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05

 博士とシヴァとを、バックヤードオフィスに使っているセンターホテルに置くと、キタノがおろおろしながら待っていた。

「ボビーがいなかった。どこかに連れ去られたらしい」

「博士、私はサンライズです」

 キタノを無視して、サンライズは博士に手を差し出す。

「危険がありますので、今晩はこの部屋に泊まっていただけますか? お体で痛いところは」

「首が少し」

 それを聞いたサンライズ、ちょうど隣に立ったカンナに頼む。

「現地スタッフのシクロに連絡して、すぐ見てくれる医者を呼んでくれ。ムチウチかも」

「わかった、すみません」ボビーの件を謝っているのか、少ししゅんとしている。

「オマエこそだいじょうぶか? 熱出たんだろう?」

「薬、飲みましたから」

 少し熱っぽくて早く休んでいたというカンナは、だるそうに、それでもすぐに連絡をとっていた。


 サンライズは、今度はキタノに向き直る。


「ボビーがどこに行ったか、調べたか?」

「なんで? メモも手掛かりもありませんでしたよ」

 むっとしたようなキタノ。

「それに博士は確保できたんでしょう?」

 キタノは突然、サンライズに胸ぐらをつかまれてひっと息をのんだ。

「メンバーがさらわれて、その言い草か。オマエそれでもMIROCのチームメンバーか?」

「だからワタシは情報処理の専門で……」

「もういい」サンライズは彼を突き放した。「オマエは何もするな」

 シヴァに向き直る。

「ボビーには緊急の場合に備えて、予備の発信器を渡してある。ピアスに仕込んであるはずだ。周波数も分かっている、探してくれるか?」

「もちろん」急に生きいきした表情だ。

「モニタはどこ?」

「こっちだ」

 手で示すとシヴァは目を輝かせモニターに向かって駆けていった。


「カンナ、どうだ」

 ちょうど医者と連絡がとれたらしく、彼女も明るい表情だった。

「内緒できてくれるドクターを一人みつけた。整形外科、すぐ来るって」

「ありがとう、悪かったな」彼女の額にさわり

「熱は、今は下がっているようだな……もう少し無理させるが、シヴァのフォローを頼む」

「了解」すでにモニタの調整を始めたシヴァの元に駆け寄る。


「キタノ」

 呼ばれて、ふくれっ面をしていたキタノ、それでも精一杯の虚勢をはってみせ

「何ですか」

 偉そうに胸を張っていたところにこう指示を入れた。

「オレはいったんボビーの部屋を見に行く。オマエは……博士をここにお泊めするのに、ベッドを開けて片付けておくんだ。あと、着替えやら何やらも用意、いいな」

「了解」わずかに考えて「もう一部屋とった方が?」と聞くので

「オマエのところを開けろ」と言ってやる。

「オマエは今夜床で寝るんだ、もし寝る暇ができたらな」

 ぶつぶつ言いながらも、自分でもできる仕事だと思ったのかキタノは寝室に入っていった。


「私は、明日論文発表がある」首を押さえながら博士が言った。

「それにミナが心配する、連絡だけでもしたい」

 カンナの声がとんだ。

「博士の部屋に外線着信。彼女、博士がだいじょうぶなのか聞いてるわ。相手は怒っている、ミシュラーとその連れどちらにも逃げられたと」

「ボビーの信号をキャッチ」重ねてシヴァの声。

「ジョイ博士の部屋にいたのも別の人間、しかも男だった、って」カンナが冷静に続ける。

「かなりカンカンだよ、ミナの話し相手」

「二人の動きを追ってくれ、オレはまずあっちを見てくる。博士、すみませんが」

 いったん博士に向き直り

「秘書に連絡をしないように。彼女が今回の件に絡んでいるかもしれませんので」

「ミナが?」博士は爪をかんでいる。もう指を食っているに等しい。

「わかった、あの……彼と一緒にいてもいいかな?」奥のモニタの方を指した。

「お願いします」

 サンライズはふたたび、外へと飛び出した。


 ふたつのホテルの間を駆け抜け、オリエンタルパレスホテルの非常階段を駆け上がる。

 ボビーたちのいた部屋、ドアは無理やり開けられたらしく少し変形し、部屋はもぬけの殻だった。それでも変装用具一式はすばやく隠していたようで、外に出ていたのは女性用の化粧品と洋服くらいだった。あとはシヴァの私物。


 早速通信機のスイッチを入れ、カンナに様子を聞く。


「ミナは出かける、行き先は……アユタヤ。クルンシーヒル、ホテルの名前だわ。バンコクから車で一時間以上かかるね」少し他に耳を傾けてから

「やはり、彼女は一味だ。ヤツらはロキスタン人が多いみたい、元々軍人上がりらしいね。博士をあちらの政府に売ろうとしている」

「ボビーは」

「やっぱり北上してるって、もうすぐ圏外になる」

「ミナを追うしかない」

 バンコクを出る裏道に詳しい運転手を頼んだ。そっちのホテル前にすぐ回してくれ、とカンナに告げる。

「誰が行く?」

「オレ一人でいい。もしものことがあったら、」

「ないだろうけど、分かったわ。博士の説得ね」

「論文発表前でもいいから、国外に連れ出してくれ」

「了解」


 後はカンナに任せるしかない。ボビーを救うのが今の最優先事項だ。彼は非常階段を駆け降りてまた隣のホテルに戻った。

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