04
もうすこしでバンコク近辺にさしかかる、という頃、通信機が赤く点滅した。
うとうとしていたサンライズは、はっとしてスイッチを入れる。カンナだった。
「リーダー、いいニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」
「いい方からにしよう」
「キタノが勝手に日本に帰った。辞表が置いてあったよ」
「久々に聞く朗報だな。で、悪い方は?」
「博士がまだ起きてる」
「彼も大人なんだから夜更かしに目くじらたてるな」
「違うよ」カンナは声をひそめた。
「明日の論文発表には必ず行くって。原稿を取りに行くって騒いでるの」
「出ていったのか?」
「まだ。リーダーに連絡が取れるまで待て、って言ってある」
「じゃあ、ダメだと伝えてくれ」
「明日発表できなければ、日本には行かないと言ってるけど」
「そうか」会話に気づいて、ボビーも目を覚ました。
「博士が明日、会議に出ると言ってるらしい」
「どうするの? リーダー」
「どうしようかなあ」
他人事のようにつぶやく。しかし、すでに答えが見えた。
サンライズは運転手に告げる。
「すまないが、まずリバーサイドガーデンに付けてくれ。裏の通用口に」
車はすでに、チャオプラヤ川のほとり、金色のパゴダが闇に沈む市街地へとさしかかっていた。




