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サンライズ、再び蝶を見る 1

 開発部からの帰り、彼はまた蝶を見かけた。


 その日の訓練も相変わらずどうしようもないものだった。

 頭痛がひどくなるのを知っているのに何故、光刺激を更に強くしようとするのだろう、彼はまだズキズキと脈動するこめかみをギプスに入っていない方の片腕で頭を巻くように押さえ、木漏れ日の舗道をひとり歩んでいた。


 それでも、以前と明らかに違うことがある。

 彼は思い出して、痛みに耐えながらも口もとだけでにやりと笑う。


 被験者を前に座り、いつものように訓練が始まった。

 おなじみとなったバイタルチェック、変動数値確認、刺激による能力発動差異チェック、もろもろ。


 珍しいことに、忙しいのか担当者は独りだけだった。まだ若いがかなりのやり手で、ことサンライズの訓練やテストの際にはまるっきり容赦ということがなかった。


 それでも、このチャンスを逃す手はない。


 サンライズは細かい部分についてはいつも以上に大人しく従い、特に口を挟まず訓練に取り組んでいた。


『スキャニング』はややすんなりといった。やはり実地で何度か経験を積んだのが良かったのだろうか。


 それでもやはり、彼のクセなのかロクに対象の思念を探りもしないうちにすぐ『シェイク』に持ち込もうとするらしく、今回も

「ストップ!」

 担当者が『制御ボタン』を押そうとしたせつな


 彼はその白衣に向けて、キーを発した。


「偏差値六九、学内二〇位まででなければ稔くん」


 白衣の男は殴られたかのように激しく後ろにのけぞった。みるみるうちに顔面が蒼白になり、瞳孔が大きく開く。


 毛筋ほどの哀れみを一瞬覚えたものの、サンライズは続けて言葉を発する。

「稔くん、そのボタンを今は押さないで、そして聴いてくれ、今だけでいい」


 稔くんと呼びかけられた彼は、がっちりと針にかかっている、被験者はすでに半分意識がないかのようにうつらうつらしていたので、今から起こることはほとんど気にしないだろう。


 サンライズは、稔個人に語りかける、半分はことばで、そして半分は直接心の中に。


「訓練はあくまでも訓練だ、大切なことだよ、でもね、他人の心をむやみにいじるのはたとえ、大きな目的のためであろうと、できるだけやってはいけないことだと、オレは思う」


「思う……」稔が繰り返すのを、だんだんと激しくなる頭痛の中で確認する。


 サンライズは歯を食いしばりながら、どうにか思念を送り続けた。


 多分もうほとんど声にはなっていない、それでも、ここまで深く喰い込んでいればことばで話すくらい、彼に聴こえているに違いない。


「人間はお互いに思いやって生きることができる、他の動物もそうだ。でもね、人間が他の動物と違うのは、その思いやりの方向が間違ってしまった時、ちゃんと反省できるかどうか、よりよい途に向けられるかどうか、そこなんじゃないかな?

 オレはシェイカーだ、それは君も知ってるだろう?」


 白衣の男・稔はゆるゆるとうなずいた。サンライズは片手のひらで自らの額をぎゅっと押さえつけながら更に彼に語りかける。



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