04
サンライズはすべての部屋を一通り検め、気になった場所に戻る。
ベッドの上に乱雑に脱ぎ散らかされた衣服、その乱雑さが何となく作為的な気がしていた。
すでに着いた時から日々脱ぎ棄てているらしい。秘書はそこまで片付ける義理がないと思っているのか、単に触りたくないだけなのか、ほったらかしのようだ。
いっしゅん排泄物に見えてしまった靴下のかたまりをそっと除けて、丸まったランニングシャツをそのまま持ち上げた時、下から封筒が出て来た。
封は開けられていて、中は空っぽだった。しかし隠してあったのは事実だ。
宛名をみる。
「デニス・ミシュラー様」のみ、住所はなし。裏には署名はない。
このホテルの封筒だ。
しかし、濃いブルーブラックの宛名の文字に、見覚えがあった。
灯りに透かしてみた。しめた、ボールペンの跡がみえる。
「なになに……」ほとんど読めないが、一部だけ文字が認められた。あわてて鉛筆を探す。
サイドテーブルに、何かの計算をしたのか、メモ帳とペンが何本か。鉛筆も数本あったが全部芯が折れている。ナイフはない。
イライラしつつも、足元のカーペットを探るとようやく、折れた芯を見つけた。
芯を寝かせながら、上を軽くこすってみたら、これだけ読めた。
『……r son liv……』
息子が生きて? 他に文字はみえないか?
『uesd……9pm』
状況を考えると、火曜午後九時ということか。
今度は丸くなった消しゴムを拾って、きれいに鉛筆の線を消す。
当初のミッションでは、今日の記念講演後にいったん向こうからの接触を待ち、彼の研究発表が終わった明後日の水曜日、一五時過ぎにオリエンタルパレスのカフェで『息子』と『ジョイ博士の助手』が極秘裏にデニスと会うことになっていた。
息子役がシヴァで、助手がリーダーの役だ。
その時出来る限りの説得を行い(ここがサンライズ・リーダーの一番の働きどころだった)、承諾をもらい次第、引き継いだMIROCのスタッフがつき添って空港まで行き、そこで飛行機に乗せて日本に連れて行く、という段取りだった。
もしも向こうから接触してこなければ、こちらから連絡をする手はずまで決まっている。
ボビーは電話をかける時のために、彼女の声もしゃべり方もずいぶん練習していた。風邪で声がしゃがれているというバイアスのおかげで、仕事は少しやり易いとボビーは笑っていた。それに彼の役目は電話だけで、実際に会うのはやはりシヴァとサンライズとの予定だった。
おぼつかないながらどうにか一通りセッティングも済ませたと言うのに、誰かが秘密をバラそうとしている。そして、ミッション前日に彼と会おうとしているのだ。
一体誰が?
答えはもう出ている。この丸っこい文字を書く人間を彼はよく知っていた。
サンライズは、封筒を元通りに置くと、下着をそっと元に戻す。
とにかく無事にここから抜け出して、早く彼に聞かないと。




