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02

 数日後。初めてのチーム・ミーティングが行われた。


 部屋には、サンライズ・リーダーとボビー、作戦課情報分析チームのキタノ、それにキタノの助手をしているカンナという女性が集まっていた。

 キタノは色白でやや下ぶくれの頬、そして学生のような細いフレームの眼鏡からのぞく細い目がいかにも小利口そうに光っている。やや長めの前髪が眼鏡に半分かかっているのを、何度も払いのけている仕草が見ているだけでうっとうしかった。

 カンナは小柄で顔の作りがはっきりした女性で、ボビーですらかなり可愛いコだと感じられただろう……固く組んだ腕をほどき、少しでもその顔に笑みをみせてくれたら、の話だが。


 照明が落ちてから、そっと後ろのドアが開いて誰か入ってきたのにボビーは気づいた。

 キタノもカンナもちら、とそちらに目をやったが、リーダーは気にした様子もなく、話を続けている。

 ボビーはそっと後ろをうかがってみた。

 カンナよりもさらに小柄な影が、壁に寄せた椅子にもたれかかるように座っていた。

 一緒に話を聞いているようだ。

「揃ったね、じゃあ始めよう」

 やっぱりこの人、声は素敵だ、ついボビーは口角を上げてから、あわてて表情をつくろった。

 暗がりなので、誰が気づくこともないのだが、頬が少しだけ熱く感じられた。

 おかまいなしに、リーダーの声は続く。


――インド核エネルギー省内に、一年程前から極秘プロジェクトチームが動いていた。その中心となっているのが、科学者のデニス・ミシュラー博士だ。


 隣国ロキスタンとの軍事競争で現在インドでは核技術の軍事転用が具体的に進んでいる。

 元々核についてはインドの方が先んじていたのだが、ロキスタンで近頃地下核実験の準備が進んでいるというニュースが飛び込んでから、急に、このプロジェクトチームが立ち上げられたらしい。


 デニスは元々イギリスで生まれた。父はインド人、母は中国と英国のハーフだった。

 両親の離婚に伴い、六歳の時父に連れられてインドに渡る。

 一一歳ですでに高等学校に進学。四年の学業をたった二年で修了、インド工科大学に入学したのがなんと一四歳だったという。


 彼は現在三八歳。インドの核技術開発メンバーの中でも最も若く、最も優秀だという噂だった。


 しかも、彼は意外なことに素人にも受けがよい。インド政府の後押しで始まった『デニスおじさんの面白科学実験』という番組が、子どもたちに大人気となった。

 どうも、ひょうひょうとした語り口とスタジオでの失敗の多さも人気に拍車をかけているらしい。


 そんな彼の身辺に、しかし近頃怪しげな動きが見え始めた。

 秘密裏に調べられた電話の通話履歴の中に、トルコ、イラン、中国などへのかなり長いアクセスがみられるようになったのだ。

 通話先を辿ると、どれについてもロキスタン政府の影がちらついている。

 デニスがロキスタンに通じているのでは、という嫌疑がかけられた。


 おりしもこの九月に、アジア学術会議タイ会合国際シンポジウムが開かれ、デニスはそこで論文を発表することが決定した――



「この会議を利用することになった」サンライズは一人一人を見渡した。

「我々は会議場に入り、まずデニスと間接的に接触し、その後宿泊先のホテルで直接アプローチを行う。うまく説得できれば、そのまま彼をつれて日本へと渡る。その後は政府の科学技術関係者に引き渡し、我々の任務は終了だ」

 彼の技術を、最終的には日本またはアメリカに流出させ利益を得ようというのが国の考えらしい。


 ボビーはリーダーに聞こえないように軽く鼻を鳴らす。

 いくら『世界を股にかけた正義の味方』でも、実際にはこのように国の利害関係にからむ任務も多い。

 彼を失うことになればインド政府は黙ってはいないだろうが、おかしなことに、シンガポールにあるMIROC南アジア支部は、今回の件には全面的に協力する、と言ってきた。

 インド・ロキスタン間のパワーバランスを考慮しての判断らしいが、実際はこの組織に一番影響力のあるアメリカの意向が大いに働いているのは、政情にうとい彼にもすぐに判った。


 それでも、彼らは命じられたらその通りに任務を遂行するしかない。


 照明がついて、リーダーは一人一人を見渡した。

「作戦実行には、もう一人協力を頼んである」

 え、という顔のキタノ。ボビーも初耳だった。

 後ろに座っていたのが、その協力者だったらしい。


「シヴァ」


 リーダーに呼ばれ、前に進んだのはまだ少年ともいえそうな年齢だった。

 白いTシャツに七分丈のジーンズ、素足に革のサンダルをつっかけている。

 ペタペタと足音をたて、前に立った少年は、悪びれもせずメンバーの一人一人をじっくりと見渡していた。

 しかし直接目を見ようとはしない。それが逆に不躾な感じを与える。

 黒い髪に鳶色の瞳、少し浅黒い肌、アジア系なのかヨーロッパ系なのかはっきりしない。眉は濃く意思が強そうだ。彫りの深い顔立ちだが、どこかあどけなさも残っている。


「彼は、コードネーム『シヴァ』。今回だけ特別に任務に参加する」

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