バッドエンド
プロローグで書いた通り、私大虎が書かせてもらった碧葉ユウ視点です。
おかしなところがあれば、容赦なく言ってください。辛口で構いません。
ではでは、本編をどうぞ!
「ようこそ、諸君! 諸君らがここに来たということは《魔物》との戦いに身を投じ、己の身体を盾にして護るべき者たちを護るということだ」
うるさい程の大声が教室に響いた。
僕は縦が8列、横が7列ある席のうちの廊下側の後ろから2列目の端に座っている。そこから聞いてもマイクの音量を最大にして、聞いたような声だ。
その声の主は、ワイルドに刈られた短髪に左目を眼帯で隠していて、ガタイのいい身体をした男。その男の名は、仰山キヘイ。一応、僕のいるクラスの教官だ。
耳が痛い。この大きさの教室だ、そんなに叫ばなくても聞こえるのに。
「おい、そこ!! 聞いているのか!」
仰山教官が僕の方を、ズビッと指を指して言う。
何で僕を指を指すんだ。これでもほとんど聞いている。
「お前は……碧葉ユウ!! 立て! 罰として、《悪魔》と《魔法》について説明してもらう」
僕は何もやっていないのに……。態度だけで立たされて罰を与えられるなんて。
「はい。《悪魔》と契約するには契約の儀を行う必要があります。《悪魔》には、7大柱と69柱な名持ち、名無しの《悪魔》がいます」
教室中の視線が僕に向けられているのがわかる。
「現在7大柱のうち2柱は契約者が存在し、69柱の38柱は契約されています。7大柱は、名持ちの《悪魔》の中でも魔力の量や戦闘力が桁違いなので契約の儀は危険を極め、契約者もなかなか現れません。69柱は7大柱よりかは劣りますが、名無しの《悪魔》などでは比べ物になりません」
「そうだな! 次は《魔法》の説明をしてもらおうか」
「……はい。自分たちのような《魔法》の才能の備わった者たちは、魔力を使って《魔物》を倒すことができます。しかし、人の身に与えられた魔力には限りがあります。そこで、《悪魔》と契約し膨大な魔力を使うことで《魔法》を長時間行使できるようにしました」
人前でここまで長く喋ったのは久しぶりだ。視線が突き刺さって、手汗が凄いことになっている。
「しかし、それにはデメリットやリスクが伴います。リスクは、《悪魔》の魔力を使えば使うほど《悪魔》に精神を汚染され、身体を乗っ取られることです。“長時間“であって“無限“ではないのです。デメリットは、《悪魔》と契約なしの状態では火、水、風、土、光、闇の全ての属性が使える。《悪魔》と契約した状態では、《悪魔》に備わっている属性の魔法しか使用することができない」
「よし、いいぞ! もう座れ、よくできたな」
ふぅ、なんとか説明できたようだ。まあ、全部本で読んだことをそのまま言ってるだけだけど。
仰山教官は、僕を座らせると軍服の袖を捲り黒い腕輪を見せた。
「これが、《悪魔》と契約した証の腕輪だ。《悪魔の腕輪》とも言われている」
黒い腕輪は、とても黒々しく蛍光灯の光に当てられ鈍く光っている。
あれが《悪魔の腕輪》……。《魔物》どもを殺すために、人が頼った力。
「そして、諸君らには今から契約の儀をしてもらう。しかし、《悪魔》には限りがある!」
仰山教官は、教卓をバンっと大きく音がなる程叩き言った。
「このクラス全員で、バトルロワイヤルをしてもらう!! それで生き残った20名に契約の儀をさせてやろう。さらに、上位1名には7大柱の《悪魔》の契約の儀をする権利を与えよう」
仰山教官の言葉に教室中がざわついた。
全員が契約の儀を受けられるわけじゃないのか。それじゃあ、受けられなかった奴らはどうするんだよ……。
「契約の儀をかけたバトルロワイヤルは、昼からとする! それまで、何をしても自由だ。昼になったら、第3訓練場に集まるように! それでは、解散!!」
そう言い残すと、仰山教官は教室から出ていった。
どうすれば、いいんだよこれ……。
「なあ、ユウ! ついに来たなコレ!」
僕がこれからのことを考えていると、後ろから声をかけられた。
僕はコイツのことをよく知っている。いや、知っている以上に知っている。
コイツは青深ルイ。なぜ知っているかと言うと、育った場所が同じだからだ。
僕とルイは、孤児院で出会った。
当時は、まだ魔法兵士は少なく《魔物》に通常兵器の全力攻撃で足止めするのが定石であった。なので、民家への流れ弾などがあり親をなくした子供が多くいた。僕とルイもそんな子供の1人だ。
孤児院での思い出は、あまりいいものではない。いい思い出を上げろと言われたら、その思い出には絶対に出てくる人がいる。
───アイさんだ。
彼女は、僕たちのいた孤児院の母のような存在だった。親をなくした僕たちにとても優しく接してくれた。彼女は身体も心も傷ついた僕たちの癒しだ。
しかし、そんな彼女もこの狂った世界に殺されてしまった。
《魔物》に殺されてしまったのだ。
血の染みた地面の上に横たわった彼女に、僕たちは誓った。
───《魔物》を絶対殺すと。
あの時に、ルイと僕は一緒に魔法兵士訓練学校初等訓練部の門を叩いたのだ。
そして、あれから9年が経ち15歳になって高等訓練部に進学することができた。
話がだいぶ逸れてしまった。
閑話休題。
僕より背の高く、オレンジがかった茶色の髪の毛をした少年を見る。
「これから、どうする? 俺は飯食おうと思ってるけど」
「じゃあ、僕も食べようかな」
「お、じゃあ決まりな! 早く食堂に行こうぜ」
ルイは立ち上がると、走って教室に出ていく。それに僕は、慌ててついて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
食堂には、多くの生徒でごった返していた。
僕とルイは、列の一番後ろに並ぶと壁に書いてあるメニューを読み何にするか決める。
うーん、何にしようか。今日は麺類の気分だし、ここはざるそばでも食べるか。
ちなみに、ルイは焼肉定食とすき焼き定食で悩んでいた。
やはり、昼時ということもあり昼食を食べようとする生徒の列は長く、なかなか進まない。これなら、コンビニに走って買いに行ったほうが早いかもしれない。
1、20分経ち、ようやく僕の所まできた。
「さ、あんたは何にするんだい? さっさと決めとくれ、後がつかえてるんだ」
割烹着姿の4、50代くらいのおばさんが僕に言ってくる。これだけ並ばれたら大変だろう。
少し顔を傾け後ろを見れば、このおばさんと同じ年代くらいのおばさんたちが忙しそうに料理を作っている。
「えと、ざるそばをお願いします」
「よし、わかった少し待ちな。ほら、後ろのも早く言って頂戴」
「あ、はい! 俺はすき焼き定食を!」
「はいよ! 元気がいいね、1年生だろ? この後も、頑張んな!」
「はい、ありがとうございます!」
ルイはもうこのおおばさんと打ち解けたようだ。僕もこんな感じに明るくいけば、このおばさんと打ち解けられたのかな。
おばさんは、料理の書いたメモを後ろに回しそれを後ろで料理を作っているおばさんが見て、料理を作り始めた。
出来上がりトレイに乗せられて運ばれてきた料理を、一口食べてみて僕は驚いた。
現在の日本は、太平洋に面した県は平均で半分の面積が海に消えた。さらに、《魔物》によって四国地方と関西地方が占領されている。それにより、今現在人が住めるのは関東地方と九州地方、北海道だけである。二分された日本は食糧事情が深刻で、市場に出回っている食糧のほとんどが人工的に作られたものだ。
はっきり言おう、人工野菜や人工肉で作られた料理はどんなに上手く作っても不味い。今と昔では、食の価値観が違うらしい。昔は味重視だが、今は見た目重視だ。とりあえず、腹に詰め込み栄養が取れればいいということだ。
それなのに、このざるそばは見た目よし、味よしなのだ。
……料理ってこんなに美味いものだったのか。
「ほら、何やってんの! 料理受け取ったら、早くどいて後がつかえてるんだ」
「はい、ありがとうございます」
僕は、ルイの真似をしておばさんにお礼を言う。おばさんは笑いながら、手を振ってくれた。
僕とルイは適当な席で、雑談も交えながら昼食を食べる。雑談と言っても契約の儀についてや仰山教官、副教官はいつ来るかなどの話ばかりだが。
『1年生に告ぐ、1年生告ぐ。1430に第3訓練場にて契約の儀をかけたバトルロワイヤルを行う。5分前には、第3訓練場にいるように。以上!』
僕とルイが、ちょうど食べ終わり立ち上がった時に放送が流れた。
1430だから、2時30分にするってことか。今の時間は2時だから、もう行ったほうがいいな。
「ルイ、もう行っとこう。早めに行っとくのに越したことはないから」
「ああ、そうだな! いや〜、ワクワクするな〜」
ルイはそんなこと言ってるが、僕は最悪の気分だ。これからのことを、考えて態度は良くしとかないと。
このバトルロワイヤルでバレてしまうんだろう。僕とルイの同じ場所で育ち、同じ目的を持っているのに、この大きな違いに。
ここから始まるのだ。
僕が劣り、ルイが優する。僕が手に入れ、ルイが手放す。
これは、バッドエンドが決められたこの世界で足掻き続けた僕たちの物語。
次も私大虎が書く碧葉ユウ視点になっています。
まだ、お前かよと言わずに暖かい目で読んでください。お願いします!