうが水面木の葉だろうが逆流だろうが。余力があるのなら、どうぞ使えば良いじゃない」

イースフォウが笑いながら言う。そう、計算どおりだった。注意深く見れば、誰でもわかる。スカイラインは肩で息をしている。

それにスカイラインはギリリと奥歯をかみ締めた。

「もう、10分くらいになるかしら? ずっとヴァルリッツァーの技を使っていれば、そろそろ仙気も足りなくなる。精神的にも疲弊してくる。もう、そろそろ限界でしょう?」

イースはキッと、スカイラインを真っ直ぐ見つめる。

「私はヴァルリッツァーに勝つわ! 決着をつけましょう、迅雷のヴァルリッツァー!」

「調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

その言葉が限界だったのか、スカイラインが咆哮しながら、イースフォウに突っ込んできた。

「雲は、晴れた!」

イースフォウは、それにあわせて、自らも突っ込んでいった。


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