捜索の旅へ
「そう、そんなことがあったの……それで私達と初めて会ったとき、気丈に『俺』なんて言ってたのね?」
話を聞き終わると、ジャクリンが皿にフォークを置いて切ない顔をした。 ロウキーたちはじっとルーシアを見つめていた。 ルーシアは少し俯いて、テーブルに置いてあるナイフを見つめた。
「きっとこうなることを知ってて、父さんはあたしに護身術を身につけさせたんだと思う……でもあの時、あたしは何も出来なかった……父さんを守ることも……」
ナイフに映る自分の顔を見ながら、ルーシアは悔しそうに唇を噛んだ。
「これから、その父ちゃんを捜すのか?」
もしかしたらルーシアの父親は命を落としているかもしれない。 そんな不安があるにも関わらず、探るように尋ねるセィボクに、ルーシアは無言で頷いた。
「そうか」
ロウキーは持っていたフォークに刺さっていた肉を口に入れると言った。
「そういうことなら、俺らも協力しよう!」
「ええっ?」
ルーシア含め、その場にいた皆が驚いてロウキーを見た。
「なんだよ、不服か?」
頬を膨らませるロウキーに、セィボクが驚いた様子で言った。
「オレたちには、配達っていう仕事があるんだぜ? それをサボるって事か?」
「だからよ!」
「え?」
ロウキーは勢いよく立ち上がって、あっけにとられてきょとんとしている面々を眺めた。
「幸い俺たちは、色んな町を回るだろ? そこでだ! ルーシアの父ちゃんの情報も手に入れられるんじゃねーかと思ってな!」
「面白そう!」
セィボクも立ち上がって手を叩いた。
「何よ二人共!」
ジャクリンが不機嫌な声を出した。
「ルーちゃんのお父さん探しを『面白そう』だなんて、不謹慎よ! ルーちゃんに失礼だわ!」
「それもそうだな」
「うん」
アァカンとキツンも、ジャクリンに賛同して頷いた。
「ルーちゃんに謝りなさい!」
ジャクリンは腰に手を当てて、怒り心頭だった。 ルーシアはその覇気に圧倒され、て呆然としていた。
ロウキーとセィボクは、ジャクリンには頭が上がらない。 昔から母のような存在だったし、何より彼女の言い分はいつも正しいのだ。 少し大人しくなった二人に、ジャクリンは言い加えた。
「でも、真剣に探すと言うなら、私は喜んで協力するわよ!」
「ジャクリン?」
ルーシアが驚いて彼女を見ると、ジャクリンはにこりと微笑み返した。
「大切な仲間のルーちゃんに、寂しい思いをさせたくないもの! ね、皆もそうでしょう?」
「そうだな」
「うん」
アァカンとキツンも賛同して大きく頷いた。
「えっ? 皆……?」
ルーシアは微笑んで自分を見つめる面々を、目を丸くして見つめた。 だがすぐに目を伏せて眉をひそめた。
「皆の気持ちはすごく嬉しい。 でも、会って間もないのにどうして信じてくれるの? なにより、皆を危険な目に合わせてしまうかもしれないのに……」
「そんなの、来るなら来いってんだよ!」
ロウキーは胸を叩いた。
「返り討ちにしてやるよ! 俺たちは色んな場所を通って配達するんだ。 少々の獣や盗賊なら軽く吹っ飛ばせるくらい強いんだぜ! 心配すんな!」
「そうさ! 心配すんな!」
セィボクはロウキーの真似をして胸を叩き、その拍子で激しく咳き込んだ。 キツンがあきれた様子でセィボクの背中をさすり、アァカンとジャクリンは目を合わせて微笑んだ。
ルーシアは胸が熱くなって思わず俯いた。
「皆……ありがとう……」
ジャクリンは彼女の小さく震える肩を抱きしめ
「大丈夫よ。 ちょっとドジだけど、頼りになるんだから!」
と優しく囁いた。
「よし! じゃあ、出発するかぁっ!」
ロウキーの一声で、アァカンたちは出発の準備に取り掛かった。
馬車の荷台の中で揺られながら、ルーシアはジャクリンに尋ねた。
「これから、どこへ行くの?」
ジャクリンはおもむろに地図を広げた。
「私たちは丁度、全部の配達が終わったところなの。 だからここからまっすぐ行ったところにあるピチンク町にある本社へ一度戻って、そこで荷物を受け取って、また各地へ配達しに行くのよ」
「ふうん」
ルーシアはジャクリンが指で示す地図上を見つめた。
「どこか見覚えがあったり、思い出のある町って無いかしら? そこに行けば、何か情報を得られるかもしれない」
ジャクリンが尋ねたが、ルーシアは俯いた。 急に色々ありすぎて、まだ頭の中が混乱していた。 昔を思い出すような余裕はまだ無かった。
「ごめん……今はまだ、なにも思い出せなくて……」
ジャクリンは微笑んだ。
「そうね、焦らなくてもいいわ。 何か思い出したら、すぐに言ってね」
その後ろで、アァカンも優しい微笑みで見つめていた。
ルーシアは
「ホントにありがとう。 何とお礼を言ったらいいか……」
と微笑み返した。
幌馬車の上に寝転がって、目の前を流れる木の枝をボーっと見ていたロウキーは、気配を感じて首を上げた。
動いている馬車の後ろをよじ登って、ルーシアがひょこっと顔を覗かせた。
「なんだお前? 危ないぞ?」
ルーシアは目を丸くするロウキーに構わず、身軽に幌の上を這って近づくと、横に座った。
革の幌が適当なクッションになって、座るには具合がよかった。
「いつもここに?」
「ああ、俺の特等席だ!」
「一番眺めが良いんだって!」
セィボクが下から声を掛けた。 ルーシアは幌に寝そべって下を覗き
「セィボク、キツン、改めてお礼を言うよ! ありがとう!」
と笑顔を送った。 キツンとセィボクは、笑って親指を立てた。 そしてルーシアは体を起こして、ロウキーに振り返ると
「ロウキーも、ありがとう!」
と微笑んだ。 ロウキーは腕を頭の後ろに組み
「なんでもねーよ」
と軽く答えると、再び寝転んだ。 ルーシアはそんな彼に少し笑って
「風、気持ち良いね!」
と座ったまま、流れる風に髪を梳いた。
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