女神なんてものは存在しない!
長い間眠っていた気がする。
俺は今、暗闇の中にいる。
と、突然強い光が瞼の上から俺の瞳孔を刺激してくる。
それはまるで、気持ちよく眠っていたところを親が無遠慮に起こしてくるような感覚。不機嫌な朝を迎えるような感覚。
俺は、目を瞑っていても眩しく感じる光の明るさに耐えられなくなり、ゆっくりと両目を開く。
「・・・え?」
俺は、今まで自分の記憶上では見たことのない景色が眼前に広がっていることに思わず驚きの声を漏らす。
俺の眼前に広がっている光景、それは真っ白な空間だった。ただただ、真っ白い部屋で、他には何も無い。
ここは、どこなんだ?俺は何でこんなところに?
俺は、確か家から駅に続く道を歩いていたはずだ。途中車が向こうから走ってきて、それでそれを避けようとして…避けようとして…?
!!!
そうだ。俺はあの時足を踏み外し道路から転がり落ちたんだ!
そして、そのまま畑に頭から落ちて…
俺は、そこからの記憶がないことに気づく。
泥まみれになり顔をしかめながら起き上がった記憶も、あの時意識を失って病院で起きた記憶もない。
あの時から俺の記憶は途絶えている。
まるで、家庭用ゲーム機のコンセントが外れ唐突にテレビ画面が真っ暗になったかのように、俺の記憶はプツンと途絶えている。
どういうことだ?まさか、あの時頭から畑に落ちたことにより、俺は…
死んだのか?
いやいやいや、畑は土だし、落ちたといっても高さはたった2〜3メートルくらい。そんくらいじゃ死なないよな?
理解不明なこの状況に俺は、自分のことを恐怖から守るように必死で自分に言い聞かせる。
あの程度では人は死なないと。
俺は、死んでいないと。
「ごめんなさい、シシャ様。到着が少々遅くなりました」
唐突に聞こえてきたその声は、女性特有の澄んだ声だった。
俺は、突如として聞こえてきたその声に驚き、声のした後ろを振り返る。
するとそこには、少女が立っていた。
「うおあああああああ!?」
俺は思わず驚きの声を上げる。
後ろにいきなり現れたのだ。誰だって驚くだろう?
しかし、よくよく見るとその少女は人間離れしたとびきりの美少女であることに気づく。
俺のいきなりの大声に少女いや、美少女は驚き一歩後ろに下がった。
「あ、あの、お待たせしてしまってごめんなさい。シシャ様」
おどおどとしながらも美少女が謝罪の言葉を口にし、ぺこりと頭を下げ…え?
「ねぇ、今なんて?」
確かめる必要がある。今のが俺の聞き間違いだったかどうかを確かめる必要が。
「え?遅れてごめんなさいと」
「その後だ。君はごめんなさいの後になんて言った?」
俺の問いかけに少女は顔を俯かせる。その仕草は少し俺に申し訳なさそうにしているように見えた。
「あ、えっと、シシャ様、と…」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。彼女は今俺のことを死者様と言った。
つまり俺は、あの時に死んだのだ。
****
俺は、真っ白な空間でパイプ椅子のようなものにに座っている。
目の前には、業務用の長机を挟んで美少女が座っている。
これらの椅子や机は少女が出したものだ。
先程、何も無い空間に手をかざし、日本語ではない言葉を呪文のように美少女は唱えた。
すると、これらの椅子や机が何も無い空間に突如として出現したのだ。
それは、まるで魔法のようだった。
彼女が座っている椅子は、俺の座っている椅子と比べるとしっかりした作りになっていて、座り心地も良さそうだ。
「あのー、少しは落ち着きましたか?」
漠然とそんなことを考えていた俺に、目の前の美少女が心配そうに問いかけてくる。
「あ、…はい。少しはまぁ、落ち着いたみたいです。さっきはその、すいませんでした」
俺は先ほど、目の前の美少女に「死者」と言われたことを理解出来ず、少々発狂した。頭を抱え、今まで出したことのない音量で叫び、床を転がり回り、そして床に頭を何度も打ち付けた。
美少女は、そんな俺の発狂ぶりに心底恐怖しつつも俺を止めてくれた。
そういえば、この子は誰なんだろ?
俺が落ち着きを取り戻したと判断したのか、美少女は少し安心した様子で口を開く。
「えーと、虹原正人さん、ですよね?急にこんなところに連れてこられてびっくりしていらっしゃいますよね。ここは、天界です。そして私は天界守護神の第七女神と申します」
…は?天界?女神?
日常では聞き慣れない言葉に俺は眉をひそめる。
「えーと、急にそんな事言われてもよくわかんないですよねぇ。あはは」
俺のそんな態度に少し困った様子で愛想笑いを浮かべる美少女、改め女神様。
「えっとですねー。ここに連れてこられた理由は、もうわかってますよね?」
女神様は恐る恐ると言った感じで俺に質問してくる。
「ええ、俺はその、もう死んだんでしょう?だから死者である俺はここに連れてこられて、今から俺の過去のおこないかなんかを見て天国に行くか、地獄に行くかを決める、みたいな感じですよね?」
俺は、昔話や絵本なんかで見たことのある話をしてみる。
意外とああいう話って間違いではないんだな。
そんなことを考えている俺の顔を女神様は不思議そうに見つめてくる。
「……?。確かにそういうこともここ天界では取り扱っておりますが、あなたがここに連れてこられた理由はそれではなくて、えっと、もしかして何も聞かされてないんですか?」
え?何の話をしているんだろうこの女神様は。俺は畑に落ちてから意識を失ってて、ようやくこの部屋で目覚ましたんだが?
なんだか話が噛み合ってないような気がする。そもそも聞かされるって誰に?何を?
俺が本気でわからないという表情をしていると目の前の女神様はなるほどと小さく呟き、目を閉じる。
数秒の沈黙が部屋に訪れる。
なんか、気まずい。
この女神様は、いったいどうし…
「だっはぁぁぁぁ。あーあ、マジかよあいつら〜、ちゃんと仕事はしろよなクソ天使ぃ」
……え?
女神様はいきなり大きくため息をついたかと思ったらさっきとは一変、全くの別人のような口調になっていた。
女神様は業務用の長机に頭をゴンゴンと何度も打ち付けながら呟く。
「あー、、、私の仕事が一個増えたじゃねぇか。あいつら、後で絶対罰を与えてやる。クソッ」
さっきまでのおどおどとした可愛らしい美少女女神様はどこへ行ってしまったのだろうか?
俺は現状が理解出来ず、ただ黙って目の前の女神様の言動を見ていることしかできなかった。
「クソクソクソぉ〜。めんどくせぇめんどくせぇ、こっちは徹夜なのに何で仕事を増やすかな〜?イライラするよ全く。ほんとにあいつらには愛の制裁を加えてやらねばならないなぁ。どんな罰を与えてやろうかしら。アハハハハハ」
見ていることしか出来なかった。が、いつまでもキリがなさそうなのでこちらから話しかけてみることにした。
「あ、あのー、女神様?いったいどうし」
「あ?少し黙ってろよ。童貞」
いったいどうしたのですか?という俺の言いかけた言葉を遮り、女神は冷たく言い放つ。
最初の優しそうな口調と態度は一変し、口も態度もものすごく悪くなった。
というか、最後の言葉は俺を苛立たせるには十分な一言だった。
こ、こいつ。猫かぶってやがったな?
読んでくださってありがとうございます!
2話目です!1話目に比べるとだいぶ長くなっていると思いますが、読んでくださって本当にありがどうございます。
異世界冒険物を謳いながらもまだ、異世界に行きません。次、もしくは次の次で異世界に行くと思います。
いつになるかはわかりませんが、3話目が投稿された時には読んで下さるとありがたいです。




