第二話
『ようこそWonder Worldへ』
ゲームを開始したら、目の前に女性が立っていた。聞こえてきた声は、機械的だったからキャラ作成用のNPCだろう。
『貴方の名前を教えて下さい』
「アオ」
『種族を決めて下さい』
どうする? ランダムにするか?
正直どの種族でも同じたと思うから、遊びでランダムにしよう。
「ランダムで」
『......貴方の種族は人間にきまりました』
ファンタジー感は無いけど、ランダムで人間って凄いんじゃないのか?
『職業を決めて下さい』
「その前に俺の種族の特徴を教えて下さい」
『平凡な種族です』
説明が、みじかい! これじゃあ、職業選びの基準が決められない。でも、やりたい職業はある。
「侍で」
『ステータスを決めて下さい』
耐久:10
体力:10
魔力:10
筋力:10
知力:10
敏捷:10
器用:10
ボーナスポイント:20
耐久がHP、攻撃をくらうと減る。
体力がPP、武術の使用時に減る。
魔力がMP、魔法の使用時に減る。
だったな。後は、言葉の通りらしいけど、侍はやっぱり体力と筋力かな。
耐久:10
体力:15
魔力:10
筋力:20
知力:10
敏捷:15
器用:10
ボーナスポイント:0
念のため敏捷も上げておいた。ゲームの世界なら敏捷が少なくて攻撃が当たらない可能性がある。
『容姿を決めて下さい』
NPCの言葉に合わせ、俺の前に俺の立体映像が現れる。
このゲームは自分を元にキャラクターの容姿を決めていくが、性別の変更は出来ない。ネカマなどのトラブルを避けるための措置だとかで。
俺は本名である蒼にちなんで、髪の色を白に変え、目の色をくすんだ青色に設定する。身長は170くらいあった筈だからそのままでいいだろう。
『以上で終了となりますが、何か質問はありますか?』
「ないです」
『それではアオ様、Wonder Worldをお楽しみ下さい』
機械的音声に送りの言葉とともに、俺は光に包まれた。
俺が飛ばされたのは街の広場のようだ。確か『ルセット』って街の筈だ。街はアニメやマンガのヨーロッパのようで、街を歩く人? のなかには頭から角を生やしている人や猫耳を着けた? 人達。まるで、小説の異世界ファンタジーのようで自然と気分が昂ってくる。
一応、俺も変化があるのか確認してみるが特にない。
「おいそこの兄ちゃん暇なら一緒に狩りに行こうぜ」
なんか、がたいのいい人に話し掛けられた。
「いいですよ」
「お、ノリがいいな。じゃあ、自己紹介しようぜ。俺はヒスイ、種族は鬼、職業は狂戦士だ。」
「俺はアオです。種族は人間、職業は侍です」
「おいおい、まじかよ兄ちゃん」
俺の自己紹介を聞いたヒスイさんは驚いた顔をし、次に困った顔をした。
「......悪いが狩りには行けねぇ」
「え、何でですか?」
「兄ちゃん掲示板や攻略サイト見てない人だな。俺はβからだから知ってたが、人間は不遇種族だ」
ヒスイによると、人間のステータスは全部が10いわゆる器用貧乏で、種族スキルも【器用貧乏】というスキルらしい。
「でも、人間だけなら良かったんだよ。人間は不遇って言ってもそこまで不遇じゃない。現にβでも人間で強い奴はいた」
「じゃあ、なんで狩りに行けないんですか?」
「それは、兄ちゃんの職業の侍がこのゲームで一番の不遇職だからだ」
侍が不遇? RPGのゲームで侍が不遇なんて滅多にないだろ? それも、一番の不遇なんて......
「まぁ、侍が不遇なんて普通は思わないからな」
俺の思考を読んだかのようにヒスイさんは言う。
「でも、このゲームじゃ不遇職だ。理由は単純にコスパが悪い」
「そ、それってガンナーとかの間違いじゃ」
「確かに、ガンナーの弾は一発限りだ。だか、侍の刀も一戦限りだ」
「いやいや、刀は何回でも使えるでしょ」
「このゲームはな。刀にリアルを追求したのか知らないが、モンスターを斬るとき鱗に当たれば刃が欠けるし、剣と打ち合えば折れるんだよ」
一回戦う事に刀が消える? そんなのレベル上げできないじゃないか!
「まぁ、それなりの腕があれば違うのかもしれねぇが一般人にそんな技量はまずねぇ。だから、侍は不遇職なんだよ」
「......わかりました。教えてくれてありがとうございます」
もう、すっかり気分の萎えた俺は右側のメニューからログアウトを探す。が、ヒスイさんからそれを遮る声がかかる。
「おい、待て。パーティーは組めねぇが刀をやる」
「なんでそこまで......」
「......俺の知り合いの中にβで侍選んだせいで、βテストを満足に遊べなかった奴がいてな。そいつはβだったから良かったが兄ちゃんは違う」
確かにこのゲームで新しいキャラを作るにはVRギアを買い直さないといけない。キャラの作り直しがあるなら種族のランダムはないだろうし。
「だから、貰ってくれ。ゲームを少しでも楽しめるように」
「......ありがとうございます」
「気にすんな」
ヒスイさんはそう言って何処かに行ってしまった。
......俺はこれからどうしようか。